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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第三章 勇者邂逅
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即時介入

 異様な雰囲気を察し、暗闇の中で目を開けた。夜の闇に包まれていてようと視界は開けている。色々なものを失ったが、それに見合うほど様々なものを手に入れていた。夜目(よめ)が効くこともそのひとつだった。


 大気が震えていた。帯電しているように、大気は微かだが確実に震え続けている。 


 音もなく寝床を這い出ると、生い茂る草を()き分けて通りに出た。月の無い夜空に向けて顔を上げ、鼻をひくつかせて匂いを嗅ぐ。むせ返るような夏草の匂いに混じり、腐った水の臭いがした。


 臭いのする方向に、ゆっくりと移動を開始する。何か良くないことが起こっているのは判ったが、それでも足は動き続け、濃厚さを増していく腐臭(ふしゅう)に向けて速度を上げていく。


 汚水の臭いに混じった獣臭を嗅いだ瞬間、何が起こっているのかを完全に把握した。誰かがこの付近で、使役魔法を発動させている。


 考えるより早く身体が疾走を開始していた。夏の陽射しを受けて熱を帯びたアスファルトの上を流れるように体が進んでいく。臭いの発生源を特定すると、通りから逸れて最短距離を移動した。草を掻き分け、塀を飛び越え、柵をすり抜けて駆け続ける。振り向きはしなかったが、自分の背後には部下が張り付いて来ているはずだ。ついて来るなと言ったところで聞き入れはしないだろうから、放っておくことにした。


 護岸(ごがん)の為に敷き詰められた石垣を上ると、古くからある児童公園に行きついた。縄張りの外にあるこの公園には、天気のいい春の日に桜見物に来た事があった。小さな砂場と、錆の目立つブランコくらいしかない小さな公園には普段から人影が少なく、目立つことを好まない自分にとっては都合のいい場所でもあったのだ。




 異変は公園の中央に立つ桜の木の下で起こっていた。さして大きくもない桜の若木の根本に、おびただしい数のネズミどもが群がっていた。大地を覆う黒い絨毯(じゅうたん)のようなネズミの群れは、赤黒く光るその目に明らかな殺意を浮かべている。


 ネズミどもの標的は、桜の枝の上に立つ若い男だった。細く不安定な枝の上にあるにも関わらず、男の身体は身じろぎもしない。自身の体重を完全に殺す方法を身に着けている者だけにできる芸当だった。


 数千を超えるネズミの群れは、鳴き声ひとつ上げず、桜の木に立つ男の下へ殺到(さっとう)していた。使役魔法の場合、核となる数匹の個体を操ることで全体を動かすのが常套(じょうとう)だったが、ここにいるネズミどもは、それぞれの個体全ての精神がコントロールされている。外部からの干渉を避け、樹上の男を確実に始末しようと、術者は高度な魔術でネズミども全体を操っている。


 状況をひとめ見て、即時介入(そくじかいにゅう)を判断した。ネズミどもは敵で、樹上の男は救うべき味方だ。決めたら迷うことは無い。背後に従う僅かな手勢を従え、千を超えるネズミの軍勢に背後から攻撃を仕掛けた。



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