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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第二章 魔王復活
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圧力

 美穂の右手がドアノブに触れた。無我夢中(むがむちゅう)でドアノブを(まわ)し、ドアを開ける。


 首を絞めていた圧力が消えた。激しい呼吸を繰り返し、肺に酸素を取り込んだ。息をすることに夢中で、開いたドアの向こうに足を運ぶことを忘れていた。


 強い力で突き上げられ、美穂の体が床から離れた。凄まじい勢いで押し上げられ、全身が天井に叩きつけられた。部屋の中央で城山が美穂に向けた右手を振ると、美穂の体は人形のように右に跳び、巨大な世界地図が貼りだされている部屋の壁に激突した。


「馬鹿が。逃げられると思ったか?」


 城山が美穂に向けた右手を下ろすと、美穂の体を(おお)っていた見えない圧力が消えた。派手な音を立てて床に落ちたが、部屋の外からは何の反応も無かった。


 城山がドアを指差すと、叩きつけるような勢いでドアが閉じた。


「凄いだろう?ベイダーチョークって名付けたんだけど、多分本家よりも強力だよね」


 確かに有名なSF映画に出て来る悪役の術に似ていた。ちっとも笑えない最低のネーミングだったが、見えない右手のくびきは強力だった。


「ああ、なんだかもう面倒臭(めんどくさ)くなってきちゃったな。あとの言い訳が面倒だけど、このまま部屋の窓から飛び降りちゃいなよ。もういいや」


 城山が美穂に向けて左手を翳すと、床に転がった美穂の体が再び宙に浮き、小さな映画館のスクリーンほどもある部屋の窓に叩きつけられた。体の内側から響く骨の砕ける絶望的な音に耳を(かたむ)けながら、ベイダーチョークは左手でもできるんだと考えている自分に(あき)れていた。


 強大な力で、全身が窓に押し付けられている。冷房の効いた室内であるにも関わらず、窓ガラスに押し付けられた頬が熱い。窓の外には強烈な八月の陽射しが輝いている。高層ビルの窓ガラスは、ハンマーで叩いても割れないという話を聴いたことがあるが、否応なく押し付けられた耳からは、硬質ガラスにひびが入っていく音が聞こえてくる。


 ピキピキと音たて、ガラスに亀裂(きれつ)が走る。それと同時に、見えない圧力に耐え兼ねた美穂の頸骨(けいこつ)が派手な音を立ててへし折れ、再生不能なまでに粉砕された肋骨(ろっこつ)が次々と内蔵に突き刺さり臓器を破壊していく。急激に生じた激烈(げきれつ)な痛みが美穂の全身を駆け巡ったが、幸運なことに脳はその痛みを遮断(しゃだん)し、美穂の意識は完全に消失した。


 意識を失くした美穂の唇が微かに動いた。美穂の最後の言葉に興味が()いた城山は、耳をそばだてて美穂の声に集中した。


「選手、交代」


 城山の鼓膜が、美穂とは別の男の声を捉えた。

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