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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第二章 魔王復活
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戦鎌

 飛び込んできたのは小柄な若い女だった。ひび割れていたとはいえ、硬質ガラスを突き破り、25階にある部屋へ外部から侵入してきたのだから、この女もまた人間ではないと甘王は判断した。


「ヤッホッー、ミカ。元気?」


 場違(ばちが)いに明るい声で、女が城山に声を掛ける。鮮やかな黄色のパーカーに、スキニージーンズといったラフな格好の女の手には、小柄な背丈を超える巨大な戦鎌(いくさがま)が握られていた。


「仲間がいたとうはのう。油断したわ」


 戦鎌の刃先は美穂の首に密着していた。女が鎌を動かせば、美穂の首は何の抵抗もなく床に落ちる。


「ミカの鼓動(こどう)がメチャクチャ速まってるからさ、びっくりして速攻で来てみたんだけど、ひょっとして大正解?」


「今すぐそいつの首を落とせ、チャオ。そいつは物体を通り抜けられる。殺せるときに殺せ!」


「話は聞こえてたよ。でも大丈夫。今のこいつは何もできない」


 微笑みながらチャオが右手を上げて見せる。チャオの右手は、美穂の左手首をしっかりと握っていた。


「体に直接触れてれば、ぼくも一緒に瞬間移動しちゃうから振り払えないんだよ。でなきゃこいつ、移動するたびに服を置き去りにしてまっぱで現れなきゃならないだろ?」


 チャオは会うたびに見た目と性格をコロコロと変える。今日のチャオのキャラはぼくっ娘らしい。


 城山は立ち上がり、無言のまま部屋の隅にある扉の先に姿を消した。扉には何の表記もなかったが、洗面所であることは想像がつく。


 部屋が揺れるほどの勢いで壁を打つ音が聞こえ、ガラスが砕ける音がそれに続いた。


「嫌なことがあると物に当たるんだよ、ミカは。まったくガキなんだ。ほんと嫌になるよ」


 友達に話しかけるようにチャオが言う。


「犬が飼い主を語るか。面白いな」


「飼い犬だって疲れるんだよ。情けない飼い主だと尚更(なおさら)だね」


 チャオと美穂が同時に笑う。緊張感など欠片(かけら)も無いようだが、チャオが左手に持つ戦鎌の刃は片時も美穂の首筋から離れない。


 扉が開き、城山が姿を見せた。着崩(きくず)れた服を直し、頭髪も整えている。


「見苦しいところ見せてしまったね。もう大丈夫だ」


 城山の瞳が金色に変化してる。金色の瞳は、美穂の目を見つめていた。


「攻守逆転だな。聞きたいことは沢山あるのだが、派手にやり過ぎたせいで時間が限られてしまった。だから質問を絞る。あなたの正体と、わたしに何をしたのかだ。答えてほしい」


「答えたあとはどうする?」


「残念だが女の首は落とす。あなたの大切なパダワンが死ぬのは、わたしを怒らせたあなたのせいだ」


「命乞いをしてもダメか?」


「ダメですね。あなた、少し()り過ぎましたよ。反省していただく為にも、彼女には死んでもらわなければね」


「そうか。では反省をこめて、ワシも簡潔(かんけつ)に答えてやろう。まず第一に、ワシは魔王じゃ。この世界に転生して間もないが、近いうちにこの世界を我が手に収める。人間は数を減らし、ワシに歯向かう者は完全に駆逐する。この女の命乞いを拒否したのだから、ワシも貴様らを許さぬ。気の毒だが処刑決定じゃ。残念じゃな」


 チャオが口笛を吹く。目を閉じたまま、城山は美穂に先を(うなが)す。


「第二に、ワシは貴様に術を掛けた。ワシの思念を使って、ちょっとしたプレゼントを貴様に施してやった。存分に堪能(たんのう)するがよい」


「なるほど。正体を明かさなくても、そのうちに会えるということですね。どんな術を掛けたのか知りませんが、まぁわたしなら死にはしないでしょう。解りました。チャオ、もういい。女の首を落とせ」


 興味を失くしたように、城山は美穂に背を向けた。チャオの持つ戦鎌が妖しい輝きを放つ。

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