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128話


イナホを迎えて特別調査部の新たな日常が始まった。


日中は、ダリウス会長から依頼される近隣への輸送任務や、商会内の地味ながらも重要な仕事を着実にこなす。

夜間や任務の合間には、イナホと名付けられた情報屋集団のための準備が同時並行で進んでいく。


裏通りの倉庫は、イナホのメンバー自身の手で、寝泊まりできる最低限の環境が整えられ、彼らの拠点として機能し始めた。


ユートは定期的に倉庫を訪れ、食料や日用品を補充している。



そして、街中の一等地に確保したハーネット商会名義の物件。


ここは『窓口』と名付けられ、イナホのメンバーが常に数人待機する場所となった。

表通りに面しているため、人々の出入りも自然で、不審な目を引くこともない。


ユートは、都度、窓口に顔を出し、イナホのメンバーに情報収集を依頼する。

今は、比較的治安の良いアルテナ近郊の町に限定して情報を集めさせている。


イナホのメンバーは、人混みに溶け込みながら、巧みに情報を集めてくる。


彼らが集める情報は多岐にわたる。

他の商会の動向、商品の流通状況、流行の兆し、そして街の住人たちの間で囁かれる些細な噂話。

表面的な情報だけでなく、水面下で動いているような、より深い情報も徐々に集まるようになってきた。



集めた情報は、ユートが全て目を通し、分析し、まとめている。

そして、重要なものはダリウス会長に定期的に報告を行った。



「会長。今回の情報です」

ユートがダリウス会長に報告書を提出すると、会長は興味深そうにそれを受け取る。


「ほう…この商品の流行の兆しは、我々の情報網ではまだ確証を得れなかったが……それに、この商会の動き…確かな情報だ」

ダリウス会長は、イナホから得られた情報の正確性と、その高い網羅性に感心しているようだった。


ハーネット商会の既存の情報網と比べても、イナホの情報は鮮度が高く、時には裏社会の動きまで含んでおり、会長からの評価は非常に高かった。


「素晴らしい情報だ、ユート。君が導入したこの情報網は、商会にとって大きな戦力になっている」

ダリウス会長は、ユートの行動力を改めて称賛した。



ユートは、そうした情報収集活動の傍ら、イナホからの情報を元に、小規模な商いも行っていた。


特定の商品の需要が高まりそうな情報を掴むと、ユートがインベントリの無限収納を活用して仕入れを行い、イナホのメンバーに売却を依頼する。



彼らが市場に流すことで、活動資金を効率的に貯めていく。

これで、イナホ自身の活動資金を賄うだけでなく、彼ら自身の能力を実地で鍛える訓練にもなっていた。


そんな充実した日々が続いていたある日、エレナから連絡が入った。


「ユート!改築が終わったよ!いつでも見に来てくれ!」

エレナの声は、心底嬉しそうだ。


ユートは、その知らせに胸を躍らせながら、すぐに『ホーム』の執務室から増築現場へと向かった。


現場に着くと、エレナは満足げに腕を組み、ニヤニヤしている。他の制作部員たちも、何やら自信ありげな顔をしていた。


「さあ!見てくれよ、私がどれだけ気合を入れたか!」

エレナはそう言って、ユートを『ホーム』の増築部分を案内した。


『ホーム』の既存の建物と繋がるように増築された一階部分には、新たな部屋が完成していた。


外からは窓一つない、シンプルな壁にしか見えない。

エレナの設計図通り、外部からは一切アクセスできない、完全に『ホーム』の内部からしか入れない作りだ。


ユートは部屋の中へ足を踏み入れた。

中は、執務室と同じように、シンプルながらも洗練された空間が広がっている。


机と椅子、応接セットが置かれ、まるで独立した小さな執務室のようだ。


「ここが、お前が言ってた、特殊な客人との応接室兼、秘密の拠点だ」

エレナは得意げに言った。


「ユートの執務室と同じ防音加工も施してあるし、万が一、中にいる人物と何かを話しても、外には一切漏れない」


ユートは壁に触れてみた。


ひんやりと、そしてしっかりと作られた壁からは、外部の音は全く聞こえてこない。

自身の執務室と同じ、完璧な防音だ。



これで、イナホのメンバーと秘密の情報を共有する際も、盗聴の心配はほとんどないだろう。


「そして、これだ!」

エレナはユートを部屋の外へと連れ出し、『ホーム』の建物周辺へと案内した。


「ホームの建物全体に、感知式の魔法陣を張り巡らせておいたよ!私が作った、新しい応用型だ!」

エレナは、壁や地面に埋め込まれた、目に見えない魔法陣について説明した。


「範囲内に入ってきたら、特定の感知石が反応して、私の工房と、警備室に警報が鳴るようにしておいた。誰が近づいてきたかまでは特定できないが、不審者がいればすぐに分かるだろう」

エレナは、ユートが最初に求めていた、警報装置としての魔法陣を、完璧な形で実現してくれたのだ。


「感知範囲は、ホームの敷地全体…いや、少しオーバーラップするくらいの範囲だ。これで、外から近づいてくる不審者は、まず感知できる」


ユートはエレナの説明を聞き、その完璧な設計と機能に感銘を受けた。


「エレナさん…本当に、ありがとうございます!」

ユートは心からの感謝を伝えた。エレナの技術力は、彼の想像を常に超えてくる。


「いやー、いいってこと!私もいい実験ができたからな!」

エレナは満足げに笑った。


「制作部の皆さんも、ありがとうございました。本当に助かりました」

ユートは、エレナの部下たちにも頭を下げて感謝を伝えた。


『ホーム』の改築が完了し、セキュリティと機能性が格段に向上した。


情報網の構築、拠点の整備、そして『ホーム』の強化。ユートの計画は、着実に、そして順調に進んでいた。

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