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【感謝330,000pv突破】【完結】回復魔法が貴重な世界でなんとか頑張ります  作者: 水縒あわし
北方編

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90話


A町を朝一番に出発し、一行はB町へと向かった。


心配していたレナータの体調は、一晩休んだことで少し回復したようだったが、ユートは万全を期して彼女に馬車に乗るように促した。バルカスはいつも以上に周囲を警戒し、万が一の事態に備えている。


B町までの道中は平坦な道が多く、比較的順調に進んだ。日中にB町に到着し、早速荷物の受け渡しと積み込みを行う。

A町での手続きが簡素だったように、B町でも最小限のやり取りで済ませた。積荷は鉄製品を渡し、今度は食料品や生活雑貨を積み込む。



特別調査部のメンバーが手際よく荷役を手伝っている最中のことだった。荷物を運び終え、少しだけ休憩していたバルカスが、町の中心街にある小さな広場の片隅で困っているらしいお婆さんの姿に気がついた。

重そうな荷物を持ち上げようとしているのだが、上手くいかず苦労しているようだ。


バルカスは一瞬ためらい、ユートの方を振り返った。調査部としての任務ではない、個人的な行動になる。ユートはそんなバルカスの視線に気づき、小さく頷いた。良いぞ、手助けしてこい。

無言の許可に、バルカスは嬉しそうな顔になり、皆に一言「少し手伝ってきます」と声をかけ、お婆さんの元へと向かった。


「お婆さん、その荷物、よろしければ私が持ちましょうか?」

バルカスはその厳つい見た目に反して、丁寧な言葉遣いで声をかけた。お婆さんは最初は少し驚いたようだったが、バルカスの真摯な態度に安心し、荷物を託した。


バルカスは軽々と荷物を持ち上げ、お婆さんが指示する場所まで運んでいった。お婆さんは何度も頭を下げ、バルカスに感謝の言葉を述べていた。


離れた場所からその様子を見ていたユートたちは、特別な反応は示さなかった。バルカスが困っている人を助けるのは、彼の優しさからくる自然な行動だ。特別調査部のメンバーになったからといって、そういった人としての善行を止めさせる必要はない。むしろ、ユートは誇らしい気持ちで見守っていた。エルザやレナータ、ユージーンも、特に何かを言うわけではなかったが、バルカスの行動を見ている。ユートと行動を共にする中で、彼らの今までとは違う一面が、少しずつ表に出始めているのかもしれない。


B町での作業を終え、一行はC町へ向けて出発した。

C町までの道中は、これまでの整備された街道とは異なり、少しだけ山間部を通る経路だった。傾斜があり、馬車の走行も少し大変になる。ユートは、セーラと交代しながら、慎重に馬車を運転した。レナータの体調はほぼ回復したようだったが、ユートは無理をさせず、交代で休憩を取りながら進んだ。


C町に到着したのは、B町を出発してから二日後の昼過ぎだった。B町ほど大きくはないが、宿屋や商店もいくつか見られる静かな町だ。ここで荷物の受け渡しを行い、任務の最終段階を迎える。C町からは、地元の工芸品や特産品などをアルテナへ持ち帰るらしい。


荷役作業は順調に進んでいた。その最中、町の広場の方で、何かざわめきが起きているのに気づいた。人々が集まっている。かすかに聞こえる声からはどうやら怪我人が出たらしい。


ユートが様子を見に行こうとすると、護衛についていたレナータがサッと彼の前に出た。

「ユート部長、私が様子を見てまいります」


ユートは頷き、セーラと共にレナータの後を追った。広場に着くと、男性が一人、地面に倒れており、足を怪我しているようだ。出血しており、痛みに顔を歪めている。周りには町の人々が集まっているが、どうして良いか分からず騒めいているだけだ。


レナータは人波をかき分けて男性の元へ近づき、怪我の具合を確かめた。止血をしようとするが、手元に応急処置に必要なものが不足している。


「何か止血できる布はありませんか!」

レナータが町の人に声をかけた。


その時、セーラが駆け寄ってきた。彼女は普段から怪我の手当てなども行っている。

「レナータさん、私が」


ユートも側に歩み寄り、男性の怪我の具合を確認した。見るからに痛々しい傷だ。


その時、レナータがユートを振り返った。彼女は知っている。ユートは回復魔法が使えるのだと。そして、回復魔法が使えないとしても、応急処置の知識や、傷薬などの薬草を持っている事も。


「ユート部長。手持ちの薬草を使ってよろしいでしょうか? 出血がひどいようです」

レナータはユートに指示を仰いだ。怪我人の手当ては特別な状況だ。商会の備品である薬草を使う許可を求めたのだ。


ユートはインベントリから袋を取り出すとすぐにセーラに指示を出した。

「セーラ、この中からアースドロップと、止血効果のある薬草をいくつか出して」


セーラはすぐにユートの袋を開き、指示された薬草を取り出した。ユートはセーラが薬草を取り出す傍ら、しゃがみ込み、止血を行なう為に傷口に手をかざす。


誰にも気づかれないように、ごく微量の魔力を傷口に流し込む。あくまで回復は、薬草による処置が進んでいるからだと見えるように。外からは傷薬や止血が行われているように見えても、内部の回復速度を魔法で加速させるのだ。高度に制御された回復魔法は、治癒速度を僅かに早めるだけだ。


セーラが薬草を傷口に当て、レナータが手際よく止血と包帯の準備をする。外傷の手当ては、バルカスたち護衛も得意とするところだ。

ユージーンは少し離れた場所で使用人を守るように立っていたが、心配そうにその様子を見守っている。

エルザは皆が離れた馬車を1人で見張ってくれている。


薬草による処置と、ユートの回復魔法による微細な補助のおかげで、男性の出血はすぐに止まり、痛みが和らいだのか、顔の歪みが少しだけ取れた。


「あ、ありがとうございます…楽になりました…」

男性は掠れた声で感謝を述べた。


「これで応急処置はできました。急いで町の医者の所へ連れて行きましょう」

レナータが周囲の町の人に声をかけた。町の人々は、手際の良い特別調査部の対応に感心し、男性を医者へ運ぶ手伝いを申し出た。


怪我人の手当てを終え、一行は支店へ戻って荷役作業を終えた。人命を助けたことは、特別調査部にとって新たな経験となった。ユートは、回復魔法を使うことでそれが人の役に立ったことに、改めてその力の価値を再認識した。


C町での任務も無事完了し、翌朝にはアルテナへの帰路についた。荷物の積み込みも無事に終わり、馬車にはC町の特産品などが積まれている。


帰りの道中は、行きとは違った。

皆、慣れた旅路を気楽に進む。道中、大きな問題もなく、彼らの足取りはアルテナへと近づいていった。


特別調査部のメンバーたちは、それぞれの場所で得た知識と経験を携えて『ホーム』へと向かっている。

アルテナの街門が目前に見えてきた。長かったようで短かった今回の連続輸送任務も、間もなく終わりを迎える。


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