解決策
「どうそ。ステアでなくシェイクで作ったマティーニです」
「どうも」
会釈して受け取り、口をつけた。美穂ならともかく、酒を飲まない甘王には味など判りはしなかった。名前を知っているカクテルがたまたまマティーニだっただけだ。
「で、結局落とし所はどうする気ですか?このビルをグラウンド・ゼロにするわけはいかないのでね、あなたの考えを聞かせてほしい」
「単純な事実を理解せよ。この女が死ねば貴様も死ぬ。それだけのことだ」
「つまり、呪いの発動条件がその女の死で、術を喰らうのがわたしということですか」
「ビンゴ。綺麗な蝶々に囲まれて天国に行けるなんて素敵!ロマンチック」
美穂の口調をまねてみたつもりだったが、城山の反応は薄い。場の空気が白けたので、美穂は咳払いをして先を続けた。
「気の毒すぎて笑えるから、防ぐ方法をふたつ教えてやる。ひとつは単純。この女を死なせぬことだ。ありとあらゆる方法を使って、この女を守ればいい。いっそのこと結婚しちゃえばいいのではないかな」
チャオが噴き出し、城山の形相を見て俯く。
「もうひとつも至って単純。ワシの術を跳ね返せるだけの魔法耐性をお主が手に入れること。以上だ」
「例えばその女が不慮の事故で死亡したり自殺してしまった場合はどうなるのですか?」
「術が発動し、お主は死ぬ」
事も無げに美穂が答える。
「おもちがのどに詰まって死んじゃったら?」
険悪な面持ちの城山に代わってチャオが問いかける。
「術が発動し、死ぬな」
「道を歩いていたら隕石に当たって死んじゃったりして」
「アウト。即死!」
「通りでちっちゃいころ大ファンだったケイタ・タチバナに会って、感激の余りショック死しちゃっても?」
「ダメ。発動!って、誰じゃ?そいつ」
チャオとの押し問答が続く間、何事か思案していた城山が顔を上げた。
「決めました」
顔を突き合わせていたチャオから視線を外し、美穂は城山に顔を向けた。先程とは変わって、城山の表情が明るい。
「あなたの提案を受け入れましょう。今日からわたしは、その人の面倒を一生みます。それで万事解決ですね?」
「こやつは名古屋出身だから、結納はちと面倒になるが良いか?」
「大丈夫です。結婚はしませんから。まず彼女の四肢を切断します。それから両目の視力を奪い、舌も取り除いた上で、我々が運営する病院に入院していただきます。その後は最先端の医療技術を用い、徹底した延命処置を施して差し上げましょう。完全看護で、しかも全額わが社が負担。夢のような生活を約束しますよ」
問題が全て解決したとでもいうように、城山は美穂に向けて右手の親指を突き出して見せた。
「そっかぁ。それなら安心だね。死ぬわけじゃないから呪いは発動しないし、ず~っと入院してれば事故や自殺の心配もない。凄いね、ミカ。天才だね」
同意を求めるようにチャオが美穂にウインクする。チャオが美穂に仕掛けてきたくだらないやり取りは、城山が思考を整理するまでの時間稼ぎだったのだろう。一見ふざけているように思えるチャオの行動は、全て城山を利する為に計算されていた。
「なるほど、そう来たか。なかなか合理的であるな。感心したわ」
「気に入っていただけて何よりです。善は急げといいますし、早速処置を行いましょう。チャオ」
チャオの右手に、再び巨大な戦鎌が現れた。
「物質透過で逃げても、いつまでもどこまでもその人を追いかけますよ。人手と資金力では負けませんからね。あなただって、いつまでもその人の中にいるわけではないのでしょう?」
城山の指摘は正しい。術を使用したせいで、美穂の中に残る瘴気は極端に減っていた。美穂との間に生まれたトンネルにしても、いつまでも維持できるものではない。




