再生
もう少し早く介入するべきだったが、思いのほか美穂の抵抗が強く、美穂の意識を乗っ取ることができなかった。
甘王の想像以上に、美穂は自分の置かれた状況を理解していた。相手の言いなりにならず、終始相手を翻弄する言動を取る美穂を、半ば感心し半ば呆れながら見守っていたのだが、さすがに人外の者が相手ではこの辺りが限界だろう。
全身を締め付けていた圧力が消え、糸の切れた人形のように体が床に落ちる。両手を床に着いて体を起こし、ヒビの入った窓ガラスに寄りかかりながら立ち上がった。
「うわっ、なんか古いホラー映画で見たことあるよ、それ」
城山が手を叩いて喜ぶ。美穂の視線を動かし、美穂の全身を見て、甘王も城山の言葉の意味を理解した。頸椎の砕け散った美穂の首は捩じれ、180度転回していた。美穂は今、背中を向けたまま首だけを城山に向けている。
「大丈夫なのかい、それ。息とかちゃんと吸えてる?手遅れみたいだけど、一応医者に診てもらう?」
美穂の死を確信した城山は、異形の姿を隠し、人の姿に戻っていた。
「心配には及ばぬ。それより、うちのバカアホ・ストゥーピッドちゃんが随分と世話になったようだな」
敵に対して容赦はしないが、命を奪う相手を愚弄する趣味は甘王にはない。城山のやり方はどうにも甘王の癇に障る。
「きみはさっきの子じゃないね。どうやら、求めていた人に会えたのかな」
「そのようじゃの。別に隠れてはおらんので、アポとやらを取ってくれればワシから出向いたのにな」
「だったらこれから別の場所で話しませんか?お嫌いでないなら銀座のクラブに席を設けます」
「銀座のクラブ。そこで何ができる?」
「なんでも思いのままにどうぞ。それだけの力を、わたしは持っています」
「それは凄い。で、この女はどうする?」
「残念ですが、その身体はもう長くは持たないでしょう。死体はこちらで処理しますから、遠隔操作を止めてご自身でいらしてください。場所を教えていただければ、迎えを送ります」
笑おうと口を開くと、美穂は口から大量の血を吐き出した。破れた内臓からの出血が逆流し、折れた歯と共に口から噴出したのだろう。
「問題がふたつある。まず第一に、ワシは最近、自分の稼ぎで飯を喰うことを覚えた。他人からの施しでものを喰うても、あまりうれしくない」
両手で美穂の頭を掴み、勢いよく捩じる。骨の砕ける異様な音と共に視線が廻り、窓の外の富士山が目に映る。視線を下に向けると、はだけたブラウスの隙間から美穂の胸の谷間が見えた。体を回転させ、城山と正対する。
「次に、この女は死んでおらん。それどころか、以前より体調がいいようだ」
美穂の全身を碧色の光が包み込む。光は水のように美穂の体表を流れ落ち、床の絨毯に吸い込まれ消滅した。美穂の傷は塞がり、砕けた骨も傷ついた内臓も瞬時に修復されていた。今の甘王にとって、レフェクティオ程度の回復魔法なら呪文詠唱の必要もない。
「素晴らしい」
城山が感嘆の声を上げた。




