妄想探偵〜彼の推理は想像の域を出ない〜
事件はすでに起こっていた。
目の前に倒れる、今回の事件に巻き込まれた哀れな被害者は、間抜けな顔をぶら下げて床に倒れ伏している。
とても残念なことで哀悼の意が留まることを知らないが起こってしたしまったものはどうしようもないので、俺に出来ることは何もない。その時、死んだと思われた目の前の男が腕をこちらに伸ばしてきた。死後硬直により筋肉が意図せず動くことがあると言うが、これは明らかな意志を持ってこちらに這い寄ってきている。
咄嗟に思わず蹴り飛ばしてしまったが責められる謂れはないので大して申し訳ないとも思わない傲岸不遜さは、目の前のふざけた死体の前だからこその傲岸不遜さである。これが見ず知らずの人相手だったり、クラスメイトだったりであればこんな行いはしないだろう。
生憎だが、そもそも倒れている人に近づこうなどという、生命への慈しみの心や、知らない人に関わろうというコミュニケーション能力は持ち合わせていない。
故に俺の目の前の男は俺の知人、しかもかなり間柄の近しい人物の訳だが、人物紹介さておいて倒れ伏している理由を説明すると、これには深い深い事情があって。深い事情があって欲しくて、しかし残念ながら皆さんお楽しみの事件に繋がりそうな、深い事情なんて微塵も介在していないのだった。
実にしょうもない理由で目の前の男──そろそろ名前を開示するが、彼の名前は持込謎那という──は、ゾンビの真似事をしているのであった。
聞いて落胆せよ、刮目して残念がれ。
彼はたかだか席替えで、自分の望みとは相反して一番真ん前の席となったことに絶望を感じ、放課後泣く泣く俺の部室に愚痴りに来たのだ。そして文句を言っている間に悲しさとやるせなさが再来したようで、さながら死人の形相かつ脱力加減と化したのである。
「ええい、辛気臭い面でただでさえ湿気じめじめのこの部室を更にどんよりさせるんじゃない!」
「だって聞いてくれよぉ、どう考えたって、理論的かつ確率的かつ心理的かつ地理的に考えてもおかしいじゃないかよぉ」
持込が這ってきて俺の足首にしがみつく。こいつのクラスの席替え事情なんて俺は知ったこっちゃないのだから、そんなこと言われても対処に困る。俺はしがみつかれた足をブンブン振り回して持込の手を外した。
「お前にまで見放されたら終わりだよ。ああ、誰も心身ともに危篤状態の僕に救いの手を差し伸べる物好きは居ないのか。短い人生だった、最後くらい女に看取られたかったよ。なんで野郎なんかの...」
なんだか腑に落ちない物言いを危篤状態とは思えないくらいの早口で並べられた気がするが、それでもこいつの顔面にかかと落としを喰らわせない優しさと包容力を持ち合わせた俺はかなり聖人に近い領域に足を踏み入れたと自負している。
「そんなに重体なら救急車を呼んでやろう」
「駄目なんだ、たとえこの地区の救急隊員が優秀で十分以内に現場に駆けつけられるような人材だったとしても、僕はもう一分ももたないだろう──誰かが僕の愚痴を聞いてくれなければ」
チラッとこっちの顔を伺う持込の顔は、無性に蹴り飛ばしたくなるような天性の顔だった。
「そんなことはないさ。情報伝達に一分、着替えに一分、現場までに五分、余裕を持って追加で五分とすると、事故が発生する十二分前に救急車を出しておけば余裕で間に合うじゃないか」
「......」
ツッコみたいのだろうが、ツッコんでしまうと瀕死、という設定が崩れてしまうので実行には移せないようだ。
「そうだ、救急車が来たらすぐわかるように車道の真ん中に運ばないと」
「...カラスがクルミ割る感覚で俺を車道に置くな」
おや、案外設定遵守破壊は容易そうだ。あともう一押しといったところであろうか。
「そうだ、AEDを持ってこないと。あー、でもあれって一つしかないか。それだと持込の分しかないことになっちゃうな」
「...なんでお前も使う前提なんだよ」
顔を地面に突っ伏しているのでモゴモゴとしか聞こえないが、生まれながらにしてツッコミの天賦の才を持ち、将来はツッコミを生業として生活していこうと将来予定設計図を作成している身としては、この設定は自分で自分の首を絞めたことになるだろう。
「じゃあ心臓マッサージするかなぁ。なんだっけか、あの国民的アニメのマーチに合わせたテンポが適切なテンポなんだっけな。タンタンタンタッタッタタッタッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タタッタッー」
「てめぇ蘇生をリズミカルに行うな。死を招くリズムでしかないぞそれは」
降伏の表れか、地に寝そべっていた持込はその面倒くさい死人の真似事を止めて立ち上がった。ツッコミをしなければならないという強迫観念を持つ彼は、ツッコミを操るものなのか、はたまたツッコミに囚われた哀れな道化なのか。
持込は乱雑に椅子を引いて、ここが持込の居場所なんかじゃないことはわかっているだろうに持ち前の図々しさを、ここぞとばかりに発揮して座り込んだ。文句はあるが寝転がっている状態よりかは幾ばくか事態は好転したと思われるので、それくらいの行為は見逃してやった。
「でもさぁ、普通に考えておかしいよな。そりゃあこれが一回目なら不満は垂れたかもしれないけど、数分くらいで受け入れたと思うよ。だけどこれで三回目だぜ。これは運のなさで片付けられるもんじゃないぜ」
ここで彼の言い分を整理しておこう。
彼が言う事件は今日のLHRの時間に起こったらしい。彼はこの高校に入学してからというもの席替えの神様に、早々に見放されたらしく、過去通算二席替え中二席替えとも最前列を明け渡すことはなく、しかもよりによって教卓右前方という、他生徒から見たら阿鼻叫喚としか言いようがない場所を確保しているのであった。
過去の振るわない成績を払拭するべく一念発起して望んだ第三回席替えが今日催された訳だが──もはやお決まりの流れとなったのであるのか、公正なるくじ引きの結果は当然のごとくやはり現状維持。彼の席は周りが席を移動する中、机に座ってキリスト教本を無心で読んだかと思えば、メッカの方向を向いて頭を下げ、南無阿弥陀仏を唱えあげる様は、席替えの神のためならどんなに乱信仰も厭わない姿勢であったそうだ。
ちなみに俺はクラスが違うので詳しいことはあまりわかっていない。が、くじ引きなのだから文句の付けようがないだろうに。
「絶対何かしらの組織の力が裏で働いているんだよ。これは間違いないんだ」
たかが席替えごときのために細工を施す組織とはこれ如何に。どうでもよいことに奔走する組織なんぞあったらあったで誰もが鼻で笑うだろうな。
「いーや、これは笑い話で済ませられるような事じゃないね。厳正であるべき席替えが何者かの手によって犯されたんだ。こんな事件こそ君の──探偵の力じゃないか」
俺のことを持込が『探偵』と呼んだのは別にあながち冗談という訳でもなく、現に俺のいるこの部屋──謎部の部室は、夜に蔓延る謎を解決するという理念の元に特別棟の一角を拝借して佇んでいる。しかしこの部の認知度は低く、謎を解決する部なのにこの部事態が謎扱いされる始末であるのが現状。時折訪れる来客は持込だけという悲惨さは置いておこう。
ちなみに俺がこの部に入った理由は、
一つ、この部を存続させて欲しいと今ははるか遠くの学校へと引越してしまった先輩の熱き勧誘。
一つ、この学校は基本的に部活所属が義務付けられているため、どうせ入るんならこういう部に入っておいて好き勝手してしまおうと思った健全な動機。等々。
まあ、謎解きは結構好きなので放課後は謎解きに勤しんでいたりもするが大半はスマホ弄りである。
さて、故に謎が持ち込まれた今の状況は、この部があるべき本来の姿であるけれど、こちらも仕事は選びたい。よりにもよってこんなくだらない事件以下のものを持ち込んでくるとは。こんなの真面目に取り合ってたら一応謎部としてどこかにしまってあるであろう沽券に関わる。
「ねえ。おねがーい、でっち上げでもいいから理由つけてもう一度席替えさせてよ」
不純、全くもって不純。
「あるだろ、連続で前の席になることくらい。別に確率ゼロじゃないことは、起こりづらいってだけで確かに起こりうるんだから」
不貞腐れたような顔を向けてくるが、だいたい席替え程度でごちゃごちゃ言うなんて、子供じゃあるまいし。
「わかった、じゃあこっからは別の話として考えよう。ゲームだ。裏で何かしらの意図が働いてるとして考えようよ。こういうの好きだろ? どうせやること無いんだから良いじゃんか」
******
それを言われてはぐうの音も出ない。
存外単純に見えて意外とくじ引きに細工というのは難しいものだから(実体験)紛れもなく運のなさが原因だと思うんだけど。ましてや高校生がそんな幼稚な発想するだろうか。
だがしかし、確かに暇を持て余してこぼれ落としていたのも紛れもない事実であるし、ここは一つ乗っかってみても良いかもしれない。
さて、ここから先は想像である。
想像でしかない。
仮定であった「何者かの意図がある」を確定事項として考えてみようか。
「僕はさ、絶対に後ろの席を獲得した四人組の男子が怪しいと思うんだよね」
「ほほう、なにか根拠でもあるのか」
「うちのクラスには仲のいいサッカー部連中がいてね。その中の良さっぷりたら常時その四人組でしか姿が目撃されていなくてね、単独での姿を目撃出来たらその日一日幸運が訪れると噂されているくらいなんだ。
それでさ、その野球部四人組は過去三回全て近くに固まっているんだ。しかも後方より。これは黒じゃないか?」
「近くってどれぐらいだ?」
「うーん、授業中もその四人組で話してるから2×2でみっちり固まってるって訳じゃないけどかなり近いかな。間取り覚えときゃ良かったけど俺はそれどころじゃなかったから。でも敢えて怪しまれないように完全に固めなかった可能性もあると思う」
「他にお前から見て怪しいやつってのはいるのか」
「いやぁ、どうなんだろう。でも普通に考えたら窓際最後列のやつが細工した可能性が高いし、女子も隣になろうね、とか言ってた奴らいたし...」
というかなんか方向がズレてきているな。
別にその仲良し野球部四人組にしたって、窓際最後列のやつにしたって、そいつらの席が後ろなのと持込の席が毎回教卓前で固定なのは関係ない。ああ、けどこう考えていくと結構面白いかもな。
通常席替えで細工をする目的というのは、自分の席を思いの通りの場所にするためだ。その目的は先生の目に付きにくい後ろの席がいい、や仲の良い子と隣になりたい、など様々思い浮かぶが、結局どれも自分の席を思い通りの位置にすることを考えるだろう。
では誰かが細工したとして一体どうして持込の席が最前列になるということが起こったのだろうか。
案外ただの嫌がらせだったりして。
「いやぁ、誰からも恨みを買うようなことしてないと...思い...たいけど。でもさ、恨みを買っていたとして嫌がらせのためだけに俺の席を前にするとか考えづらくないか」
「ええ、結構有り得そうだけど」
「じゃあ俺が恨みを買ってないっていう条件も仮定じゃなくて確定で。あとそれと、やっぱり後ろの席のやつが怪しいと思うんだよな。他に意図があって細工したとして、細工するのであればついでに自分の席の位置も後ろになるようにするんじゃないか?」
だいぶ可能性が縮まった。こいつはこんなこと言っているが俺的にはクラスメイトから忌まれているんじゃないかと勝手に思っている。まあ、なんとなくだけど。そうであって欲しいという私怨。
「じゃあ俺からまず二つの推理」
「おっ、頼みにしてますよ探偵さん」
「じゃあまず一つ目、お前がピンポイントで意図的に前の席に送られたんじゃなくて押し出されるような形で前の席になった説。つまり集団不正説」
「おお」
「始まりはどうだっていい、誰かがノリで不正しようと言いだしたら渦が広がってクラスの半分以上を巻き込んだとしよう。ここで半数というのはそれなら後ろ半分を、彼ら彼女らでランダムな取り合いにすれば文句は出なさそうだから。
そうしてクラスの半数以上がグルとなった出来レースのくじ引きで、お前は最初から前の方の列に座るしかないという状況でくじを引いたんだ。
これならお前が三連続で最前列教卓右前を不運で引いたという確率が前よりは上がるだろ?」
「なるほど、僕が狙われていた訳じゃなくて、集団不正の、あくまでオマケとして結果的に俺が今の席になったと。二つ目は?」
「まあこっちの方が本命かも」
一つ目の推理も一つのなぞなぞとしては面白いかもしれないけど、かなり現実味に乏しい推理だ。二つ目は割と有り得そうな推理であり、なんだか想像だとか言ったけどこれは今回の事件の核心をついているかも。
「二つ目──お前が三連続前の席ってことで笑いを取ろうとしたって説。つまり自作自演説」
「期待した僕が馬鹿だったよ、君にはガッカリだ。探偵くん。まあ確かに俺が三連続で最前列になった俺が一時の笑いのために、長く続く苦悩を受け入れる愚民に見えるだろうか。いや、見えない(反語)」
本当だろうか。俺はあると思うけど。
まあいいや、相談者が犯人だったっていうのはどんでん返しの定番だけれど個人的には見飽きてるから無しでもいい。
なしの方が面白い。
であれば、いよいよ細工の方法とか推理しなくちゃいけないだろうけど、ここに触れていいのかな。誰かが細工したのが確定として話進めてるんだから動機について推理すべきなのだろうか。というか多分細工は相当難しいからここに言及すると、やっぱり裏で手を引く組織なんてなかった!という結論しか出ないと思う。
でも特にこれ以上推理もないし聞いてみるか。
「くじ引きの具体的な方法を教えてくれ」
「ああ、僕のクラスには授業とかで当てる人を決める等々の用途の主席番号が書かれた割り箸があるんだけど、それを委員長が引いていって、黒板に書かれたまだ埋まっていない席の図に、順番に番号を書き込んでいくんだ。書いてくのは廊下側の席から」
「は? ちょっと待て、それじゃあ委員長が不正し放題じゃないか」
ちょっと勘違いしていた。俺のクラスは毎回先生が席の番号を書いた封筒を作ってきてくれて、それを引いて一斉に見るっていう方式だったから、てっきり持込のクラスもそうだとばかり思っていた。ただし勘違いしていた俺を責めることなかれ。前に持込じゃない別のクラスも俺らと同じ方式だというのを聞いていたから、学年一様この方式だと思い込んでいたのは仕方ない。
俺の意見を聞いて、一瞬持込は俺が何を言っているのか理解できないといった顔をして、直ぐに納得の顔になった。
俺が何故そんな意見を持つのか、その理由を理解したといった様子で。
「それなら心配いらないさ。保証しよう、委員長はそんなことをするような人じゃない、だから皆も安心して委員長にそんな大役を任せているんだ
それに彼女はある意味席替えに無関係な人なんだ。部外者なんだ。だから公正だとも言える」
ああ、なんだそうか。当たり前のことだから情報の重要性に関わらず、このゲームを始めた時点で席替えの例外ルールに気づいておくべきだったな。気づいたからといって推理が進むかと言ったらそうじゃないが、なんだか当たり前の条件を見落としていたのは悔しくなるな。
「メガネなのかその委員長は」
「そういうこと、毎度先生に教卓の左正面を指定されてるから可哀想なもんさ。彼女は俺よりも席替えの被害者とも言える。なんてったって席替えの結果で一喜一憂する権利すら与えられていないんだから。さらに前の席だからって先生から頼み事をめっちゃ頼まれてたし」
俺も毎回、席替えの時はネガメじゃなくて良かったなと思う。前の席になった時は俺は遠視なのだとさりげなく「あっれぇ見えない見えない見えない、あ、この位置なら見えるなぁ」とアピールすることはあるけど。
「無理やり推理するんだったら優しい委員長につけ込んで、間接的な不正ってのは?」
持込がそう言った。
...細工は誰でも可能だった、でもう一度考えてみようか。とは言っても持込のクラス事情には明るくないので浅い推理にはなるけれど。だが想像のゲームならこれくらいの情報量の方がむしろやりやすい。
なにも論理的な推理を求めてはいない。
求めてるのは納得出来る結末だ。
脳内で情報を整理する。
大事なのは可能な限り条件を細分化して脳内で枝分かれさせて書き記し、それぞれの情報が確定情報なのか、それとも仮定の情報なのか考えること。こうすると意外と自分で勝手に確定させていた情報が浮きでてきて、穴が空いていたりする。
また、飛躍した想像でもいいからひとまず道筋を立ててみてから後から修正していってもいい。
最初に思ったよりも案外楽しいゲームかもしれない。良い暇つぶしだ。
委員長...
持込が最前列...
目的...
そういえば委員長と持込は隣か...
前なのは副次的なものなのか...
他に...
並び...
やはり後ろの席...
いや...
そうか...
******
さあ想像でしかない解答編だ。
「わかったぜ犯人が」
「本当か? 流石探偵だ」
「まず席替えで細工する目的ってのは大きくわけて二つある」
「...ただ単純に後ろがいいって理由と、仲のいいヤツらでまとまりたいからって理由かな」
そうだ。そして今回は後者、詳しく言えば少し違うが意味合いはほぼ同じだ。
固い思考はやはり良くない。持込の、この考え方はどちらも周りの連中が画策していることで、自分には関係がないと思っている。
「次にお前が前の席だった理由」
「でもなんやかんや僕は、さっきの集団不正が面白いと思ったかな。あれだと俺が前になったっていうのも説明がついてる気がするし」
「でもやっぱり三連続で同じ席はおかしいよな。それにもっと疑うべき可能性がある」
そう、こう考えればもっと綺麗にピースがハマる。全て綺麗に説明がつく。
「まず方法、不正はやっぱり委員長が行った。そしてこちらは思考の訂正、委員長は席替えの部外者なんかじゃない」
「?」
「俺らは思い込みをしていた。持込の席とは関係ないとはいえ、どうせ不正したのは後ろの席のやつだと。そして委員長が不正するメリットはないと。
あと、やっぱり3回連続ってのはなかなか起こり得ることではない。絶対的な力がやはり絶対的な力が働いていたんだよ」
「要するに?」
「だからだな、委員長が犯人で、お前が前の席に来るよう調整してたんだよ」
「なんでだよ」
「そりゃあ、お前と隣になりたかったからって、ただそれだけのことだろ」
「えっ...それって」
「ああ」
数十分前のこの世の全てに絶望していたような死にかけの顔からは想像がつかない程の明るい表情を浮かべ、あからさまにテンションが上がった持込が立ち上がった。俺は一応結論が出たから満足したけど、持込はそれだけでは終わらなかったみたいだ。
こうしちゃいられないと俺を残して勢いよく部室から駆け出ていった、その彼は正直いって阿呆の思考のそれだった。
行く末を、決まりきった行く末へと思いを馳せながら、俺は唯一まともな備品であるポットからお湯を汲んだ。
「あれほど想像だって言ったのに」
多分というか、付き合いが長いと不名誉なことに直感できてしまうのだが、持込はこれから委員長に告白するだろう。もちろん玉砕までがワンセットである。
どうせ席替えは普通に行われて普通にあいつが不運だっただけだろうし、第一あいつが委員長とかいう定番キャラから密かに想いを寄せられているなんてことは、それこそ席替えで三連続同じ席って確率より低いだろう。
字一色、いや、宇宙誕生の確率くらいじゃないだろうか。単純計算でかなり甘く見積もったとしても。
俺は温かいお茶を二人分用意して待つのだった。