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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第二章 魔王復活
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送迎

 埼京線で新宿に向かい、魔王は新宿の街を歩いてみた。どこもかしこも人間だらけで、歩いているうちに気分が悪くなってきた。人間をのさばらせれば、空も大地も水も、空気すら汚染された世界になる。やはり人間は、その数を大幅に間引(まび)く必要があった。この薄汚い世界の空を、サラマンダーで埋め尽くしたなら、人間どもはどんな表情を見せるのだろう。そのためには一刻も早く魔力を取り戻す必要があった。

 ほぼ一日かけて、東京の街を見学して歩いた。腹が減ったので、通りにある小さな店でたこ焼きを買って食べた。初めて食べるたこ焼きはうまかったが、不用意に放り込んだせいで、口の中を火傷した。


 浮間船渡(うきまふなと)に着くと、歩いて甘王家に向かった。陽は(かげ)り、(あた)りは暗くなりはじめていた。


 人気のない道を歩いていると、自動車とかいう液化燃料(えきかねんりょう)で動く荷車が自分のすぐ脇に並んだ。箱型で黒色のその車は、速度を落としたまま甘王と同じ速度で並走(へいそう)を続けている。無視して歩き続けていると、その車から不快な音が鳴り響いた。相手の注意を引く際に鳴らすクラクションとかいう機能だろう。新宿で何度か耳にしたが、近くで聞くと思った以上に威圧的(いあつ)な音だった。


「よぉ、お前甘王だよな?甘王隆。そうだろう?」


 自動車の窓ガラスが下がり、若い男が声を掛けて来た。黒い眉毛と比較して、不自然なほどに茶色い髪をしている。


「確かにワシは、この世界では甘王隆と呼ばれておる。して、お主は何者じゃ?」


 茶髪の眉間に皺が寄る。


「お前ふざけんてんの?なんだよ、その喋り方」


 自動車の中から、茶髪が火のついた煙草を投げつけてきた。煙草は甘王の左胸に当たると、火の粉を散らして歩道に落ちた。


「ふむ。どうやらワシとお主は、友好的な関係ではないらしいのう」


「何言ってんだ、てめぇ。おい、ちょっと止めろ」


 茶髪が右隣にいる男に声を掛けると、自動車は車道の脇に停車した。どうやら右側の男が自動車の御者(ぎょしゃ)であるらしい。


「タカシちゃん、おれのこと覚えてねぇの?」


 自動車のドアが開き、茶髪が車道に降りて来た。茶髪の男は背こそ甘王より高かったが、細く貧弱な体つきをしていた。


「お前ニートだよな、タカシちゃん。バイト先で女にいじめられて、ニートになっちゃったんだろ?」


 甘王の前に立ち塞がり、茶髪が顔を近づけ声を荒げる。ひどい口臭だった。


「ニートは止めた。今は魔王をしておる」


「わけわかんねぇな。前からアマオウだろうがよ」


 魔王と甘王を混同しているようだが、音が似ているから仕方がない。


「で、ワシに何のようじゃ?寒いのでなぁ、さっさと帰ってお茶飲みたいんじゃがな」


「だったら送ってやるよ。後ろに乗れや」


 薄笑いを浮かべながら、茶髪が自動車の後部座席を指し示す。


「それはありがたい。自動車とやらにも乗ってみたかったところじゃ。電車と違って少し狭いようだな」


 黒くツヤのあるドアが音もなくスライドした。建物にある自動ドアとかいう技術が、この小さな荷車にも装備されていることを知って、甘王は少なからず驚いた。


 茶髪に促され、後部座席に乗り込んだ。中は薄暗く、大音響で音楽が鳴っている。


「アマじゃん。すげぇな」


 甘王の姿を見て、後部座席に座っていた大柄な男が声を上げる。図体はでかいが、ニキビの跡が残る幼い顔をしている


「ワシの家は知っておるのか?今日はオ・カァサンが夕飯を作ると申しておったのでの。急いでくれ」


 前の席に乗り込んだ茶髪と隣のニキビが同時に笑い出す。茶髪の隣にいる金髪の男も、ハンドルを叩きながら笑っていた。


「お母さんの夕飯かよ。いいねぇ引きニート様は」


 茶髪が煙草に火を点けながら甘王を見る。


「すぐに送ってやるよ。けどな、その前にちょっとだけ寄り道するからよ」


 茶髪が吐き出す煙草の煙が不愉快だった。中にいる他の二人もいけ好かない。どうやらトラブルに見舞われたようだと悟ったが、車のドアは開いたときと同じように音もなく閉じていた。



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