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【一章完結】その森には賢者と呼ばれる魔王が住んでいる  作者: にとろ
魔王、転生する

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商人が賢者に会いに来た

「ルード様! 一人、商人みたいな人が森に入ってきましたよ!」


 嬉しそうに言うシャミア。幸い俺たちへの貢ぎ物は現金も受け付けているので、金持ちと言うほどでもないのだろうが、ちょっとしたものを買うくらいの金は貯まっていた。


「買い物がしたいのか?」


 だったら森の中で生活するのはやめておいた方が良いのではないか、とは思ったものの、シャミアに行く場所があるかどうかは非常に怪しいところなのでそれは言わない。


「はい、もちろんルード様がお金を持っているわけで、私は買えませんが……」


 俺は逡巡して答えた。


「面白いものもあるかもしれないし行ってみるか」


「はい!」


 シャミアは久しぶりのとびきりの笑顔で答えたのだった。


 俺は商人がいるところの近くにポータルを開いた。通じたのが確認された途端シャミアが俺の手を引っ張ってポータルに飛び込んだ。やっぱりコイツも退屈は嫌いなのだなと思った。


 いきなり商人の前に出ると驚かれるだろうから少し離れた場所に出て、シャミアと共に商人のいる方に歩いて行く。ワクワクが隠しきれない感じのシャミアを見ていると、人間というのは平和なものだなと思う。魔族の娯楽と言えば捕まえてきた魔物を自分たちの代理として戦わせ、どちらが勝つかに賭けるような殺伐としたものだったからな。もちろん捕まえた魔物は死ぬまでこき使われるものだった。


「商人さん! この森にご用ですか?」


 シャミアが商人の方に駆けていって問いかける。商人の男は面食らったものの、客と見なしたのだろう、商売人がする笑顔になった。


「これはこれは、お嬢さんとこんな森の奥深くであうとは思いませんでしたな。少し商品を見ていきますかな?」


「はい! 見せてください!」


 シャミアが勝手に商人と話しているところへ俺が後から追いついた。商人は『コイツがこの娘をここまで連れてきたのか』という顔をした。


「旦那様、面白いものが揃っていますよ。見て行かれませんかな?」


「ダダダダ旦那様だなんて!? 私とルード様はそう言う関係では……」


 商人は怪訝な顔をしたが、すぐに営業の顔になり商品を見せてくる。


「この森では魔物が多くて危険ですからな、魔物避けの護符などもありますよ」


「あ、そういうのはいいです。ルード様なら魔物くらいに負けたりはしないので」


 にべもなく返すシャミア。俺にベッタリ頼るのもどうかと思うが、確かに魔物避けの護符なんてものは必要無いな。


「つ……強い方なのですね。ではこちら! 遠くの国から仕入れたお酒などはいかがでしょう?」


 商人は俺たちがこの森で困っているわけではないと理解したのだろう。嗜好品の類いを売る算段をつけたようだ。


「見たところ透明な様子だな。美味いのか?」


「それはもう! 一杯飲むと世界が輝くと言われておりますな」


「ほう……その瓶一本でいくらなんだ?」


「一本金貨一枚ですな。その価値のある酒ですぞ」


 ふむ……まえに景気の良い町が貢ぎ物に金貨を納めてくれたことがあったな。財布の中に数枚の金貨は入っているはずだ。見たところシャミアとグラス一杯ずつくらいの無料は入っているようだ。


「分かった、一本買おう」


「ありがとうございます!」


 酒を一本買って手に持つ。商人はここでこれが売れるとは思っていなかったらしく嬉しそうな顔をして思わぬ収入を受け取っていた。


「それで商人さん! 他には何がありますか?」


 シャミアはまだまだ買い足りないようで、次の商品を求める。


「そうですな……お嬢様にはこのようなものはいかがでしょう?」


 そう言って商人が取りだしたのは宝飾品だった。この森で売れるはずも無さそうなものがポンポン出てくるなと感心している俺に、シャミアが商品の指輪と交互に視線を向けている。欲しいなら欲しいと素直に言えばいいだろうに、それが出来ない関係でもないと思っていたのだがな。


「その指輪はいくらだ?」


「はい、これはオリハルコン製の指輪ですな。職人が何度も叩いて熱し加工した品ですぞ。金貨五枚ですがいかがですかな?」


「買うよ」


 俺は財布の中から金貨のほとんどを取りだし商人に渡した。ホクホク顔で受け取り俺に指輪を渡してきた。


「じゃあな、あんたもこんなところで商売をするのは危ないから気をつけろよ」


「肝に銘じておきましょう」


 そうして俺たちと商人は別れた。ポータルで家に帰ると商人が箱に入れて渡してきた指輪をシャミアに渡した。


「お前もそう言うものがやっぱり欲しいんだな?」


 俺は苦笑しながらシャミアにそう尋ねた。


「私もまだまだ女の子ですから!」


 酒を飲める年のくせに、その言葉は俺の心の中だけにとどめておくのだった。

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