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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第二章 魔王復活
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荷台

 兄からの電話を受けてからきっかり10分で、兄がいる公園の駐車場に到着した。


 子どもの頃、荒川の対岸で打ち上げられる板橋区の花火大会を、兄と一緒にこの公園で見物したことがある。ここから家までなら、歩いても30分かからないはずだが、5年引き(こも)っていた兄は方向感覚も失ってしまったのかもしれない。




 駐車場の入口脇にあるガードレールに腰掛け、兄は冬の夜空を見上げていた。何があったのかは分からなかったが、駐車場の周囲には多量の鳥の羽が舞い、駐車場からは強烈な異臭がした。


 兄の前に自転車を止めると、空を見上げていた兄があかねに顔を向けてきた。兄の顔は血まみれで、服はぼろぼろだった。


「どうしたんだ兄貴!」


 自転車を歩道に倒したまま、あかねは兄に駆け寄った。


「ちょっと小突かれただけじゃ。心配には及ばぬ」


 何事もなかったように兄が答える。


「いや、やばいだろうそれ。救急車呼んだほうがよくないか?」


 赤紫に()れあがった顔のまま、兄が首を左右に振る。


「大丈夫じゃ。それより、すき焼きとやらを食すのであろう?どうなんじゃろうな。タコ焼きより美味(びみ)であろうか?」


「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。見せてみろよ」


 兄に近づき、顔の傷を見た。傷は他者からの暴力で負ったものであることは、格闘技をやっているあかねからすれば一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった


「誰にやられたんだよ。知り人がどうとかいってたけど、そいつにやられたのか?」


「送れといったのに、逃げてしまいおったわ。(とど)まっておれば記憶を消してやれたのにのう。この先あやつ()は、生涯鳥とネズミに怯えて生きていくことになる」


「なに訳わかんねぇこといってんだよ。つまり、やられたけど仕返ししたってことでいいのか?」


「それでよい。いや、むしろ連中には感謝せねばならんな。一刻(いっとき)とはいえ、あやつ等のおかげで魔力を取り戻せたのだからな」


「頭打っておかしくなってねぇか。大丈夫だっていうなら信じるけど、熱でたらすぐに救急車呼ぶからな」


 首に掛けていたスポーツタオルで傷についている血を拭うと、兄は苦痛に顔を(ゆが)めた。


「痛いぞ、イ・モウトゥ」


「帰ったらもっと痛くするぞ。顔中消毒しなきゃだからな」


 ふんと鼻を鳴らずと、兄はあかねに向かってニヤリと笑った。


「ワシを痛めつけて無事でいられるのは、イ・モウトゥとオ・カァサンだけじゃ。感謝するがよい」


 軽口を叩けるならとりあえずは大丈夫だろうと思い、あかねは歩道に倒した自転車を引き起こした。サドルに(またが)り、荷台に乗るよう兄を(うなが)した。


「帰るぞ。乗れよ」


 あかねの顔と荷台を交互に見比べたあと、兄はぎこちない動作で荷台に跨った。


「これは、電車や自動車よりも乗り心地が悪いのう」


「跳ばすから、しっかり掴まれよ。腰より上触ったらぶっ飛ばすからな」


 べダルに足を掛けた瞬間、兄の手があかねの胸を握った。


「いぎぃっ」


 怒りに満ちた目を兄に向けた。


「ワシの本棚にある書物によると、こういうのをお約束というらしい。間違っておるか?」


「ほう、そうかい。じゃ、こういう場合のお約束で、あの月の向こうまでぶっ飛ばしてやろうか?」


「すまん、ワシが悪かった。許せ」


 兄の腕が腰に廻されたのを確認すると、あかねは自転車のペダルを漕ぎ始めた。数年に渡る不摂生(ふせっせい)の影響で、兄の体重は百キロに近い。自転車の後輪が沈み、ひと漕ぎするだけでも苦しかった。


「太りすぎだぞ、兄貴」


 最初はゆっくりだったが、自転車は徐々にスピードを上げ始める。


「どうやらそのようじゃ。動きが重い。今日それを痛感したぞ」


「だったら運動しろよ。ヒマだったら付き合うせ」


「そのときが来たら力を借りよう」


「いつでも言えよな。わたしの特訓は半端(はんぱ)じゃないぜ」


 自転車は街灯の少ない幹線道路を北に向けて加速していく。


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