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9話

通過のレート計算の部分は飛ばしても大丈夫です。


食事を終え、満足感に浸っていると、部屋の扉がノックされた。

セーラが入室を告げると、そこにはライオス、そして肩を吊ったガルド、さらに見知らぬ中年の女性の三人が立っていた。

女性は心配そうな、それでいて感謝に満ちた表情をしている。

「ユート殿、夜分にすまない」

ライオスが切り出した。

「こちらは、ガルドの妻のミーナだ。夫が世話になったと、どうしても直接礼を言いたいと言うのでな」

ミーナと名乗った女性が、深々と頭を下げた。

「ユート様、この度は主人が……本当にありがとうございました。あなたがいらっしゃらなければ、今頃どうなっていたことか……」

その目には涙が浮かんでいる。

「いえ、俺はできることをしたまでです。ガルドさんがご無事でよかった」

悠斗は少し照れながら答えた。


「それで、ユート殿」

今度はガルドが口を開いた。回復薬が効いたのか、顔色はだいぶ良くなっている。

「手当てに使っていただいた、あの薬草や包帯……代金をお支払いしたい。ライオスとも話したんだが……」

「ああ」ライオスも頷く。


「あれは、君が旅の途中で自作したものだと言っていたな。材料は道中で集めたり、街で買ったりしたんだろう?」

悠斗がこくりと頷くと、ライオスは続けた。

「質の良い止血草や、あの清潔な包帯……特に包帯は、市場で買えばあれだけの量なら銅貨で数枚はするだろうし、君の加工技術も考えれば、もっと価値があるはずだ。消毒に使っていた強い酒も、決して安いものではないだろう」

彼は懐から小さな革袋を取り出し、申し訳なさそうな顔で言った。

「それでな、まずは物品代として、これを受け取ってほしい。銀貨3枚と銅貨9枚、それに鉄貨が5枚ある。」

ライオスは一度言葉を切り、真剣な眼差しで悠斗を見た。

「本来なら、命を救われた恩、そして君のその素晴らしい技術には、金貨で支払うべき価値があると思っている。だが、今の俺たち護衛の身では、これが精一杯なんだ。本当にすまない……」

「ぎ、銀貨3枚、銅貨9枚、鉄貨5枚……」

悠斗は提示された具体的な金額と、ライオスの真摯な言葉に戸惑った。


ライオスの説明で通貨のレート(鉄貨10枚=銅貨1枚、銅貨10枚=銀貨1枚、銀貨100枚=金貨1枚)は理解できた。

しかし、それが実際の生活でどれくらいの価値を持つのか、このあたりの物価や相場が全く分からない。

金貨で支払うべき、という言葉からすると、決して安い金額ではないのだろうが……。

「お気持ちは大変ありがたいのですが……」

悠斗は正直に話すことにした。


「申し訳ありません、俺はこのあたりの物価に本当に疎くて……。いただいたお金の価値が、正直よく分からないんです。それに、まだ旦那様ともちゃんとお話できていませんし、滞在のこともあります。なので、その件は、明日、旦那様と、そういうことも含めてご相談させていただいてもよろしいでしょうか? ですから、今はそのお話は、一旦保留とさせてください」

悠斗の率直な言葉と困惑した様子に、三人は納得したようだった。


「……そうか。すまんな、無理を言った。ユート殿がそう言うなら、そうしよう。だが、必ず礼はさせてもらうからな」

ライオスは革袋を懐にしまい、三人は改めて礼を言って部屋を辞去した。

一人になった部屋で、悠斗はベッドに腰掛け、先ほどのやり取りを反芻した。銀貨3枚、銅貨9枚、鉄貨5枚。

(銀貨3枚、銅貨9枚、鉄貨5枚……。レートは、鉄貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。日本の感覚で、鉄貨が10円なら、銅貨は100円、銀貨は1000円、金貨は100000円か? だとすると、提示されたのは、銀貨3枚で3000円、銅貨9枚で900円、鉄貨5枚で50円……合計で3950円くらいか。ライオスさんは金貨で払うべきって言ってたけど、金貨1枚は10万円相当? 確かに、命の値段と考えれば破格だけど、物価が分からないとなんとも……。俺の初期装備は銀貨5枚と銅貨87枚だった。新レートだと、銀貨5枚(5000円)+銅貨87枚(8700円)で、合計13700円相当か。そう考えると、3950円は初期装備の1/4くらい。彼らにとっては決して軽い金額じゃないのかもしれないな……)

考えれば考えるほど、この世界の常識のなさが身に沁みる。金銭感覚は、生活していく上で必須の知識だ。

(……やっぱり、明日、ちゃんと聞くしかないな)

色々なことがありすぎて、思考が追いつかない。


悠斗は考えるのを中断し、部屋に用意されていたふかふかの布団に横になると、吸い込まれるように深い眠りに落ちていった。異世界に来て、初めての安らかな夜だった。

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