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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第一章 勇者降臨
30/202

怪異

 3分で戻るといった奈緒は、1分で戻ってきた。ゴーグルに防塵(ぼうじん)マスク、ヘアキャップを被ったその姿は、一目見ただけでは奈緒と判別できなかった。


「これ、持ってて」


 奈緒は両手に持ったゴミ袋とダンボールのうち、ゴミ袋を手渡した。


「3分で出て来るから、戻らなかったらここを出て、警察を呼んで」


 奈緒が明奈の手を握る。明奈は(うなづ)き、奈緒の手を握り返した。


「わたしはどうする?ここで明奈と一緒に待つのか?」


 緊張感のない声で南条が尋ねると、ビニール手袋で肘まで覆われた奈緒の右手が南条の耳を掴んだ。


「うわっ、痛、いててっ」


「お前が先に入るんだよ、アホウが」


 奈緒が南条の背中を蹴りつけ、部屋の中に叩き込んだ。


「いい?危なかったら、車まで戻ってね」


 奈緒は明奈に言い放つと、息を止めて部屋の中に突入した。


「ぬぉぉぉっ~!!!!!」


 声にならない奈緒の悲鳴が聞こえた。同時に南条の部屋の中から、黒やこげ茶、灰色のかび饅頭(まんじゅう)のような物体が廊下に(あふ)れ出てきた。


「まっくろころ助!」


 前にテレビで見たアニメーションの中のキャラクターに似たそれらの物体は、アニメの中と違って狂暴そうだった。目も鼻も無かったが、口には禍々(まがまが)しい牙が生えていた。


 まっくろころ助共は廊下に出ると散りぢりになり、やがて消えていった。ただ、廊下の奥、203号室に向かったころ助共は、ドアから半身を現した部屋の主の姿を見ると、悲鳴に似た声を上げて消失していった。


 明奈は部屋から現れた隣人の姿を見た。髪が長く白い衣装の、ジャパニーズホラーに出て来る典型的な幽霊の姿を想像していた明奈は、ドアから這い出て来る隣人の姿を見て意表を突かれた。床を這いながら明奈に近づいてくる女は、山吹色(やまぶきいろ)のドレスを着ていた。女の胸元には、白いユリの花のコサーシュがついている。友人の結婚式にでも出席してきたような衣装のまま、女は廊下を這い進み始めた。土気色(つちけいろ)の肌はひび割れ、とこどころに死斑(しはん)が浮き出ている。死後硬直で固まっている口を無理に開いたのか、(あご)の関節がパキパキと音を立てている。隣の女は、今まさに顔を上げようとしていた。


「やばっ」


 逃げようとしたが、足が硬直して動かなかった。このまま隣の女が顔を上げ、その腐敗した眼球が明奈を捉えたとしたら、恐怖のあまり明奈は気を失ってしまう。そうなったら、隣の女は自分をどうするのだろう?



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