邪魔者
「どうしました?」
路地の入口で声がした。振り向くと逆光の中に人影が見えた。
「なんでもないんです。すみません。行って下さい」
チャオの言葉を聞いた柿沼が何か言いたそうに口を開く。声を上げたら口を塞いでやるつもりでいた。どうせ柿沼は死ぬのだから、高松の為にやったことにすればいい。
「そうはいってもなぁ」
酔っているのか、足取りも定まらない様子で男が路地に入ってくる。場合によっては、このおせっかい野郎は本日二人目の犠牲者になる。
「血の匂いがする。誰か怪我をしているはずだ」
どういう嗅覚をしているのだろう。反吐と小便の臭いが漂う路地裏から漂う血の匂いを、男は嗅ぎ分けたことになる。
逆光の中から現れたのはスーツ姿のサラリーマン風情だった。
「何それ。ダサっ」
男の姿を見た途端、チャオは素にになって声を上げてしまった。
あろうことか男は、ネクタイを頭に巻いて右端から垂らしていた。黒革の安っぽいビジネスバッグを斜めに掛けたその姿は、日曜6時半のアニメでしか見たことがない、昭和の酔っ払いだった。
チャオの視線に気づき、男は鉢巻き替わりに巻いたネクタイに手をやった。
「やはり騙されたのか。すれ違う人が笑っていたから、おかしいとは思ったが」
男は頭に巻いたネクタイを取ると、微笑みながらチャオに近づいてきた。
「日本のサラリーマンは、酒を飲んだらああするんだと教えられた。そうするとみんな、道を開けてくれるんだとね」
意外にもまだ若い男だった。そしてチャオは、どこかでこの男を見たことがある。




