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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第二章 魔王復活
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魔王覚醒

  目を開くと、見慣れぬ天井が見えた。異様に低く、薄汚れた天井だった。その天井に、半裸の女を描いた絵が所狭しと貼り付けれらている。人間たちが作り上げた神を祭る教会とかいう建造物の天井に、似たような装飾が施されていたのを思い出した。


 記憶を辿(たど)るうちに、強烈な怒りが込み上げてきた。感情などというくだらない物は遠い昔に捨て去ったつもりでいたが、腹の底から湧き上がり脳天にまで達する激情は、長年忘れていた怒りそのものだった。


「小僧」


 あの人間の小僧、力などまるでなく、赤子同然に無力な存在だったくせに、まんまと手の内に乗せられ、してやられた。


 龍の(あぎと)の奥に光る灼熱(しゃくねつ)の炎を目にしたときには、さすがにここまでかと腹を括ったが、こうして目覚めたということはそれも杞憂(きゆう)に過ぎなかったということだ。


 龍の吐く灼熱の炎の直撃を受けたのだから、自分はともかく、人間であるあの小僧は跡形もなく消滅したのだろう。そう思うと、全身を(さいな)む激情も幾分和らいだ。光の勇者を語る愚かな小僧は死に、自分はまだこうして生きている。龍の王という邪魔者はまだ生きているのだろうが、それも人間共を滅ぼしてからゆっくり攻め滅ぼせばいい。そう思うと、唇の端が自然に吊り上がってくる。感情を持つのも悪くはない。何しろ自分は圧倒的な強者なのだ。この世界に存在する全ての種族が、自分の表情を伺いながら生きていくのを見るのも悪くはない。




 それにしても狭い部屋だった。ひょっとしたらここは牢獄なのかもしれない。だが最強の魔王を監禁するにしてはいささか粗末な造りだ。部屋の至る所に貼り付けられた半裸の女の絵には、魔封じの呪文でも描かれているのだろうか? 


「フロガ・エクリクシー」 


 両手を天井に向け、爆発系魔法を放った。天井は吹き飛び、陽光が部屋の中に降り注ぐはずだった。


 何も起こらない。至る所に張り巡らされた女どもの絵は、やはり魔封じの札なのかもしれない。


「ミスリルソード、ジェノサイドドーン」


 愛刀を呼び出した。粒子化し、意思の力で再構築することで、どこでも取り出すことができる究極の剣だ。


 何も起こらない。窓の外から、区役所とやらのお知らせで、どこかの年寄りが朝から行方知れずだと告げる声が聞こえる。


「やはり魔封じか」


 自分の強大な魔力を封じるとは、相手は生半可な術者ではない。止めを刺したはずのエンノオヅネか、それに相当する使い手がこの部屋に結界を施しているのかもしれない。


小賢(こざか)しい」


 狭く汗臭いベッドから起き上がり、部屋の中を見回した。ベッドと机と本棚。それだけしかない。机の前にはガラスをはめ込んだ額縁のようものが三枚ならべられていた。本棚の中の書籍は、やたらと目を大きく描いた人間の女が半裸で微笑みかける絵が表紙のものばかりだった。窓から見える陽光の具合からして、季節は冬だと見当がついた。


「ふん、我が力を(あなど)りおって。いかなる結界といえど、我が魔力に及ぶもの無し」


 呪文詠唱に入った。通常なら詠唱など必要ないが、この部屋の結界は尋常ではないらしい。魔力を集中し、建物ごと一気に破壊してしまったほうがいい。


 エネルギーが全身に(みなぎ)っていくのを感じた。自分を中心に強大な魔方陣が出現しているはずだ。上空数千メートルまで連なる無数の魔方陣は、この世界の果てからでも視認できるだろう。


「オゥラ・ディアスプトラ。全ては無に帰れ!」


 最強クラスの破壊魔法だった。あたり一面は草も生えない焦土と化すだろうが、そんなことは構わなかった。


 凄まじい振動と共に建物全体が震えた。狂暴な破壊の衝動に身を委ね、哄笑(こうしょう)が口を突いて出た。


「己が無力を思い知るがいい、人間共!ぐっわっはっはは」


 両手を天に突き上げ、エネルギーの奔流(ほんりゅう)が到達するのを待った。背後で荒々しく引き戸が開かれた気配があったが、気にも留めなかった。どうせ自分以外は瞬時に気化してしまうのだ。


「朝っぱらからうるせぇんだよ、バカ兄貴!」


 若い女の声がした。それと同時に後頭部に強い衝撃を受けた。不意の一撃に、思わず膝をついた。後頭部を直撃した物体が上から落ちてきて、膝の前に転がった。白い長方形の固形物だった。蝋のような表面に、ミルクリ石鹸と刻印してある。


 後頭部を右手で押さえながら振り返ると、部屋と廊下を仕切る紙の引き戸が開いていた。体を白いタオル一枚で覆った若い女が、怒りに燃えた目でこちらを睨んでいる。

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