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116話


皆が魔法陣の光るイタズラに驚き、感心した後、拠点探しに出かけていた六人から報告を受ける。

バルカスが、六人を代表して今日の成果を説明してくれた。


「ユート部長。本日は、拠点探しに一日を費やしましたが…残念ながら、めぼしい物件は、まだ見つけられておりません」

バルカスは少し申し訳なさそうに報告した。


「やはり初日では、なかなか難しいだろう。気にしなくていい」

ユートは当然の結果だと思い、特に落胆はしなかった。

拠点探しは、時間のかかる根気のいる作業だ。


「何か、不審なことや、気になる点はなかったか?」

ユートは、単に物件が見つからなかったことよりも、道中や街の様子、自分たちの行動が誰かに監視されていたりしないかを心配していた。



バルカスや他のメンバーは顔を見合わせたが、特に異常は無かった様子だ。

カインやレナータも、警戒しながら街を回ったようだが、怪しい気配などは感じなかったと首を振った。

ユージーンも何も感じなかったようだ。


「そうか…特に問題はなかったか。それなら良い。今日のところは、これで解散とする。また明日から、拠点探しを頼むぞ」


ユートは、皆の無事と異常がないことを確認し、安心した。


拠点探しの報告が終わり、皆がそれぞれの持ち場に戻ろうとした、その時だった。


コンコン。


執務室の扉がノックされた。また誰か来たのか?


扉を開けると、総務部の使いの者が立っていた。


「失礼いたします。ユート部長に、ダリウス会長よりお呼び出しです」



ダリウス会長からの呼び出し。

何か緊急の用事だろうか。時間を見ると、もう夜遅い。


ユートは皆に、「会長に呼ばれたから、行ってくる」と伝え、一度ここで解散することにした。拠点探しの六人も、今日のところはもう遅いし、無理はさせられない。


「分かりました」

バルカスたちが頷き、ユートは総務部の使いの者と共に、ダリウス会長の執務室へと向かった。


会長室に入ると、ダリウス会長は、先ほどとは違う、どこか厳しい表情でユートを待っていた。何か問題が起きたのだろうか。



ダリウス会長は、ユートに座るように促すこともなく、直接的に話を切り出した。


「ユート。明日朝一番で、輸送を頼みたい」


急な輸送任務。しかも、明日の朝一番とは。

よほど急ぎの荷物なのだろう。


「はい、会長。承知いたしました」

ユートはすぐに引き受けた。

特別調査部として、緊急時には対応できるよう、常に準備はできている。



「行き先は、特に治安は悪くない町だ。護衛もそれほど手厚く無くても大丈夫だろう、ただし急ぎだ」


ダリウス会長の言葉に、ユートは誰を派遣すべきか、頭の中でメンバーの顔を思い浮かべた。


拠点探し組は明日の朝も稼働する。

日帰りで帰ってこられる距離であれば、そちらの任務に支障は出ない。


「護衛については…エルザをメインに据えて、行かせても良いでしょうか?」


ユートはダリウス会長に了承を得る。

エルザは護衛能力が高い。


彼女を中心に組めば、経験の少ないミアや三つ子たちが一緒でも、任務は遂行できるだろう。


ダリウス会長はユートの提案を聞き、少し考えた後、頷いた。


「うむ…エルザなら、信頼できる。彼女を中心に、経験のある者で組むと良いだろう」


「承知いたしました。早速、準備に取り掛かります」

ユートは会長に礼を言い、執務室を後にした。急な輸送任務。


早急に伝えなければならない。



急いでの執務室に戻り、エルザ、セーラ、ミア、そして三つ子を呼び出した。


拠点探しに出ている六人以外のメンバーだ。


皆を集め、明朝の輸送任務について伝えた。


行き先がそれほど治安の悪くない場所であること、エルザを中心に組むこと、そして明朝出発の為、早急に準備が必要であることを話す。


エルザはユートの指示に頷いた。


三つ子たちも少し緊張した様子だが、任されたことに意欲を示している。ミアも同様だ。



「明朝の輸送任務は、エルザを中心に、ミア、三つ子、そしてセーラに同行をお願いしたい」

ユートは任務を告げた。


カインとエマは事務処理能力に長けているし、特にカインは拠点探しで情報収集が必要だろうから、今回は外した。


手の空いているエルザ、セーラ、ミア、三つ子はこの為に残しておいた。


彼らは早速、明朝に向けての準備を開始した。



皆が準備に取り掛かる中、ユートは机からから、実験で作っていた魔法陣の紙をいくつか取り出した。


それは、詠唱式で発動するタイプの《ファイアーウォール》の魔法陣だ。


ユートは、その魔法陣の紙を、エルザとセーラに一枚ずつ手渡した。


「エルザ、セーラ。これは、僕が作った魔法陣なんだが。万が一、どうしようもない危険な状況になったら、使ってほしい」

ユートは、使い方も伝えた。紙を開き、「出ろ、炎の壁」と心の中で強く念じ、詠唱することで発動する。炎の壁が出現し、一瞬ではあるが敵の攻撃を防いでくれるだろう。


「使うようなことがないのが一番だが…もし使ったら、効果がどうだったかは教えてほしい。使わなかったら、安全なところにしまっておいてくれて、アルテナに帰還したら返してくれると助かる」


エルザは魔法陣の紙を受け取り、ユートの言葉を聞いて真剣な顔をした。


彼女はスノーエイプの巣の時にこの魔法の有効性を目の当たりにしている。


これが緊急時に役立つかもしれない事は理解しているだろう。


セーラも、ユートが自身に魔法陣を渡してくれたことに、少し驚きながらも、大切そうに紙を受け取った。


ユートは皆に、今回の任務を無事終えるよう、そして何よりも安全に帰還するように改めて言い含め、「よろしく頼んだ」と伝えた。


メンバーたちは、明朝の任務に向けて、迅速に準備に取り掛かった。

バルカス達は拠点探しを。


そして、エルザ達は輸送任務を。


特別調査部の、それぞれの任務が、こうして夜遅くにも関わらず、同時並行で進んでいく。


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