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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第二章 魔王復活
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接触

 小山美穂(おやまみほ)を救ってから、一週間が経過した。


 大塚駅前の騒動の翌日だけ、甘王は美穂と待ち合わせして、美穂の勤務先である池袋まで通勤を共にした。甘王の予想通り、美穂に掛けられた呪いは払拭(ふっしょく)されていて、電車を前にしても美穂は平然としていた。


 次の問題は、美穂に呪いを掛けた者がどういったアクションを取ってくるかということだ。あの日、美穂は山手線を使用して何事もなく出勤している。美穂を救ったのは午後だから、美穂が呪いを掛けられたのは勤務中だということになる。となると、術者は美穂の勤務する職場の人間である可能性が高い。いつも通り何事もなく出勤してくる美穂を見て、敵がどういいう手段を講じてくるのかが問題だった。


 現在、甘王と美穂の間には、同じ瘴気を有することによって繋がったトンネルができている。本体である甘王が望めば、24時間いつでも美穂の肉体にアクセスして、美穂の目を通して視ることが可能だ。敵が美穂に攻撃を仕掛けてくれば、甘王は即座にそれを感知することができる。




「ちょっとやばいんだけど」


バイト終わりの昼過ぎに美穂から着信が入った。テレパシーでの会話が可能なのにも関わらず、美穂は甘王のスマホの番号を聞き出し、毎日のように電話してきた。重要な案件は何ひとつ起きていないにも関わらず、美穂はその日にあったことをこと細かく甘王に説明する。社員食堂の昼飯に、嫌いなひじきが出たなとどいうくだらない話まで聞かされるのはストレスだったが、敵の正体が知れるまでは仕方がない割り切った。ことが済んだ暁には、美穂の番号は着信拒否するつもりでいた。


 美穂からの連絡が入ったとき、甘王は新宿でリャンピーを食べていた。


「すごくやばい。なにそれってくらいヤバイ」


 打ち解けたのかどうか知らないが、甘王に対する美穂の口調はかなり砕けたものに変わっていた。上品そうな見かけとは異なり、美穂の口調は品がなく、話の内容も幼稚だ。


「你怎么了?(どうしたの?)」


「なにそれ?意味わかんない」


店の中では中国語を話していたので、思わず口をついて出てしまった。中国人の経営する店で食事しているうちに、自然に中国語を覚えてしまった。愛想がまるでないような店のおかみは、甘王が中国語を話せるとわかると途端に打ち解けて、あれやこれやと頼んでもいない料理をサービスしてくれた。


「なんでもない。で、何がやばいのだ?ランチに嫌いな長ネギでも入っていたか?」


「えっ、なにそれ?わたしネギ大好きだよ。ネギ美味しいよね?」


 ネギ嫌いはイ・モウトゥだった。


「ちょっと聞いてよ。なんかね、昼休み終わったら、社長室へ来るように言われちゃったの。社長だよ。プレジデント&CEOだよ」


「社長とやらとは面識があるのか?」


「こっちは顔知ってるけれど、向こうは知らないんじゃないかな。金髪でね、すっごくカッコいいの。何の用かなぁ。話したことなんてないんだけどな。ひょっとして玉の輿?」


 玉の輿の意味はわからなかったが、美穂の能天気さだけはよく解った。憑依した際に美穂の記憶を探ったが、呪いを掛けた相手の記憶は存在しなかった。術を掛けると同時に、自分の存在を相手の記憶から削除しているからだ。相手が誰であろうと疑ってかからねばならない状況なのに、美穂の頭の中では全てが色恋沙汰に変換されてしまう。


「昨日エステ行こうと思ってたんだけど、今月ちょっとピンチじゃない?そしたらこれだもん、嫌になっちゃうよ。今日コンシラーも持ってきてないしさ。あ、でも大丈夫かな。ナチュメ好きなタイプかも」


「主を呪った相手かもしれぬ」


「えっ、なにそれ?有り得ないから。相手超リッチだよ。セレブ。なんでそんな相手から恨まれるの?ないから。無理だから。呪いなんて古臭いもの使わないし。お金でなんでも解決だから」


「相手は根にもっておるかもしれぬぞ。もしくは口封(くちふう)じとかな」


 その男が美穂を呪う原因があるとすれば口封じの線が高い。


 電話の向こうでは美穂が、付き合ってくれと言われたら即オーケーしようか、じらした方がいいかなどというくだらない話しを延々と続けている。呆れて電話を切ろうとしたとき、美穂が不意に気になることを口走った。


「社長ってさ、目の色、紫なんだよ。めずらしいよね。カラコンかな」


「紫?いつ、どこで見た?」


「あれ、どこだったかな。そんなに近くで話したことなんてないんだけどな」


 魔属性の能力者のオーラは紫が多い。魔王である自分の瘴気は黒に近い赤紫である至極色(しごくいろ)だ。


 甘王は美穂の中に残留する瘴気にアクセスしてみた。それまでに何度か試そうとしたが、今日にいたるまで試してはいなかった。奥手な甘王隆のことだから、美穂のプライバシーを覗き視ることに抵抗があったのかもしれない。


 スマホの向こうの美穂の声が止んだ。左目を瞑ると、美穂の持つスマホの画面が見えた。通話相手はあまあまと表示されている。


「あまあまってワシのことか」


 美穂は周囲を壁板に囲まれた狭い個室の中に座ったいた。スマホを置いているのは、ストッキングも履いていない膝の上だ。


「ば、馬鹿か、この女。なんでトイレから」


 どうやら美穂は、トイレから用を足しながら連絡しているらしい。驚いて閉じていた左目を開くと、関を切ったように美穂が話し出す。


「ねぇどうしよう。ほんと、何の話かな。やばくない?あまあま最大のライバル登場だよ」


 一週間前、生理的に無理だとまで言い放ったにも関わらず、美穂の中では甘王もまた自分の信者となっているらしい。


「あっ、もう時間無い。行かなきゃ。メイク直して行かなきゃ。じゃあね、あまあま。結果はカミングスーン」


 叩き切るような勢いで美穂が通話を終える。店の壁掛時計は12時50分を指していた。昼休み後というのなら、13時ちょうどに面談するのだろう。

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