120話
老人から倉庫の権利書を受け取ったユートは、すぐさまダリウス会長のもとへ向かうことにした。
この幸運な出来事と、手に入れた物件について報告するためだ。
傍らにいたエマとレナータに、先に『ホーム』に戻り、早速、倉庫に出かける準備をしてもらうように伝えた。
今日の幸運は、彼らの日頃の行いが招いたものだ。
「エマ、レナータ。ありがとう。二人の優しさが、思わぬ形で報われたな」
ユートは心から感謝を伝えた。
二人は少し照れたように微笑んだが、自分たちの行動が役に立ったことを嬉しく思っているようだった。
ユートの指示通り、『ホーム』に戻り、午後の見学に向けた準備に取り掛かった。
ユートは手に権利書を持ち、ダリウス会長の執務室へと向かった。
会長に今回の事情を説明し、レーアンが使用する可能性のある拠点として、この倉庫を活用したい意図を伝えなければならない。
会長室に入り、ダリウス会長に改めて挨拶をした後、ユートは今回の出来事の一部始終を説明した。
エマとレナータが倒れていた老人を助けたこと、その老人から無償で街の物件を譲ってもらったこと。
ダリウス会長はユートの話を静かに聞いていた。
老人が譲ってくれたのが、まさに彼が欲していた「裏通りの、隠密な活動に適した場所」であったことに、少し驚いた様子を見せた。
「まさか、そのような形で…幸運だったな。いや、君たちの部下が、普段から善行を積み重ねていたからこそだろう」
ダリウス会長は感心したように言った。
ユートは、手に入れた倉庫の権利書をダリウス会長に渡した。
そして、この物件の活用方法について説明した。
「この倉庫ですが…商会名義で借りる場所とは別に…『予備の予備』のような場所として、活用できないかと考えております」
レーアンが拠点として使用するための場所として、商会名義で借りる場所を優先的に探す。
だが、この倉庫も、もしもの時のための隠れ家や、秘密裏の活動の際に使える場所として、確保しておきたい。
ユート個人名義で権利書を受け取ったのは、そのためだ。
「レーアン…情報屋との件ですが、もし彼らと正式に協力関係を結ぶことができた場合、彼らが活動するための場所が必要になります。彼らは追われている身でもありますから、隠密性が重要になります」
ユートは、レーアンの現状を改めて伝え、隠密な拠点の必要性を訴えた。
ダリウス会長は頷き、ユートの考えを理解したようだ。
「なるほど。リスクを分散させる意味でも、『予備の予備』として確保しておくのは悪くない考えだ。隠密な活動を行う上で、こういった場所は必要になるだろう」
ダリウス会長は、譲ってもらった倉庫をユート個人名義で保有し、レーアンとの活動に活用することについて、許可を与えた。
ただし、引き続き情報の共有や、危険性の排除については念を押された。
「ありがとうございます、会長」
ユートは感謝を伝え、会長室を後にした。
これで、二つの拠点を確保するための準備が出来たことになる。
一つは、商会名義で正規に探す場所。
もう一つは、この幸運な出来事で手に入れた、ユート個人名義の裏通りの倉庫。
会長への報告を終え、ユートは『ホーム』に戻った。
午後になり、特別調査部のメンバーは、それぞれ拠点探しの準備を整えた。
ユートも、手に入れた倉庫の場所を皆に見せるため、残っているメンバーと共に倉庫へ向かうことにした。
地図を片手に、裏通りを進んでいく。
アルテナの表通りとは違い、人通りはまばらで、建物も古びているものが多い。
時折、怪しげな視線を感じることもあるが、これは裏通りでは日常茶飯事だ。
皆で地図を見ながら、目的地を探す。
しばらく歩くと、目的の倉庫が見えてきた。
思っていたよりも大きな建物だ。
外観は古びているが、造りはしっかりしているように見える。
扉を開けて、皆で中に入ってみる。
中は埃っぽく、長く使われていなかったことが伺える。
だが、広さは十分にある。
これなら、簡単な改装をすれば、十分拠点として活用できるだろう。
表通りから離れていて、入り組んでもいる。
隠密性も高く、まさにレーアンが活動するのに適した場所だ。
「ここが、先日、あの老人から譲ってもらった倉庫だ」
ユートは皆に紹介した。
「広いですね!」
エマが目を輝かせた。
倉庫の広さは、輸送部員である彼女にとっては見慣れた空間だろう。
「思ったよりしっかりした造りですね」
バルカスも、護衛の視点から建物を評価した。
「ここを、少し綺麗にすれば…」
レナータが、片付けや改装のイメージを膨らませているようだ。
ここを拠点として活用するためには、まず掃除と整理が必要だ。
全員で手分けして、倉庫の中の片付けに取り掛かることにした。
舞い上がる埃と格闘しながら、古びた荷物や瓦礫などを運び出す。
大変な作業だが、皆で協力して行うことで、少しずつ倉庫の中が綺麗になっていく。
拠点探しの新たなスタート、そして幸運な形で手に入ったこの場所をうまく活用していきたい。




