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127話


倉庫での夜は、ユート達三人で警備に当たりレーアンの皆には休んで貰う事になった。



レーアンのメンバーたちは、新しい拠点での最初の夜を落ち着いて過ごしている。


移動もあり疲労困憊しているはずだが、ユートたちが警備しているという安心感からか、皆穏やかな眠りについているようだった。


バルカスとドランは、目の前で起きた出来事がまだ飲み込めない様子だったが、ユートの傍らで黙々と警備任務を遂行した。


朝になり、ハガマに声をかけてから、ユートたちは倉庫を後にし、『ホーム』へと戻った。


三人は朝食を済ませた後、任務を終えたことによる安堵感からか、そのまま昼過ぎまで休息を取った。


昼過ぎに起きてくると、ユートは改めて特別調査部の全員を『ホーム』のリビングに集めた。


皆に、昨夜、倉庫で何が起きたのか、そして、今後の特別調査部とレーアンの関係について、しっかりと説明する必要があるからだ。


ユートは、皆が揃ったところで、昨夜の出来事の一部始終を説明した。


レーアンの一団が倉庫に無事到着したこと。


そして、彼らがユートに、レーアンとしてではなく、新たな組織として自身についていくことを決意したこと。


「これから彼らは、私、ユート個人についてきてくれる。彼らが持つ情報収集の能力を、特別調査部の活動に活かしたい」


ユートは、レーアンを商会が雇うのではなく、自分個人が雇うという形になることを説明した。


これは、ダリウス会長にも許可を得ている。



突然の展開に、皆は驚きつつも、ユートの話を真剣に聞いていた。


自分たちの部長が、情報屋組織を、文字通り配下に加えたのだ。

その重要性と、これから特別調査部の活動が大きく変わることを理解したようで、少しの緊張と、そして期待が入り混じった表情をしていた。



説明を終え、皆の理解を得ることができたユートは、新たな仲間を迎えるための準備に取り掛かることにした。

彼らは長い潜伏により困窮生活を送っていたのだ。

栄養のあるものを食べさせてやりたい。


午後の早い時間、ユートはセーラと共に街へ出かけ、大量の食材を買い込んだ。


複数の場所から様々な種類の食材を集める。肉、魚、野菜、果物、パン、それに調味料など。


これで、彼らを温かく迎え入れ、しばらく食料に困らないようにできるだろう。

インベントリのおかげで、大量の食材も鮮度を保ったまま持ち運べる。


買い物を終えたユートは、セーラに一度ホームに戻るように頼み、自身はユージーンを伴い、再びあの倉庫へと向かった。


夜ではないので、護衛はユージーン一人で十分だ。


倉庫に到着すると、ハガマやサニッキ、そして他のレーアンのメンバーたちが、まだ倉庫の中で片付けなどをしていた。


皆、以前より顔色が良くなったように見える。



「ユート殿。わざわざお運びいただき、ありがとうございます」

ハガマがユートを出迎えてくれた。


他のメンバーも一斉に礼を言う。



ユートはインベントリから大量の食材を取り出し、倉庫の中に並べていった。


テーブルの上に積み上げられた食料を見て、レーアンのメンバーたちは驚きと喜びの声を上げた。


「これは…こんなにたくさんの…」

ハガマも驚いている。


「まずは皆で、ゆっくりと美味しいものを食べてください。これから一緒に活動していくにあたって、皆の健康が第一ですから」

ユートは言った。


食料を渡した後、ハガマがユートに、一つ相談を持ちかけてきた。


「ユート殿。我々レーアンは…昨日、あなたについていくことを決めました」

ハガマはそう言って、皆を見回した。メンバーたちの視線も、ユートに注がれている。


「我々は…もう、かつて名乗っていた『レーアン』として活動する必要はないと考えています。追手も、もはやレーアンを追うことはなくなるでしょうし…何よりも、我々はユート殿の配下となるのですから」


ハガマは少し迷いながらも続けた。

「そこで…勝手なお願いで恐縮なのですが…もしよろしければ…新たな名を与えてはいただけないでしょうか」



ユートは、ハガマの申し出に少し驚いた。


新たな名前。それは、彼らが過去のレーアンから完全に離れ、ユートと共に新しい道を歩むという決意の表れだろう。

彼らの決意を受け止めたからには、その願いを叶えてやるべきだ。


新しい名前。どのような名前が良いだろうか。


ユートは、日本の風景を思い出していた。


収穫期の黄金色の稲穂。



それは、豊かな実りと、人々の生活を支える大切な存在だ。


レーアンは、情報という、この世界の基盤となるような大切なものを扱っている。


そして、これからユートの、そしてハーネット商会の活動に、豊かな実りをもたらしてくれる存在となるだろう。


そして、今まさに、過去の困難を乗り越え、新たな地で根を張り、成長しようとしている。


その姿は、故郷の稲穂のように、力強く、頼もしい。


ユートは、彼らにふさわしい名前だと直感した。


「新たな名前…それなら…『イナホ』はどうだろうか」


ユートは、思いついた名前を口にした。


ハガマと、他のメンバーたちは、その響きに耳を澄ます。



イナホ



この世界では聞き慣れない言葉だろう。


ユートは、その名前に込めた意味を説明した。


「私の故郷の言葉で…豊穣の象徴だ。これから、皆が、情報という実りを…この世界にもたらしてくれるように、という願いを込めて。そして、困難を乗り越え、ここから新たな芽を出し、大きく成長していって欲しい、と」



ハガマは、ユートの説明を聞き、そして、その名前に込められた意味を感じ取ったのだろう。


仮面を外し、その表情を見せている彼が、感動したように目を見開き、頷いた。



「イナホ…豊穣の…そして、成長の…なんと、素晴らしいお言葉…」


ハガマは、ユートに向かって、改めて深く頭を下げた。

他のメンバーたちも、静かに、しかし感謝の念を込めて、頭を下げる。


「これより…我々は、『イナホ』と名乗らせていただきます。ユート殿…新たな名を…感謝いたします!」


こうして、情報屋集団レーアンは、その名を捨て、ユートの配下として、『イナホ』という新たな名で、この異世界に根を下ろすことになった。


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