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【感謝330,000pv突破】【完結】回復魔法が貴重な世界でなんとか頑張ります  作者: 水縒あわし
北方編

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119話


ホームの改築工事が始まってからも、拠点探しは続いていた。


エレナ率いる制作部員たちが建物の拡張に取り掛かる中、調査部の六人は、毎日街に出て、使えそうな物件を探し回っている。


暑い日差しの中、彼らは汗を流しながら街中を歩き続けた。



そんなある日、エマとレナータが、裏通りに近い場所で倒れている老人を発見した。


慌てて駆け寄り、体を支え起こす。

意識を失っているようだ。


「レナータさん、大丈夫ですか?」

エマが心配そうに声をかける。


「意識はありませんが、息はしています」

レナータは落ち着いた様子で老人の脈を確認した。


たまたま近くにいたバルカス達が合流してくれた。


「どうした!?」


「倒れておられました!」



迅速に老人の簡単な手当を行う。

水を飲ませたり、顔を拭いたり。

やがて老人は意識を取り戻した。



話を聞くと、貧血か何かでふらついて倒れてしまったらしい。

怪我はなさそうだが、まだ立つのが辛そうだ。


「おじいさん、大丈夫ですか?お家までお送りしますよ」

バルカスが優しく声をかける。


老人は感謝し、彼らに家まで送ってもらうことにした。

家は裏通りにある、ごく普通の民家だった。



家に着いて、老人は改めて感謝の言葉を述べた。

そこで、彼はエマたちに何をしていたのかと尋ねた。


「この街で、自分たちが活動に使える部屋や建物を探しているんです」

エマが正直に答えた。

商会名義の物件も探しているのだから、嘘ではない。


老人はその言葉を聞いて、何か考え込んだ様子だった。

だが、特にそれ以上の質問はせず、再び感謝を述べた。


数日後、ハーネット商会に身なりの良い老人が尋ねてきた。


ハーネット商会の者に、「先日助けてもらった者だが、お礼をしたい」と伝えたらしい。

屋敷に案内され、その老人はユート、そして助けたエマとレナータを呼び出した。


「この度は、先日は我が身にお心をかけていただき、誠にありがとうございました。おかげで、命拾いいたしました」

老人は丁重に頭を下げて礼を述べた。


ユートは、エマたちを代表して答えた。

「いえ、皆、当然のことをしたまでです。ご無事で何よりでした」


老人は、改めて三人に感謝の意を述べた後、懐から大量の紙束を取り出し、ユートに差し出した。


「これは…?」


「街の物件情報です。私も若い頃は少しばかり不動産業をやっておりましてな。街中には使われず仕舞いになっている建物も結構ありましてな。ここに載っている物件の中から、お好きなものを…一つ、ただでお譲りいたしましょう」


老人の言葉に、ユート、エマ、レナータは目を見開いた。

無償で物件を提供するという申し出に、心底驚いたのだ。


受け取った紙束には、街の様々な場所の物件情報が載っている。


表通りの空き店舗、裏通りの民家、倉庫など。情報の正確さと詳細さは、かつて不動産業に携わっていたという言葉を裏付けている。


ユートは、その中から一つの物件を選んだ。


それは、彼らが探し求めていた条件に最も近い物件だった。



裏通りにあり、あまり人通りのない、隠密な活動に適した場所にある古びた倉庫。


ユートがその物件を指差し、「ここを、譲っていただけますか?」と言うと、老人は少し意外そうな顔をした。


表通りの、もっと綺麗で便利な物件もたくさん載っていたからだろう。


「本当に…本当に、ここでよろしいのですかな?もっと良い物件もございますが…」


「はい。ここが良いです。私たちの活動には、ここが一番適していますから」


ユートは、活動拠点として、ここが最も適していると考えた。


隠密性が高く、いざという時に逃げやすい場所。裏通りというのも好都合だ。


老人はユートの言葉を聞き、頷いた。

「そうですか…貴方方のお役に立てるなら、結構です。それでは、この物件は貴方にお譲りいたしましょう」


そして、老人はユートに手を差し出した。ユートは、その手に自身の温かい手を重ねた。


「本当に、ありがとうございました」

ユートは心から感謝を込めて言った。


「貴方方には命を助けていただきましたからな。これくらい、安いものです」

老人はにこやかに答えた。


思いがけない形で、理想の拠点が手に入った。しかも、無償で。

これは、エマとレナータが困っている人を助けたことに対する、偶然の幸運だろう。


これで、レーアンを迎えるための、秘密裏の活動拠点の目処が立った。


あとは、この建物を改修し、安全な場所にするだけだ。


老人はハーネット商会を後にした。ユート、エマ、レナータは、手に入れた物件の情報が載った紙を見つめ、新たな活動拠点が思い掛けず他に入ったことに喜んだ。

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