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94話


数日にわたり、特別調査部の面々はアルテナ近郊の日帰り輸送任務をこなしていた。

高価な荷物ではないとはいえ、各地のハーネット商会の取引先へと物資を届け、安定した商流を維持する。これは地味ではあるが、商会にとっては欠かせない重要な仕事だ。

慣れてくると、日帰りの輸送は適度な運動にもなり、気分転換にもなった。


そんなある日、午前中の輸送任務を終え、アルテナの輸送部棟に戻ってきたユートたちの目に、見慣れぬ馬車の隊列が映った。


「あれは…!」


それは、カインを班長とした輸送班の馬車だった。

埃にまみれ、長旅の疲労の色は濃い。

隊列を組む馬車は、修理した跡がいくつか見られるものもあった。


「カインたちだ!帰ってきたんだ!」

ユートが声を上げると、皆が喜びの声を上げた。


輸送班の馬車が輸送部棟の広場に入ってくる。御者のミアは日に焼けて痩せたように見えるが、しっかりと手綱を握っている。ドランと三つ子たちは馬車の周囲を固め、カインは先頭で堂々とした様子で馬車を降りた。


皆の見た目は、長い旅と困難を乗り越えてきたことを物語っている。疲労の色は隠せないが、その表情は皆一様に、何かを成し遂げたことによる晴れ晴れとした達成感に満ちていた。


輸送部の広場に到着すると、カインが大きく息を吐き、輸送班全員に聞こえる声で宣言した。


「これにて、輸送任務を完了する!輸送隊、解散!」


その宣言と共に、張り詰めていた緊張が解け、安堵と解放感の空気が漂った。


その時、待ちかねていた特別調査部のメンバーが、カインたち輸送班の元へ駆け寄った。


「カイン!皆、無事だったか!」

ユートが真っ先に声をかける。


「お疲れ様でした!大変でしたね!」

セーラがカインとミアに駆け寄る。


バルカス、レナータ、ユージーンも次々と彼らを労う。


「無事で何よりだ!」

バルカスがドランや三つ子の肩を力強く叩いた。


エルザは、目の前に揃って立つ三つ子の弟たちを見て、ぐっと言葉を詰まらせた。いつもの冷静沈着な彼女からは想像できない様子で、そのまま三人の元に駆け寄り、リック、ロイ、レックスの順に一人一人強く抱きしめた。


「…無事で…良かった…!」

その瞳には、安堵の涙が浮かんでいた。離れていた間の弟たちの安全を、どれほど心配していたのだろうか。三つ子たちも、姉の温かい抱擁に、目にうっすらと涙を浮かべながら「ただいま、姉貴!」と答えた。


皆が再会と無事の帰還を喜び合う中、ユートは班長としてカインの元へ向かった。


「カイン、お疲れ様!よく帰ってきてくれた!」

ユートもカインを強く抱きしめた。


カインは抱擁を受け止め、ユートに報告をしようとした。

「ユート部長…!ただ今戻りました。任務は完了しましたが、途中、嘆きの湿原で魔物の襲撃に遭い…馬車が壊れたり…それで、予定より少し遅れてしまって…」


ユートは、まだ疲れが残る中で懸命に報告しようとするカインの言葉を遮るように、改めて彼を強くハグした。


「細かい報告は後でいい!無事で、やり遂げて帰ってきてくれた!それだけで十分だ!よくやった、カイン!」

ユートの心からの労いに、カインの強張っていた肩の力が抜けた。


皆ひとしきり、お互いの無事を喜び合い、再会を喜んだ。長かった別離の間の、それぞれの出来事を話し合う時間はまだないが、顔を見合わせられただけで十分だった。


賑やかな再会から少し落ち着いた頃、ユートはカイン班のメンバーに声をかけた。


「カイン、皆。まずはダリウス会長に無事の帰還の報告に行ってくれ。今回の任務の報告は、その時に簡単なもので良いから」


「はい、ユート部長」

カインは頷き、他の輸送班メンバーと共にダリウス会長の執務室へ向かった。


ユートたちは、カイン班を見送った後、一足先に『ホーム』へと戻ることにした。

長い輸送任務を終えた彼らは、心身ともに疲労困憊しているだろう。まずはゆっくり休ませることが最優先だ。


『ホーム』に戻り、部屋に入る。皆の顔には、カインたちが無事だったことへの安堵と喜びが満ちていた。


皆が戻ってくるのを待ちながら、ユートはレナータを傍らに呼び、他のメンバーには聞こえないように、そっと耳打ちした。


「レナータ。カインたちが無事に帰還したお祝いと、労いを兼ねて、ささやかだが宴会をしたいと思うんだ。疲れているだろうから、明日の夜にしようか」


レナータは頷き、ユートの意図を理解したようだ。


「そこでなんだが、明日の夜、皆で入れるような街の酒場を一箇所押さえておいてくれないか?食事も頼んでおきたい」

ユートはレナータに、宴会の手配を任せることにした。手配ごとにはセーラが適任かもしれないが、夜の街に出ての手配はレナータに任せる方が安心だ。


「承知いたしました、ユート部長。任せてください」

レナータは頷いた。


しばらくすると、ダリウス会長への報告を終えたカイン、ドラン、ミア、そして三つ子が『ホーム』に戻ってきた。皆の顔には、改めて達成感と、仲間の待つ場所へ戻ってきたことへの安堵が浮かんでいる。


「おかえり、カイン!皆!」

ユートは改めて彼らを迎えた。


カインたちは部屋に入ってきた。ユートが少し改まって、皆に話しかけた。

「カイン、ドラン、ミア、三つ子たち。改めて、無事の帰還、本当にお疲れ様だった」

ユートは皆を見回し、そして少し笑って言った。

「それと、一つ報告がある。俺たちがここにいた間、この部屋のことを、『ホーム』って呼ぶことにしたんだ。皆が帰ってくる、ここが俺たちの帰る場所だって意味を込めて」


カインはユートの言葉を聞き、キョトンとした顔をした後、すぐにその意図を理解し、笑みを浮かべた。

「『ホーム』、ですか。いい名前ですね、ユート部長」


「私も賛成ですわ!」

ミアも少し照れたように言った。


「へへ、俺たちの家ってことっすか!」

リックが陽気に言う。ロイとレックスも頷く。


特別調査部全員の『ホーム』という認識が、この時、共有された。


「今日は長旅で疲れているだろう。詳しい話はまた明日聞かせてもらう。とにかく、今夜はゆっくり休んでくれ」

ユートは皆にそう伝え、各自の部屋へ戻って休息を取るように促した。


カインたちはユートに改めて感謝の言葉を述べ、それぞれの部屋へ戻っていった。疲れ切った様子ではあったが、皆の顔には、大切な場所に無事に戻ってきたことへの喜びと安堵が満ち溢れていた。


『ホーム』に残されたユートたちは、明日の夜に控えた宴会を成功させるため、静かに手配を進めることにした。


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