表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異形  作者: 坂田
3/5

楠本美香 十六歳

どんより曇った空。

もうすぐ雨が降りそうな雰囲気だけど、今朝の天気予報だと、今日は一日曇りだ。

ふと空を見てそんなことを思う、”いつも通り”の帰り道だった。

帰宅部の子たちと教室に残って駄弁ったり、

同じ部活の友達と、日常の些細なことを愚痴りながら帰る事もない。

いつも通り、一人で帰路につく。

最初は寂しく感じたこの帰り道も、半月続けば、日常の一部と化した。人間の感覚は都合の良いように出来ているなと、昨日の帰り道に思った事を、今日もまた思う。

曇った空から雨が一粒、頬に落ちた。

まさか、と私は立ち止まって上を見る。

曇り空は相変わらず曇ったままだ。

ここからだと、家に着くまで、まだ十五分程度時間がかかってしまう。

走るのは嫌だし、ちょっと早歩きで帰ろうかな。そう思って一歩目を踏み出そうとした瞬間だった。

「わ!」

誰かに驚かされた?

最初はそう思ったけど、私に声をかけてくるような人なんて、誰一人として心当たりがない。でも、この距離で私以外に声をかけることってある?

声はすぐ後ろから聞こえた。多分、振り向いて手を伸ばせば届くくらいの距離だと思う。

どうしようかと、さっき踏み出しかけていた足がまた止まった。

「えと、美香、久しぶり」

さっきよりも長い言葉。

昔によく聞いていたからだろうか、声自体は低くなっていたが、私の脳裏には一人の男の子が浮かんだ。

「蓮、くん?」

振り返って彼の顔を確認する。

小学生の頃と比べると、ほんの少し大人びたように感じるが、ほとんどあの時と変わらない蓮がそこにいた。

一瞬見つめ合った後、蓮が気恥ずかしそうに目を逸らす。

「家おんなじ方向だし、一緒に帰らない?」

返事が遅れた。

久しぶりに話す幼馴染のその一言が、ただ嬉しかった。一緒に帰りたい、でも。

蓮は何も知らないんだろうな。

私がいじめられてることも、その原因も。

少し離れたところで歩く、同じ学年の子たちが目に入る。一緒に帰る訳にはいかない。私のせいで、蓮に迷惑はかけたくない。

断らなきゃ。

答えはすぐに出たけど、声には出せなかった。

自分の本音と本音がぶつかり合って、断りたいのに断れない。蓮と目を合わせていられなくて、俯いてしまった。涙が溢れそうになる。

「美香?」

心配そうに顔を覗き込もうとする蓮。

流石に涙を見られる訳にはいかない。

「ごめん、一人で帰る」

私は体の向きを変え、早足で歩き出した。

蓮が追ってくる様子もない。

これでいい。これでいいんだ。

ポツポツと降り出した雨は、強まることはなかったが、その日の夜まで降り続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ