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123話


ユートは、見つけた物件情報の紙を手に、老人に確認した。

「この物件について、一度商会の他の職員と確認を取りたいのですが、よろしいでしょうか?」


「構いませんよ。必要な確認はなさってください」

老人は快く了承してくれた。


ユートは、いつまでこの情報を預かっていただけるか、そして、正式な返事をするために改めていつ訪ねるべきかを尋ねた。


「それでは、明後日の午前中に改めて訪ねさせていただきたいのてますが。よろしいでしょうか?」

ユートは老人の都合を気遣った。


「ええ、問題ございません。またお待ちしておりますよ」

老人は快く承諾してくれた。


ユートは老人に改めて深々と頭を下げて礼を言い、エマ、レナータと共に民家を後にした。


老人の家を出た後、三人は拠点探しに出ている他のメンバーと合流するため、倉庫へと戻った。

倉庫では、バルカスたちがまだ掃除や、家具の目星をつける作業を続けている。


「ただいま、皆。拠点探し、少し進展があったぞ」

ユートが皆に声をかけると、皆の顔が期待の色を帯びた。


ユートは、老人の元に行った事、そして、商会名義で借りるのに最適な物件を見つけたことを話した。


「特に、エマとレナータが、困っている人を助けたことがきっかけで、こうして思わぬ形で良い物件が見つかったんだ。二人のおかげだよ」


ユートは、エマとレナータの功績を皆の前で称賛した。

二人は少し照れていたが、自分たちの行動が皆の役に立ったことを嬉しく思っているようだった。


ユートは、手に入れた物件情報の紙を皆に見せながら、物件の立地や間取り、条件について説明した。


皆もその情報に目を通し、意見を交わしながら、商会名義の拠点として問題ない物件であることを確認する。


バルカスやレナータは、周辺の警備のしやすさについて意見を述べ、カインやエマは、来客があった際の導線や、書類管理の効率性について話し合っていた。


「これで、商会名義で借りる場所は、ほぼ決まりだ。明日、改めてあの老人と会って、正式に話を進める」

ユートは皆に報告した。


これで、拠点確保の大きな一歩を踏み出したことになる。


皆もそれに安堵し、喜んだ。



倉庫での作業を終え、皆で商会に戻る。



ユートは手に入れた物件情報と、今回の経緯について、ダリウス会長に報告するため、会長室へ向かった。


ダリウス会長は、ユートの報告を聞き、特に、エマとレナータの善行が思わぬ幸運に繋がったことに感心していた。


「やはり、普段からの行いが大切ということだな。部下の善行が、巡り巡って商会に利益をもたらす…これも、特別調査部が商会にもたらす良い影響だろう」

ダリウス会長はユートを褒め、物件情報の紙を確認した。


「この物件なら、立地も値段も、問題なさそうだ。君たちの判断を信頼しよう。正式な手続きを進めなさい」

ダリウス会長は物件の購入をその場で許可してくれた。




その夜、ユートはユージーンを伴い、再び裏通りの酒場へと足を運んだ。


物件の目処が立ったこと、そして、いよいよレーアンを新しい拠点に迎える準備が整いつつある事を、彼らに伝える必要があるのだ。



酒場のカウンターに座り、酒を注文する。


サニッキが彼らの前にやってくる。お互い、直接的な言葉は使わない、遠回しな会話が始まる。


「…ペットのことなんだが…最近、彼らの家を探しているのは知ってるよね? いくつか候補が見つかったんだ」

ユートは、拠点探しが進んでいることを匂わせた。


サニッキは、ユートの言葉を聞いて、何かを察したのだろう。その表情は変わらないが、目の奥に僅かな光が宿る。


「それは…彼らにとって、大変喜ばしい知らせでしょう。居場所ができるということは、安心に繋がりますから」


サニッキは、レーアンの現状について、こちらも遠回しに伝えてきた。

「我が家のペットたちは…まだ、新しい環境には馴染んでいないようで。外に出るのも控えている状況です」

つまり、彼らはまだ身を隠しており、本格的な活動は再開していないということだ。


ユートが彼らに「身を隠すことを優先してほしい」と伝えたメッセージを守っているようだった。


ユートは、彼らに居場所が見つかりそうだという情報をさらに具体的に伝えた。

「二箇所…見つけることができそうでね。一つは、少し表の、賑やかな場所だ。もう一つは…もう少し隠れた落ち着いた場所だ。どちらも、彼らにとって良い環境になると思っている」


「それは…素晴らしいことです。彼らも、きっと喜ぶでしょう」

サニッキは、ユートが二箇所の拠点を確保しようとしていることを理解したようだ。


表向きの場所と、隠密な場所。


ユートは、今回の訪問で一番伝えたかったことを、サニッキに託すことにした。

「それで、なんだが…もし今夜、彼らに会うことができるかい? 訪ねてきてほしいんだが」


レーアンに、手に入れた拠点について話したい。

今夜、彼らに会って、その意思を伝えたいのだ。


サニッキはユートの言葉を聞いて、一瞬考え込んだようだった。そして、小さく頷いた。

「…分かりました。確認してみましょう」



ユートは、一通りの会話を終え、酒場を後にした。

ユージーンと共に夜のアルテナを歩きながら、今夜、レーアンが会ってくれるかどうかを待つ。



深夜。ホームの応接室で、ユートとユージーンは静かに待っていた。



約束の時間はない。



だが、サニッキが「今夜会えるか」と確認してくれたからには、来る可能性がある。


緊張が走る中、応接室の扉が、静かに開いた。


姿を現したのは、仮面を纏った二人の人物だった。


スイと、ハンだ。


ハガマはいないようだ。


「…ハガマ殿は…」

ユートが尋ねると、スイが答えた。


「ハガマは、諸事情により本日は参れませんでした。申し訳ございません」



ハガマもサニッキもいないのか…しかし、彼らの部下二人がここに来てくれたということは、ユートの申し出について、レーアンとして何かしら検討し、返答するために来たのだろう。


「分かりました。ハガマ殿にもサニッキ殿にも、改めて感謝を」


ユートはスイとハンを部屋の中に招き入れ、ソファへ座るよう促した。


ユージーンも警戒態勢を少し和らげながら、彼らの傍らに控える。


三人でソファに腰掛けた彼女らに、ユートは話を始めた。


「まず、近況は…そちらの皆さん、怪我をされた方々の容体などは、落ち着いてきましたか?」

ユートは彼らの状況を気遣った。


スイとハンは、顔を見合わせた後、頷いた。

「…おかげさまで、先日の支援のおかげで…命に関わる者は、もうおりません。容体も、安定しております」


やはり、あの時のハガマへの回復魔法と、その後の医療品が、彼らを救ったのだ。



「それは、何よりでした」

ユートは安心した。彼らを助けられたことに、改めて喜びを感じる。


そして、いよいよ本題に入る時だ。

ユートは、手に入れたばかりの隠密な拠点について、彼らに伝えることにした。


「それで…本日は、あなた方に一つ、ご報告したいことがありまして。実は…あなた方が、街中で安全に活動できる場所を一つ、確保することができました」


ユートは、裏通りの倉庫を手に入れた事を簡単に説明した。

そして、レーアン達を迎え入れる準備を進めていることも伝えた。


「もしよろしければ、明日、その場所を見に来ていただけないでしょうか? 今後の、あなた方の活動拠点として、提供できないかと考えております」


ユートの言葉に、スイとハンは仮面の下でどのような表情をしているのか分からないが、その身体から微かに動揺の気配が伝わってきた。


活動拠点を確保する、というユートの言葉は、彼らにとって、想像以上に早い展開だったのだろう。


そして、それが無償で提供される、という事実は、彼らにとって大きな驚きだったに違いない。


拠点探しが進んでいること、そして、具体的な場所まで見つけ、それを彼らに提供しようとしていること。


ユートの本気度が、彼らに伝わっただろう。

彼らの返事が、特別調査部とレーアンの、今後の関係性を決定づける。


静寂な応接室で、ユートはスイとハンの反応を待っていた。


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