幼なじみのアイツが好きなのは、俺じゃなくて私。でも俺が好きなのはアイツ。
「よっカケル! 今日暇だから一緒に帰らん?」
「おっ、おう…… いいぞ」
「じゃあ掃除してくるから正門で待っててな!」
「了解」
7限の長い一日を終え、今日も俺たちは放課後を迎える。
いつもと変わらない日常、でも今日の俺はちょっと違っていた。
後ろの席に座る幼なじみとの関係を、1歩進めるんだと。
「じゃっ、ちょっとアイツ待たせてるから!」
「はいはい、上手くいくといいね」
「!? ……なんのこと?」
「全く…… 鼻から息吹き出てるよ? 今日で決めるんでしょ? 頑張れ!」
「……ありがと」
掃除はやらなくちゃいけない事だけやって、挨拶はパス。
とにかく早く、アイツと帰りたかった。
教室を出て、廊下を早足で歩き、階段を下りて正門までダッシュ。
「はぁはぁ…… おまたせ!」
「ふふっ、何帰る前から息切れしてんだよ」
「うっさい!」
「ははっ」
正門に、約束通りアイツはいた。胸のときめきなのか、まぁ息切れなのか。心臓がドキドキする。
ちょっとした会話でも一々心臓がうっさい。
「んじゃあ帰りますか」
「とか言いながらもう歩き出してんじゃん!」
「はっ! はよ付いてこい!」
「私の体力も慮れ!」
俺は早足で歩き出す5メートル先のアイツに向かって、そう大きな声を出す。
「ちょっ、待てってば!!」
非難してるつもりなのに、表情筋は笑顔しか使わせてくれない。
切っ掛けらしき切っ掛けもなく、気付いたらこんな感じだ。
前々から、アイツが俺の事を好きなことは薄々感ずいてはいた。
でも……
応えることは一生無いんだろうな。そんな風に思い、全然向き合おうとはしていなかった。
ただ、この居心地いい幼なじみを続けたかった。
でも、それじゃ満足できなくなってしまった。俺も好きになってしまった。
「あ、朝から思ってたんだけど髪切ったよね!? 似合ってる。可愛いよ」
「そう? やった!」
追い付いて、歩いて。会話して。
アイツは、ちょっとした事にも気付いてくれる。それは嬉しい。好きな人からの褒め言葉。
だけど……
「はぁ…… 」
「どうしたん?」
「いや、なんでもない! なんだっけ? 焼きそばの話?」
「うむ。こないだ食った激辛のヤツがさ~」
ヤバい、ヤなところを見られてしまった。
会話に集中、会話に集中っと。
そこから10分くらい歩いて、もう家が見えそうになってくる。
今日も進展は無し、かな。あんなに意気込んじゃってたのに結局動けなかった。
「なぁ、ちょっと疲れたから休んでいい?」
「え? もう家だけど?」
「い、いいじゃん。疲れたよぉ~」
「ははっ、キモっ」
でも今日はアイツが、ちょっと動いた。
小さい頃よく遊んだ公園で、休みたいだなんて言う。
いつもはガンガン進んじゃうのに。
まぁ彼も片思い歴数年、あと1年で入るだろう大学では別れちゃうかもだから、焦ってるんだろう。
「っしゃ、一回転目指すぜ!」
「いや馬鹿じゃん」
2人でブランコに座り、アイツが馬鹿なことを言って和ませようとしてくる。
でも、2人とも分かってる。ここで変わっちゃうんだって。
そこから数分、お互い何も言えない時間が続く。
「あの、さ」
「うん」
先に口を開いたのはアイツ。
「昔ここで良く遊んだじゃん?」
「そだね。あの頃は自由だった……」
「それな」
勉強も無く、性別もなく。ただ一緒に遊んでいれば楽しかった。
「実はあの頃から……」
「う、うん?」
その一言で、ちょっとビックリする。私の1年は、アイツの10年だった。
ここまで来れば、もう分かる。いや、もうずっと分かってた。返事は1種類しか用意していない。
「ずっと好きでした。俺の彼女に、なって下さい!!」
ずっしりと重い一言。
彼の人生を掛けた言葉。
"はい"を出しかけた口は、脳は、心は、じっくりとその言葉を噛み締めるうちに歪んでいく。
「保留…… させて下さい……」
「えっ、えっ…… う…… ん……」
とんでもないワガママだ。好きな人に好きと言って貰えるなんてどれほど幸せなんだろう。
でも、彼が好きなのはちょっとボーイッシュで、気が置けて、そして可愛い"私"。
彼女にしたい"女"。
でも、俺は、俺自身は……
男になりたい。
女の子でいるのが辛かった。スカートを履きたく無かった。
あぁ、俺は男なんだな。そう理解するのにそれ程時間はかからなかった。
でも、それを言うのは恥ずかしくって。
ずっと女のまま生きてきた。
大学に入ったら変わろう。そう決意して入学した高校で気付いた好きな人は、男だった。
「じゃあ、俺先に帰るわ!」
「うん、ごめんね?」
「いや、いいよ!! 幼なじみから急に言われても困るもんな!」
俺はどうしたいんだろう?
自分の性を諦めて、好きな人と一緒になれれば満足?
好きな人を諦めて、本当の自分になればいい?
アイツが好きなのは、私であって俺ではない。
でも、俺はどうしようもなくアイツが好きだ。
あぁ、目を背けようとしていた。一緒になれれば幸せだと思っていた。
恋人にはなりたいけれど、彼女になりたいわけじゃない。
自分が男だって言ったら、彼は今まで通り好きでいてくれるだろうか? その好きは私が欲しい好きだろうか?
―――――――
「あのさ、一昨日の続き……」
「うん」
「――――――――」
貴方が思う結末を、感想等で聞かせて下さい。