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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第三章 勇者邂逅
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白猫

 ネズミの群れの一匹が足先に触れた。まだ新しい革靴の爪先に齧りついたネズミを蹴り払い、南条は更に上へと移動した。声を限りに叫んで助けを呼ぶことも考えたが、民家も人通りもないこの場所で、助けを呼んだところで応答する者などいるはずもない。仮に助けが来たとしても、数千匹ものネズミの攻撃によって瞬殺され、いたずらに犠牲者を増やす結果に成りかねない。南条の尾行に気づいた甘王によって、南条はこの場所に誘き出されていた。脱出方法などあるはずも無い。




 ネズミの群れに変化が起きた。統率の取れた軍のように動いていたネズミどもに混乱が生じていた。


 樹上から見下ろすと、桜の木を囲むネズミ群の西側に異変が起きていた。我先にと桜の木に殺到するネズミどもの背後を、明らかにネズミよりも大きな獣たちが襲撃している。しなやかに動くその獣は猫だった。四、五匹の猫が、ネズミ群に背後から襲い掛かり、硬い岩盤を削り取るようにネズミどもを蹴散らしていた。


 先頭を走っているのは、夜目にも()えるほど見事な毛並みを持つ白猫だった。白猫は四匹の猫を従え、凄まじいスピードでネズミの群れに突入しては引き返す動きを繰り返していた。五匹の猫は白猫を先頭に一直線に隊列を整え、ネズミ群を後方から突き崩していく。その様は徹底した訓練を施された騎馬隊(きばたい)を南条に想起(そうき)させた。猫たちはがむしゃらに獣の本能でネズミ群に襲い掛かっているわけではない。猫たちの動きには明確な意図があり、敵を粉砕(ふんさい)する意思が感じられた。


 猫たちが使役魔法を掛けられている可能性はない。密集する敵歩兵を突き崩す騎馬隊さながらの動きを、所詮(しょせん)は遠隔操作に過ぎない使役魔法で実践(じっせん)できるはずがない。あの猫たちは間違いなく援軍だと南条は認識した。


 突撃しては引き返す動きを繰り返す猫の数が増えていた。今では十数匹の猫がネズミ群に攻撃を仕掛けている。先頭の白猫は、動きを止めればネズミの群れに囲まれ(むさぼ)り喰われてしまうことを知っていて、一瞬たりとも動きを止めずに走り続けている。猫の数が増えたことにより、ネズミ群の混乱は更に増していた。南条目がけて桜の木を登ってくるネズミの数は目に見えて減少していた。


 猫の動きが変化していた。それまで一本の線のように並んでいた猫たちの陣形が、楔型(くさびがた)に変化していた。重油に覆われたように黒く広がるネズミ群の中央に、矢印を思わせる空隙(くうげき)が現れた。それの意図することを察した南条は、足元に(すが)り付くネズミどもを蹴り上げながら、枝の先端目がけて疾走を開始した。南条の体重に耐えかねた枝が折れる直前、南条は夜の中空に向けて跳躍した。束の間宙を浮いた南条の身体を、秋の夜風が包み込んだ。川の先に視線が向いた瞬間、明かりの灯る赤羽の町並みが見て取れた。あの灯りの中のひとつに明奈がいるのだと考えている自分に気づき、南条は驚きを覚えた。戦闘の最中に他人のことを考えることなど、(いま)だかつて一度も無かったことだ。


 七メートルほど上空から、南条は地表に向けて落下した。猫たちによってネズミのいない空隙となった大地に着地すると、落下の衝撃を殺すため両足を折りたたみ毬のように体を丸めて大地を転がった。

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