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【感謝330,000pv突破】【完結】回復魔法が貴重な世界でなんとか頑張ります  作者: 水縒あわし
北方編

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129話


『ホーム』の改築が完了し、セキュリティと機能性は格段に向上した。


ユートは、情報網の本格稼働に向けて、最初の一歩を踏み出すことにする。

それは、イナホの幹部たちを『ホーム』に招き、正式に特別調査部のメンバーたちと顔合わせをさせることだった。


ユートは、サニッキを通してハガマ、スイ、ハンの四人を『ホーム』へと招いた。

昼過ぎ、彼らは約束の時間に姿を現した。


新しい応接室の入り口で彼らを迎え入れたのは、ユート自身だった。


彼らは仮面を外し、以前のような切羽詰まった様子は感じられず、どこか落ち着いた雰囲気が漂っている。


「ようこそ、こちらへ」

ユートは彼らを、新設された一階の応接室へと案内した。部屋の防音を稼働させ、外の音を完全に遮断する。


応接室には、ユートが事前に集めておいた特別調査部のメンバー全員が揃っていた。


バルカス、ドラン、レナータ、エルザ、カイン、ミア、エマ、ユージーン、そしてセーラ。


彼らもまた、新しい仲間となるイナホの幹部たちとの対面に、少しばかりの緊張と期待を抱いていた。


「皆、紹介する。彼らが、今後、我々特別調査部の情報収集を担ってくれる、イナホのハガマ殿、サニッキ殿、スイ殿、ハン殿だ」

ユートが紹介すると、イナホの幹部たちは一斉に頭を下げ深く挨拶をする。


彼らの顔には、厳しい過去の痕跡と、新たな未来への決意が混じり合っている。


特別調査部のメンバーも、一歩前に出て、それぞれ挨拶を交わす。


互いの顔と顔を合わせることで、これまで漠然としていた『情報屋』という存在が、具体的な顔を持つ仲間へと変わっていく瞬間だった。


ユートは、皆が互いに理解を深めていく様子を温かく見守り、イナホのメンバーも、特別調査部の面々が、ユート同様に自分たちを受け入れようとしていることを感じ取っただろう。


簡単な自己紹介と、今後の連携についての概要を説明した後、調査部の皆に一度席を外してもらい、ユートはダリウス会長を応接室に呼び入れた。


これが、イナホの幹部たちとハーネット商会の会長、そして特別調査部の部長が、初めて一堂に会する場となる。


ダリウス会長が入室すると、ハガマたちは改めて一斉に深く頭を下げた。



ダリウス会長も、彼らの丁寧な態度に、ただならぬ雰囲気を察したようだ。


ユートは、ダリウス会長に改めてハガマたちイナホの幹部を紹介し、彼らが今後、自分の下で情報収集を担ってくれることになった経緯を簡潔に説明した。


ハガマもまた、自身の口から、かつてのレーアンとして経験した苦難と、ユートに助けられ、今ここにいる経緯を、簡潔に報告した。



ダリウス会長は、ハガマたちの話を聞き終え、腕を組んだ。その表情は、普段の穏やかさとは異なり、真剣なものだ。


「なるほど…そのような過去があったとは。しかし、生き延び、そしてユートに託したと…」

ダリウス会長はそう呟き、一つ息を吐いた。


そして、ハガマの言葉から、ある重要な事実に気づいたようだった。


「待て。君たちを追っていた一団…その詳細を改めて聞かせてもらえないか?襲撃の様子、組織の特徴など…」

ダリウス会長が尋ねると、ハガマは詳細を語った。


襲撃してきた者たちの特徴、彼らが使用していた武器、そして何より、彼らを雇っていた組織に関する情報だ。


ハガマの話を聞くにつれ、ダリウス会長の顔色が変わっていった。


そして、彼は信じられないといった様子で、一つの名を口にした。

「…サドネット商会…だと?」


ダリウス会長は、ユートとハガマに顔を向け、説明した。


「サドネット商会は、隣の地方を本拠地とする、比較的規模の大きな商会だ。我々ハーネット商会とは、これまで直接的な競合は少なかったが、ごく稀に、特定の品目で商圏が被り、取引先を奪い合うようなこともある。特に最近は、彼らがアルテナ方面に勢力を拡大しようと画策しているという噂を耳にしていたが…」


まさか、ハガマたちイナホを執拗に追っていた相手が、ハーネット商会とも無関係ではない、別の商会だったとは。


単なる情報屋と裏社会の争いでは済まされない。


これは、ハーネット商会にとっても、看過できない問題だ。


ダリウス会長は、深く頷いた。そして、ユートとハガマに、明確な指示を出した。


「ユート、ハガマ殿。これより、特別調査部の新たな最優先任務として、サドネット商会に関する情報収集を行うように」


ダリウス会長の表情は、いつもの商会の会長という顔に戻っていた。

「サドネット商会が、なぜレーアンを、いや、今のイナホを狙っていたのか。彼らの具体的な目的、活動範囲、そして、本当にアルテナ方面への進出を企んでいるのか…あらゆる情報を集めるんだ」


ダリウス会長は、この件は商会の存続にも関わる重要な問題だと認識していた。

「イナホの皆さんが過去に経験した苦難は、決して無駄にはしない。彼らを追っていた相手が我々の商圏にまで接近しているとなると、対策を練る必要がある。そのための情報が、君たちから得られることに期待している」


ユートはダリウス会長の指示に、身が引き締まる思いだった。


今回の件は、個人的な義侠心から始まったイナホの保護が、まさか商会全体を左右するかもしれない、重要な情報戦へと発展するとは。


だが、これもまた、ユートがこの世界で担うべき役割なのだろう。


「承知いたしました、会長。イナホと共に、サドネット商会の情報を徹底的に集めます」

ユートは答えた。


ハガマも、静かに、しかし力強く頷いた。


かつての敵対者が、再び目の前に姿を現そうとしている。


だが、今、彼にはユートと、その背後にあるハーネット商会という、強大な後ろ盾がいる。


ダリウス会長、ユート、そしてハガマ。


三者の間で、サドネット商会に対する情報戦の号令が下された。

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