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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第二章 魔王復活
71/202

変貌

 美穂の唇が(めく)り上がり、邪悪な笑みが浮かび上がる。


「甘王隆。(あわ)れな奴よ」


 死にかけの甘王の肉体に声を掛けた。


 美穂の体に憑依した瞬間、それまで持っていた人間どもに対する僅かな憐れみはきれいに消えて無くなった。それと同時に、失われていたはずの魔力が体の内から沸き出してくるのが感じられた。


 


 路面電車の後方に停車していたトラックが、渋滞にしびれを切らせてクラクションを鳴らした。


 それまでさほど意識せず耳に馴染(なじ)んでいたはずのクラクションの音は、極めて不快な音として美穂を操る魔王の鼓膜(こまく)を震わせた。


「やかましいのぅ」


 建設資材を満載したトラックに視線を向け、思念を車体に集中した。4トンはあろう車体が1メートルほど路面を離れ、勢いよく路上に叩きつけられた。凄まじい地響きと共に、トラックの車体がアスファルトに喰い込んでいく。衝撃で外れたタイヤの一本が、反対車線に向けて転がり、走行車両と激突して多重衝突事故を呼び起こした。


 美穂の口から甲高い笑いが(ほとばし)る。トラックの運転席から運転手が路上に転がり落ちる。生きているのは偶然ではない。無様に這いつくばる姿が見たいから手加減をしたのだ。


 腕に抱えていた甘王の体を投げ捨て、美穂は立ち上がった。周囲の風景が変わっていた。甘王隆の目を通して見る世界とは異なった世界が広がっていた。


「これこそが、ワシの世界」


 かたわらの老人が連れている小型犬が美穂に向けて激しく吠えたてるが、美穂が一瞥(いちべつ)すると口から泡を吹きながら昏倒(こんとう)した。老人と買い物途中の中年主婦のふたりの顔色が青黒く変色していく。


 魔王の放つ闇の波動は、弱い人間の命を削り取っていく。美穂の身体が魔王を完全に受け入れれば、魔王に接近した人間の大半は衰弱し死んでいくだろう。


 僅かに目を開き、荒い呼吸を繰り返す甘王の肉体を見下ろした。甘王隆は死に(ひん)していた。しゃくりあげるような荒い呼吸は、心臓停止直後に起こる死戦期呼吸(しせんきこきゅう)といわれる末期(まつご)息遣(いきづか)いだった。だが新たな肉体を手に入れた魔王にとって、死にゆく甘王など脱ぎ捨てた服ほどの価値もない。


「甘王隆。大義であった」


 嘲りの笑みを投げ掛け、甘王に背を向けて歩き出した。魔王として完全に復活したわけではないが、それでも行使できる魔力は格段に上がっていることが解る。今の自分に何ができるのかを把握する為に、まずは攻撃魔法を発動させ、大塚駅周辺にいる人間どもを一掃する。この世界の人間との全面戦争になるだろうが、魔力が完全に回復すれば負ける気はしなかった。


 舌を口蓋(こうがい)に這わせると、いつの間にか牙が生えていた。魔力と相性のいい美穂の肉体は、どうのようにも変幻可能なようだ。見る者が凍りつくほどに美しく、邪悪なフォルムにしようと決めた。魔王ではなく、邪悪なる闇の女王の誕生だ。


 陽の光が途切れ。黒い影が辺りを覆った。灰褐色(はいかっしょく)の狂暴な雨雲がどこからともなく現れ、夏の青空を埋め尽くしていく。大気を変動させることなど、魔力が復活してしまえば造作もないことだ。


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