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桜、花咲く樹の下で  作者: 羽津根 みちや
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桜、花咲く樹の下で

(今年もそろそろお開きかな・・・)


見上げると花が少なくなって寂しい木の枝と夜の色に変わりつつある空があった。

膝の上のお弁当も冷え始め、ひらひらりと降ってくる桜の花びらが乗っている。


「あれ?お前、なにしてんの?」


ぼーっと空を見続けていると、聞き覚えのある声が降ってきた。


「ご飯を食べてます。そういう先輩こそなぜココに?」

「同期がな、この春から大学の研究室に就職したって言うから揶揄いに来たんよ。」


ドカッと隣に座る先輩に目を移しながら話を聞く。


「て言うか、昼間はいなかったよな?仕事終わってから来たんなら早くね?」


私のお弁当のおかずに入っている唐揚げを口に入れつつ話す先輩を睨む。


「ソレっ!私の好きなやつぅー!!」

「うん、知ってる。」

「部署移動があって、職場が沿線になったんです。おろし唐揚げぇ〜」


「はいはい」と言いながら近くのコンビニに入っていく先輩を見送った。


今いるこの場所は桜の名所でも何でもなく、卒業した大学の最寄り駅そばにある桜の木の下のベンチである。

学生時代には同期達とマンウォッチングしながら駄弁ってた場所だ。


コンビニからお弁当と飲み物を持って先輩が出てくる。


「ほれ」


横に座った先輩がお弁当の蓋を開けて、おろしソースをかけた後の唐揚げを私のお弁当に乗せてきた。


「んで、お前は?」

「花見です。まぁ、今年はそろそろお開きかなぁって思ってたところですケド。」

「もしかして、あの後から?」

「そうですね。正確には去年の春からです」


お互いモグモグしながら話していたが、ふと先輩の動きが止まり、私の方に体ごと向いた。


「あの時さぁ、お前と連絡取れなかったって言ったじゃん。」

「ん、そうですね」

「あれさぁ、半分違うんだよね」


なんだろうと首を傾げる。


「あの時さぁ、お前だけでなく、彼女の同期になるお前らの中の誰とも連絡取れなかったんだわ。俺だけじゃなく、他のヤツもね。」

「連絡しようとすると電話もSNSも繋がらなくて、実際会った時はアノ事を忘れてる・・・でしたっけ?」

「そうそ」


はぁーっと溜息が出た。もう苦笑しか浮かばない。

思い当たりがありすぎて


「あの後、私も同期と連絡取ろうとしたんですよ。彼女の事でね。でも、無理でした。先輩の言う通り連絡取れないし、話ができない。」


横にはまだフタの開いていない缶チューハイがある。

それを弄びながら先輩に返事をすると、隣にいる先輩からすごく驚きつつなんとなく納得している雰囲気を感じた。


「そっか・・・」

「だから方法を変えました」

「ん?」

「それに、あの日に彼女と約束もしたので。」

「約束?」

「はい。『次逢う時はこの桜が咲いたらにしよう』って」

「『次』って・・・」


そこにある缶チューハイは彼女が好きなシリーズの春限定味だった。


「もしかして、ずっと一人でやってたわけ?」

「違いますよ。去年も今年も、同期がみんな集まってました。駅前交番からの視線の痛いこと痛いこと。」


みんなで集まってココでお弁当を食べだした時、中で座ってた筈のお巡りさんが二人共外に出てコッチを睨んでいた。

まぁ、ご飯を食べて少し駄弁った後に解散したので何も言われなかったのだが、「あのまま宴会モードにでもなったら危なかったね」と同期の子と話していた。


「でも、連絡取れなかっただろ?」


不思議そうに問いかける先輩にSNSで利用しているグループメッセージの上にあるグループ名を見せる。

同期のみで使っているグループメッセージだ。


「『あの樹の下で逢いましょう』・・・?」

「はい。」

「グループ名・・・」

「そうです。」

「これで、みんな分かったのか!!?」


驚きながら立ち上がった先輩にサムズアップで答えた。

自分でも、いちかばちかの作戦で、春の開花宣言の時にドキドキしながら弁当と飲み物を買って桜の下のベンチに座ったのを覚えている。


誰も分からないんじゃないかと言う不安は明後日の方向に飛んで行き、都心で働いている同期は、たまにココに足を運び(自分とはすれ違っていたが)、開花宣言と共にほとんどが揃った。

残りも、そんな遠くには勤めておらず、翌日や翌々日、もしくは土日にはここに来ていた。


「まぁ、『何でこの名前なのかはわからないけど、必要なことなんだろう』って思ってくれたみたいです。そして、去年の春に真相を話しました。今年も、一昨日くらいまでは皆いましたよ。」

「はぁ〜マジかぁ〜」


先輩が、ほとんど花が散っている桜の樹を仰ぎ見る


「彼女、寂しがりやだったから、みんなと離れなければいけないって気付かされるのが嫌だったのかもしれないですね」

「お前らって仲良かったもんな〜男も女も関係なくキャッキャやってたしな〜」

「えぇ、本当に楽しかった・・・でも、だからこそ独りになるのは寂しいのかも」


先輩の横で自分も桜を仰ぎ見る。

風が桜の花びらを巻き取って運び去る。


「なぁ、このあと暇か?」

「まぁ、もう家に帰るだけなので暇ですけど」

「1杯、呑んでこうぜ。お前んちの最寄り駅、乗り換え駅だったろ?すぐそこだし行こうぜ。」

「おごりですか?」

「しかたねぇ・・・」

「やりぃっ!行きます行きます!今ならラストオーダー間に合うハズ♪」


嬉々として立ち上がって二人分のお弁当のゴミをコンビニまで捨てに行き、後から来る先輩と合流して電車に乗った。


二人が立ち去った桜の樹の下で再び桜の花びらを巻き上げながら風が吹く。

風が吹くその場所に置いてあったはずのチューハイの缶が、巻き上がる桜の花びらと共に消えていく。





「ねぇ、わたし、貴女の事が好きだったわ。本当に大好きだったの」

「え?過去形?」

「ううん、今も好き!本当に本当に大好き!!」

「良かった〜私も大好き!!だから、絶対にまた逢いましょう!」

「うん!またね!次逢う時は・・・」


『桜、花咲く樹の下で!!』






あの後、二人に事情聴取しました(笑)


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