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【一章完結】その森には賢者と呼ばれる魔王が住んでいる  作者: にとろ
魔王、転生する

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元勇者候補がやってきた

「「おおーーー!」」


 俺たちは森の映像を見ながら歓声を上げた。


「なかなかやりますね、ルード様が出るまでもないんじゃないですか?」


「どうだろうな、コイツも随分奥の方まで来てるがそろそろ難所になってくるぞ」


 そう、本日やってきたのは国の紋章付きの装備を身につけた騎士だ。単独だったし俺はどうせすぐに逃げ帰るだろうと思って一目見てから興味を失い、朝食後の紅茶を淹れていた。


 一方興味津々に見ていたシャミアの方は騎士が魔物を倒す度に『ほほう』とか『やりますね……』などと言っていた。じきに飽きるだろうと思いシャミアの紅茶を一杯置いて自分は魔導書を読みながら気怠い朝を過ごしていた。


 そうしてしばらくしてから、まだ映像に釘付けだったシャミアに『まだがんばってるのか?』と尋ねたところ『なかなか筋がいいですね』と答えたので、二人してその騎士がどこまで持つか興味深く眺めていた。


「キラースネークを倒しましたね」


「そろそろポータルを開こうかと思ったんだがまだ必要無いな」


 よくよく映像を見ると男の持っている剣から聖なる魔力がほとばしっていた、いや、ほとばしっていたとは言い過ぎだろう、うっすらと出ていた。忘れもしない、俺を倒した勇者が全身に身に纏い、人間離れした強さを誇っていた理由の一つだ。


 そうしてその男がしばらく進んできたので俺とシャミアで会いに行くことにした。家の位置が知られると面倒だし、なかなか奥まで来たのだから少しくらいは応えてやろうじゃないか。


「シャミア、準備はいいか?」


「ルード様、私はいつでも完璧ですよ!」


「じゃあアイツのところへ向けていくぞ!」


「はい!」


 そうして二人でポータルに飛び込んだ。


 出口になっているのは男から少し離れたところだ。静かに男のところへ忍び寄って話しかけた。


「よう、俺たちをお探しかね?」


 ビクッとして振り向いた男は人間が二人もこの森の奥地にいることに驚いてから礼をした。


「もしや、賢者様でしょうか?」


「ああ、まったく迷惑な話だが建前上は賢者と言うことになっているよ」


 賢者なのだからもう少し知性を感じさせる物言いをするべきなのだろうが、生憎俺は魔王から人間になっただけのものだ。エセ神に賢者と言いふらされたからと行って賢者のような振る舞いが出来るかどうかはまた別の話だ。


「私は勇者バーニーといいます。賢者様にお願いがあってきました」


 ああ、コイツあまり人の話を聞かない系の人間だな。根っからの賢者ではないと、はっきり言っているのに聞いてはいない。細かいことは無視して話を続けよう。


「で、バーニーくん、何の用だね」


 どうせ碌でもないことだろう。分かっているのだが追い払おうとして暴れられても困ってしまう。


「実は、勇者として国に認められたのですが自分の強さがそれほどのものとは思えず……賢者様に会えれば力が得られるかと思いましてここまで参りました」


 えー……無理に決まってんじゃん。俺にそんな力はない。正確に言うと一時的なバフはかけられるがそれだけだ。いくら強力なバフをかけたところで敵と戦っている時にそれが切れたら死んでしまう。


「バーニーよ、世の中にそんな安直に強くなる方法は無いぞ。地道な努力あるのみだ。しかしまあ、ここまで来られたのだからその実力は誇っていいな」


「……では、一つお願いがあります。一度だけでいいのです。賢者様と手合わせ願えないでしょうか。私の強さと未熟さを知りたいのです」


 なるほど、賢者より強いかどうか知りたいということか。勝てれば勇者としての名声はたっぷり浴びられそうだしな。


「わかった、いいだろう。ただし一度だけだからな?」


「ありがとうございます」


「シャミア、審判を頼む」


「ふぇ!? 私がですか!?」


「どちらかが戦えなくなった時に止めてくれるだけでいい。際限なく戦って死なないようにするためだ」


 魔王軍のクーデターは何度かあったが人間のクーデターと違うのは、負けそうになったら即座に裏切ることだ。おかげで人間のように一族郎党皆殺しのようなことになったことはなかった。逃げ道や引き際を知っておくのは大切だ。


「では審判も準備が出来たようだし始めようか」


「あの……賢者様は武器をお持ちではないようですが?」


「ハンデだよ、このくらいの加減はしないと剣を持ったら真っ二つにしてしまうしな、そんなのは嫌だろう?」


 舐められたと思ったのか、バーニーは剣を握る手に力を込めた。


「シャミア、開始の合図を」


「あ、はい。それでは始め!」


「うおおおおおおおおお!!」


 バーニーが力一杯に斬りかかってくる。力はあるようだが速度は遅い。隙だらけの縦の斬撃をサイドステップでかわし、横に拳を振るった。


 ガキィン


 一撃で剣はポキリと折れた。短くなってしまった剣を持ったバーニーはただポカンとしている。


「勝負あり! ルード様の勝利! でいいんですよね?」


「力に頼りすぎだ。瞬発力に欠けているな。それと魔力も持っているとなお強くなれるぞ、精進するといい」


 バーニーはしばし唖然としたあとに俺の方を向いて礼をした。


「ご指導ありがとうございます! 次は必ず賢者様に認められるようになって見せます!」


「心意気は買うが程々にな、もう魔王はいないのだから完璧な強さなんて求めなくてもいいんだぞ」


「そうですね……出来ることなら私が魔王を倒したかった……」


 自嘲気味に笑っているが、この貪欲な強さへの渇望が勇者と呼ばれる者達を強くしているのだろう。特訓も訓練もせずに実戦のみで強くなる魔族とは大違いだ。


「じゃあ入り口まで送ってやるから精々がんばれよ」


「送っていただけるのですか?」


 当然だろう。だって……


「その剣で魔物を倒せないだろう? こうしてっと」


 俺は森の入り口付近へのポータルを開いた。唖然としているバーニーの腕を掴んでシャミアと一緒にポータルに飛び込んだ。


 そしてポーション販売機のあるところまで一気にたどり着いた。ポカンとしているバーニーに、俺は一枚販売機に銅貨を入れて出てきたポーションを手渡した。


「そいつで傷を治して帰れ。じゃあな、お前さんはいいセンスをしてるみたいだからがんばれよ」


 それだけ言ってシャミアと共に帰宅用ポータルに入った。


 自宅に帰るとシャミアが俺に疑問をぶつけてきた。


「勇者ってあの程度なのでしょうか? ルード様が強いだけなんですか?」


「勇者だって世界を救う者から田舎の村を救うだけしか出来ないやつまでいるって事だよ。全員が圧倒的に強いってわけじゃないさ」


「そういうものなんですか……ルード様はあの、ええとバーニーさんでしたっけ? 強くなれると思いますか?」


「知らんよそんなことは、結局は本人次第だ。俺は予言者じゃない、未来の事なんて分かんないな」


「そうですか、ルード様、あまり無茶をするのはやめてくださいね? 素手でバーニーさんと闘い始めた時はドキドキしたんですからね!」


「分かった分かった、必要なら武器を使うよ」


 それだけ言って夕食となった。


 一方バーニーは王国に戻り、賢者様を敵に回すのは絶対になりません! そう王国の上層部へ報告していたのだった。

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