物体透過
城山の手にした槍の穂先が、美穂の腹に突き刺さる。苦痛に歪む美穂の顔を見て、能面のような城山の口角が吊り上がる。
「きれいにピン留めしてあげますよ。そのあとで一緒に写メでも撮りましょう。いい記念になります」
槍の穂先が美穂の腹に潜り込んでいく。槍は美穂の身体を貫通し、背後の壁に突き刺さった。槍を手放した城山が美穂を指差すと、背後の魔方陣からアイスランスの一斉射撃が開始された。
「カッコいい風のナイトでしたね。でも終わりだ。つぶれたカボチャになっちゃいな」
下卑た笑い声を上げながら、城山は美穂が突き刺さった壁を凝視した。針山のように壁に突き刺さった無数の氷の槍と、砕けて舞い上がる霧氷のせいで、美穂の姿は視認できなくなっていた。
「すでに原型も留めてないか。気の毒になぁ」
言葉とは裏腹に城山の口角は上がったままだ。青く長い舌がせわしなく唇を割って出る。
「誰がカボチャじゃ。パンプキンはお前じゃろうが」
舞い上がる霧氷の中から、美穂が姿を現した。
「バカな。ありえない」
無数の氷柱を全身に浴びたはずなのに、美穂の身体には傷ひとつ無かった。
「くっ!」
城山の背後に、再び魔方陣が浮かび上がる。
「拙い技で魔力を無駄にするな、愚か者」
腕組みをした美穂が城山を一喝する。
「わたしの槍は、間違いなくお前を刺し貫いたはずだ。なぜ・・・・・」
「物体透過を知らんのか。壁を通り抜けるのに良く使うじゃろう」
「壁を、通り抜ける?」
呆れたように美穂が額に手を当てる。
「物体を透過して移動する能力じゃよ。これができなければ、瞬間移動もままならぬだろうが」
美穂の声をを無視して、城山が美穂を指差す。
「アイスランス!」
氷の槍の一斉射撃が再開されたが、美穂は構わず城山との距離を詰める。城山の放つ槍はことごとく美穂の身体を通り抜け、背後の壁に突き刺さった。
美穂の顔が城山の視界一杯に広がった。細く白い美穂の人差し指が、城山の額を突く。
「終わりだ。ワシの勝ち」
美穂は城山の額から指を離し、ゆっくりと距離を取った。城山の背後にあった魔法陣が消え、壁に刺さった無数の氷柱も消えてなくなった。
「わたしに、何をした?」
床に膝をついた城山は、呆然として美穂を見つめていた。
「ちょっとした術をな、掛けさせてもらった」
城山の視線が美穂を離れ、窓に向いた。美穂が身構えるより早く、ひび割れた窓ガラスが吹き飛ぶように四散し、窓の外から黒い人影が飛び込んできた。




