表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/169

130話

 

「ユート、ハガマ殿。君たちには、これより東方面へ向かってもらいたい」


ダリウス会長は、応接室の机に広げた大きな地図を指差した。


その指が止まったのは、アルテナの東、数日間の距離にある街だった。


「このドループという街は、我がハーネット商会と、先日話に出たサドネット商会の商圏が一部重なる地域だ。特に、最近は彼らがドループでの影響力を強めようと画策していると聞いている」


ダリウス会長はユートとハガマの顔を交互に見た。

「そこでだ。君たち特別調査部には、このドループに仮の支店を構え、ハーネット商会が進出する素振りを見せて牽制をかけてもらいたい。具体的な商いは行わずとも、進出の意欲を示すことで、サドネット商会の動きを牽制し、彼らの真意を探るのが目的だ」

その言葉には、商会の勢力拡大に対する明確な意図が込められていた。


「ハーネット商会の名の下に、君たちには積極的に活動してもらいたい。定期的に連絡員を送り、指示や情報の共有を行う。何か問題があれば、すぐに私に報告するように」


ダリウス会長の指示は、多岐にわたった。

単なる情報収集だけでなく、外交的な駆け引きも含まれる、高度な任務だ。

ダリウス会長は、ハガマに目を向けた。


「ハガマ殿。今回の任務は、君たちイナホの因縁の相手であるサドネット商会が関わっている。複雑な心境であることは理解する。しかし、君たちは今、ユートが個人的に雇っているとはいえ部下としてハーネット商会に関わっている。どうか、部長のユートの指示のもと、この任務に全力を尽くしてほしい」

ダリウス会長の言葉は、ハガマの過去と現在の立場を尊重しつつも、明確な期待を伝えていた。


ハガマは、深く頷いた。

「承知いたしました、会長。ユート様の指示に従い、全力を尽くします」


ユートもダリウス会長に深く頭を下げた。

「会長、この任務、必ずや成功させてみせます」


応接室を辞し、ユートとハガマは特別調査部の執務室へと戻った。


部屋には、彼らが退出を促した調査部メンバーが、そわそわとした様子で待機していた。


ユートとハガマは、しばしの間、言葉を交わさなかった。重い沈黙が部屋に満ちる。


やがて、ハガマが静かに口を開いた。

「……まさか、これほど早く、サドネット商会と相対することになるとは思いませんでした」

彼の声には、因縁の相手との対峙に対する複雑な感情が滲んでいた。


「ハーネット商会、そしてユート様の強大な後ろ盾があるとはいえ、他のメンバーは…まだ、過去の傷を抱えています。この任務は、彼らにとって、想像以上に難しいものになるかもしれません」

ハガマは、仲間たちの心情を慮るように言った。

ユートはハガマの言葉に頷いた。


「体制を立て直したばかりのイナホに、無理強いをしてついてきてもらうつもりはありません。彼らがまだ難しいと感じるのであれば、この任務は特別調査部で対応することも可能です」

ユートは、イナホのメンバーの心を第一に考えていた。

彼らが無理をして、再び傷つくことは望まない。


しかし、ハガマは首を横に振った。

「いいえ、ユート様。我々は、あなた様にお仕えすると決めたのです。そして、サドネット商会は、我々から多くのものを奪いました。これは、我々イナホにとって、避けては通れない道です。それに……」

ハガマは、ユートの目を見て続けた。


「この任務は、我々にとって、新たな一歩を踏み出すための、そして過去を乗り越えるための、重要な機会でもあります。初めての仕事ですが、必ずや全力を尽くします」


彼の言葉には、強い決意が込められていた。

ユートはハガマの覚悟を感じ取り、深く頷いた。

「分かりました、ハガマ。では、共にこの任務を成功させましょう。頼りにしています」

二人は静かに立ち上がった。


これで、イナホのメンバーがこの任務に参加することも正式に決まった。



その後、ユートは特別調査部のメンバー全員を改めて執務室に集めた。


皆の顔には、新しい仕事への期待が色濃く浮かんでいる。

「皆、聞いてくれ。我々の次の任務が決まった」

ユートは、今回の任務がダリウス会長直々の命令であること、そしてその内容を説明した。


イナホの過去やサドネット商会との因縁については伏せ、ハーネット商会として東方面への進出を牽制し、市場調査を行うという、表向きの目的だけを伝えた。


「目的地はドループという街だ。そこに仮の支店を構え、ハーネット商会の存在感を示すのが目的となる」

ユートの言葉に、皆の間に、久しぶりの大きな仕事に対する高揚感が広がった。

「よし! やったぜ!」

リックが拳を握りしめ、ロイとレックスも興奮した様子だ。

「新しい街か! どんなものがあるんだろうな!」

「カインさん、また記録が大変になりますね!」

ミアとエマが楽しそうに話している。


「今回の任務は、全員で向かうことになる。全員で、この任務を成功させるぞ」

ユートの言葉に、皆が力強く頷いた。


「各自、自分の役割を認識し、必要な準備を進めてくれ。カイン、君はドループの街に関する情報収集と、仮支店開設に必要な書類の確認を。エマ、経費の計算と、必要物資のリストアップを頼む。ミア、馬車の整備と、輸送ルートの確認を。バルカス、ドラン、エルザ、レナータ、そして三つ子たち、お前たちは護衛として、道中の安全確保と、仮支店の警備体制の検討を頼む。セーラは、皆の補佐と、全体のスケジュール管理を。ユージーンは、街の探索と、情報収集の補助を頼む」


ユートは、それぞれの役割を明確に指示した。

メンバーたちは、自分の役割を認識し、それぞれの持ち場へと動き出した。


カインは早速、ドループに関する資料を集め始め、エマは書類を広げ、計算機を叩いている。


ミアは馬車の点検に向かい、護衛たちは武具の手入れや地図の確認に取り掛かった。

セーラはユートの傍らで、指示を書き留め、全体の調整を始めた。


ユージーンも、まだ不慣れながらも、ユートの指示に従い、街の地図を広げていた。

特別調査部は、新たな任務に向けて、活気と熱気に満ち溢れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ