要望
「回復魔法。そこまで酷い状態でも瞬時に治せるんですね。驚きです」
「危ういところだったぞ。酸欠で脳に障害が生じていれば回復魔法でも完治はさせられれぬ。もっとも、この女はもともとクルクルパー助ちゃんだから、さほど今と変わらぬだろうがな」
「なるほど。では、首を一瞬で切り落とせば」
「死ぬだろうな。回復魔法とはいえ完全ではない。人を不死身にはできぬ」
城山に向けて微笑んでみせた。折れたはずの前歯も完全に再生している。レフェクテイォで活性化された美穂の身体は、生命エネルギーに満ち溢れ、輝いて見えた。
「美しい。素晴らしい効果だ」
美術品の品定めでもするように、左右に移動しながら美穂を眺め、城山が呟く。
「三つ目に・・・・・」
「えっ、問題はふたつでしたよね?」
「今思いついた。なに、大したことではない。些細なことじゃ」
「伺いましょう」
美穂の右手が伸び、人差し指が一直線に城山の顔を指差した。
「よくもやってくれたわね。このキモオタ変態トカゲ名人!先輩、いいから、この妖怪トカゲラーをボッコボコにしちゃって」
美穂の声が部屋の隅々まで響き渡る。レフェクティオの影響で、美穂は意識を取り戻していた。激昂してはいたが、美穂は自分を見失っていない。城山の呼び名こそトカゲ星人からトカゲ名人に変わっているが、甘王のことはあまあまではなく先輩と呼んでいる。呼び名を変えることで、甘王個人を特定する情報を隠している。
「とまあ、ワシの愚かなパダワンがこう申しておるのでな。悪いが少しだけ、お主をボッコボコにせねばならん。そのあとでお主に息があり、気が変わらなんだら、ワシを銀座のクーラブとやらに招待してくれ」
城山の顔から笑顔が剥げ落ち、表情のない能面のような目が美穂を見つめていた。
「わたしと遣りあうというのですか?その女の体を再生不可能なほどに切り刻めば、あなたも少しは素直になってくれますかね」
城山の周囲の空間が歪んでいた。城山の内部に潜む高出力のジェネレーターが音も無く稼働を始め、強大なエネルギーをその身に蓄積し始めている。
「ほう、魔力が上がったな」
美穂の中の甘王が微笑む。転生してから、この世界に於いてただの一度たりとも、他者から魔力や妖力を感知することは無かった。たとえ敵とはいえ、魔力の存在を裏付ける者が眼前に現れたのはうれしい驚きだった。




