118話
エレナは興奮した様子で、大きな設計図を広げていた。
「ユート!!さあ、できたてホヤホヤの設計図だ!見てくれ!」
エレナは設計図を指さしながら、ユートに話しかけてきた。
どうやら、『ホーム』の増改築の設計図がほぼ完成したらしい。
ユートは設計図を見せてもらいながら、エレナから説明を受ける。
細部にまで渡って緻密に書き込まれており、さすがエレナの手腕だ。
「まず、一階の増築部分だ。場所は、今のホームの入り口とはちょうど反対側。一番目立たなくて、屋敷の敷地の奥の方に近い場所を選んだ」
エレナは設計図のその部分を示した。
ホームの建物の既存の壁に沿って増築され、屋敷の敷地と、外部の壁の間、目立たない場所に部屋が増える予定だ。
「そして、入り口はここだ」
エレナが指差した場所は、外部に面している壁ではなく、ホームの既存の建物内部に面した壁だった。
「外部から直接入れるようにはなっていない。つまり、この部屋に入れるのは、必ずホームの内部から、この扉を通ってだけだ」
エレナは得意げに説明する。
完全に室内からしかアクセスできない作り。
これは、機密性を重視した結果だろう。
外部の人間が直接ここに入ってくることはできないし、もし何か問題が起きたとしても、ホームの内部で食い止めることができる。
「ここなら、特殊な客人を招く際も、外部の目を気にする必要はほとんどないだろう?セキュリティもばっちりだ」
エレナはユートの意図を完全に汲み取った設計にしてくれたようだ。
「あとは、この部屋の壁に防音と耐衝撃の魔法を仕込んで…換気システムにも、空気の流れで気配が漏れないような魔法的な仕掛けを施す予定だ」
エレナは具体的な魔法的な処理についても説明を加えた。
壁の強化や、隠密性を高めるための工夫が随所に凝らされている。
「正直、ユートからは具体的な案はあまり聞かされていなかったけど…どういう場所を必要としているのか、私なりに想像して設計してみたんだ。どう?イメージに近いかい?」
エレナは少し心配そうな顔で尋ねた。
ユートからは、場所の条件など、大雑把な希望しか伝えていなかったのだ。
ユートは、設計図に目を通しながら、そしてエレナの説明を聞きながら、感動していた。
自分が漠然と考えていた理想の場所に、限りなく近い設計になっている。
いや、自身の想像を遥かに超えるほど、緻密に、そして機能的に設計されていた。
「エレナさん…凄い…!」
ユートは思わず、感嘆の声を漏らした。
「僕がが考えていたものよりも、ずっと…ずっと素晴らしい設計です!まさに、求めていた場所のイメージに、ぴったりです!」
外部からは隔絶され、ホームの内部からのみアクセス可能。
それでいて、セキュリティと隠密性が確保された応接室。
情報屋等を招く場所として、これ以上ないほど理想的な場所だ。
エレナはユートの反応を見て、嬉しそうに笑った。
「だろー?やっぱり私の設計は最高なんだよ!ユートが面白そうなこと考えてると思ったから、気合入れて設計したんだ!」
エレナの魔法技術と、ユートの要求が、見事に合致した瞬間だった。
改築は、すぐに工事が始まるらしい。
これで、改築が、いよいよ現実のものとなる。




