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147話


 サドネット商会がドループの街から撤退して数日後。


 街には、まるで長い嵐が過ぎ去ったかのような、穏やかで活気に満ちた日常が戻っていた。 



 小規模商店が立ち並ぶ通りでは、店主たちの威勢の良い声と、客たちの楽しげな笑い声が響き渡っている。


 ユートたちが供給した商品は市場に安定をもたらし、人々は適正な価格で、安心して日々の買い物を楽しんでいた。



「ユート様たちのおかげで、本当に助かったよ」


「ああ。これからは、俺たち自身の力で、この街を盛り上げていかねえとな」


 ユートが街を歩けば、どこからともなく感謝の声がかけられた。



 特別調査部のメンバーは、今やこの街の英雄だった。



 一方で、一度はサドネット商会に与した大手商会のギルド長たちは、苦境に立たされていた。



 彼らは襟を正し、誠実な商売を再開しようとしていたが、一度失った住人や小規模商店からの信頼を取り戻すのは容易ではない。


店先には客の姿もまばらで、冷ややかな視線を向けられることも少なくなかった。


「……仕方あるまい。我々が犯した過ちだ」



 新しくなった商業組合の会合の後、織物ギルドの長は、ライオスとユートに深々と頭を下げた。


「信頼を取り戻すには、長い時間がかかるでしょう。ですが、我々はもう逃げません。一つ一つ、地道に、誠実に商いを続けていくしかありません」



 その顔には、深い反省と、街の商人としての再起を誓う、固い決意が浮かんでいた。




 その頃、ドループを追われたギデオンは、数人の部下と共に、西の街『ゼーナ』へと続く荒野を旅していた。


 北のヘイム支店へ向かおうとしたが、道は何者かによって巧妙に封鎖されており、近づくことさえできなかったのだ。


 みすぼらしい姿で、なんとかゼーナのサドネット商会支店にたどり着いたギデオンは、支店長室の扉を蹴破るようにして中に押し入った。


「貴様! よくも俺を裏切ってくれたな!」


 怒りに任せて詰め寄るギデオンに対し、ゼーナ支店長は静かにお茶を啜りながら、冷ややかに告げた。


「商会の利益を考えるのは良い。だが、君のやり方は商いではない。ただの略奪だ。住人あっての商売だということを、君は忘れていた」


 支店長は立ち上がり、窓の外を見つめた。


「君のせいで、サドネット商会の信用は地に落ちた。今後、我々が他の街へ進出するのは、より困難になるだろう」


「当然だが……本店にも、全て報告させてもらった。君への処遇は、決して優しいものにはならないはずだ」


 その言葉は、ギデオンの完全な敗北を告げていた。



 彼は力なくその場に崩れ落ち、ただ呆然と床を見つめることしかできなかった。




 ドループの街では、本店から派遣されたライオスたち応援部隊への、引き継ぎ作業が進められていた。



「この街の小規模商店との契約は、これで達成したと見ていいでしょう。ですが、これはあくまで一時的なもの。今後は、新たに正式な取引契約を結ぶ必要があります」


 カインが、ライオスに詳細な報告書を手渡しながら説明する。



「うむ。商業組合にも、こちらから人を送り込み、うまく食い込めたようだな。上出来だ」


 ライオスは満足げに頷いた。



「ユート、お前たちはもう十分すぎるほど仕事をした。ここから先の後始末は、俺たち本店の人間の仕事だ。お前たちは、アルテナへ戻る準備を始めろ」


「はい、承知いたしました」


 ユートたちの、ドループでの任務は、終わりを告げようとしていた。



 出発の日の朝。



 一行が宿を出ると、その前には、街の商人たちや住人たちが、見送りのために大勢集まっていた。


「ユート様、本当にありがとうございました!」


「あんたたちのことは、絶対に忘れねえよ!」


「またいつでも、この街に来てください!」


 感謝と、別れを惜しむ声が、あちこちから飛び交う。



 ユートは、集まってくれた一人一人の顔を見渡し、深く、そして晴れやかな笑顔で応えた。


「この街の商いは、皆さんのものです。これからも、力を合わせて、素晴らしい街にしていってください」


 特別調査部は、万雷の拍手と感謝の声に見送られ、ドループの街を後にした。



 彼らが去った後には、サドネット商会という大きな影が消え、希望と活気を取り戻した、新しい街の姿があった。


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