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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
プロローグ
6/202

氷の刃

「喰い殺せ」


 上空から勇者を指差(ゆびさ)し、スキュラをけしかけた魔王は、地上の勇者が何かを口に(ふく)むのを見た。特殊効果(とくしゅこうか)を持つ魔法樹(まほうじゅ)の実かなにかだろうと見当をつけたが、今更(いまさら)肉体を(いく)らか強化しようが、それでどうなるものでもないと高を(くく)った。魔法樹の実の中には、厄介な特性を肉体に付与するものがある。だが大抵の場合、強い力を持つ実はもいだその場で食さなければ効力を発揮しない。持ち運んで口にできる程度の魔法樹の実に、過剰(かじょう)な警戒は必要ないと判断した。


 炎に包まれたスキュラは、六つのオオカミの口から牙を剥き出しにし、勇者に襲い掛かった。スキュラの戦闘力は、肉弾戦(にくだんせん)となれば飛びぬけている。生身の人間である勇者に、勝ち目などありはしなかった。


「バゴス・テリコス!」


 叫ぶ勇者の声を聴いて、魔王は眉をひそめた。人間である勇者が、凍結(とうけつ)魔法最高難度のバゴス・テリコスのような強大な魔法術式(まほうじゅつしき)を使用するには、強い精神力と長い呪文詠唱が必要だった。勇者は詠唱などせずにただ術式を叫んだだけだ。魔法など発動するわけはない。


 勇者の魔刀が眩い光を放ち始めた。青く輝く魔刀を逆手に持った勇者は、腰を落とし微動だにせず、襲い掛かるスキュラを待ち受けていた。


 スキュラの巨体が勇者の体を(おお)う瞬間、魔王の視界から勇者の姿が消えた。人の筋力の限界を遥かに超える速度で勇者の体が動いていたた。


「馬鹿な」


 尋常(じんじょう)でない速度で、勇者はスキュラの顎に向けて跳躍していた。その行動は、勇者が自分からスキュラの顎へ飛び込んでいったようにさえ見えた。


 スキュラが勇者を噛み砕く寸前(すんぜん)、両者の動きが空中で停止した。勇者の持つ魔刀、玉鋼有明の切先が、燃え盛るスキュラの首のひとつに突き刺さっていた。


 スキュラの全身を包む煉獄(れんごく)の炎は、スキュラの首元にぶら下がる勇者の体を焼くことはなかった。突き刺さった魔刀の冷気は、燃え尽きることのない煉獄の炎ごとスキュラの全身を包み込み、氷漬けにしていた。


 炎を(まと)った氷の彫像(ちょうぞう)と化したスキュラの首から、勇者が魔刀を引き抜いた。それと同時に、氷漬けのスキュラの体は無数の氷塊(ひょうかい)となって砕け散った。




 大地に降り立った勇者に、無数の氷の結晶と化したスキュラの体が降り注いだ。魔王城の縦穴(たてあな)から(わず)かに侵入してくる太陽の光が反射して、降り積もる氷の結晶はきらきらと輝いて見えた。


「永遠の終わりだ。眠るといい」

 

 頬に付着した氷の粒を拭い、勇者は消えゆく怪物に(もく)とうを捧げた。

 

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