表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第三章 勇者邂逅
93/202

跳躍

「死にたいのか南条。ワシの怒りに触れ、ネズミに喰われて死ぬのが望みか?」


 甘王との距離は約3メートル。間合(まあ)いにして三歩ほどしかない。相手が並みの人間であるなら、一息で距離を詰め、頸椎(けいつい)をへし折ることも可能だ。


「殺気が漏れておるぞ、南条。試してみるがいい」


 ブランコから降りた甘王が距離を詰める。甘王の移動に伴い、ネズミの群れが動き始める。


「殺す気はなかったのだがな、光の勇者。しかしワシとお前の関係からすれば、()うたが最後、殺し合わぬわけにはいかぬか」


 甘王の言葉が終わると同時に、足元のネズミどもが南条に殺到(さっとう)した。


 襲い来るネズミの群れに構わず、南条は甘王との距離を詰めた。手足を折り畳み(まり)のように体を丸め、甘王の(ふところ)に跳び込むと、大地が震えるほどの勢いで右足を踏み込み甘王の脾腹(ひばら)に向けて右肘(みぎひじ)を放った。全体重を乗せた肘打ちを雁下(がんか)と呼ばれる人体の急所に叩き込むこの技は、拳法に精通(せいつう)した公孫翔(こうそんしょう)が多用した死技のひとつだ。いかに魔王とて、人の身である限り無傷では済まない。


 必殺の間合いで放ったはずの南条の攻撃は、不意に出現した黒い肉の壁に(はば)まれた。音速に近い南条の攻撃を上回る速さで、ネズミの群れが障壁(しょうへき)となり甘王を守ったのだ。


 間髪いれず、南条はその場から跳躍(ちょうやく)した。自分の攻撃が失敗に終わったのなら、敵の反撃は必至(ひっし)だ。左右前後いずれに逃げたとしても、南条を取り囲むネズミの群れから逃げることなどできはしない。四方から襲い掛かるネズミを(かわ)すため、南条は真上に向けて跳躍した。


 南条の真上には、青葉が茂る桜の枝が張りだしていた。枝を掴み、身体を引き上げ、桜の幹沿(みきぞ)いに移動しながら、南条は眼下の状況を確認する。甘王を中心に、ネズミの群れは直径にして30メートルほどの大地を埋め尽くしていた。木から木へと移動しようにも、南条のいる桜の木から直近の樹木まで10メートルは離れていて、飛び移ることはできない。


「相も変わらず往生際が悪い」


 魔王の声には、どこか面白がっているような(ひび)きが含まれていた。チェックメイトまでの手筋が決まっているゲームの中で、無駄に足掻(あが)く相手に(あき)れているのかもしれない。


「無駄な抵抗は絶望を深めるだけだぞ、南条。逃げ道などありはしない」


 桜の幹を黒く(おお)いながら、ネズミの群れが這い上がってくる。確かに逃げ道はない。跳躍して地面に着地したとして、ネズミの群れを振り払いながら、どれほどの距離を進めるだろう?おそらくは数歩も進まないうちに、全身をネズミに覆われて喰い殺されてしまうはずだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ