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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第一章 勇者降臨
24/202

解剖

 屋上から社長室へ戻るには、一般社員が乗るエレベーターに乗らなければならなかった。社長は屋上などに用はないと決めつけているのか、役員専用のエレベーターでは、屋上へ行くことはできない。


 最上階は社員用ダイニングだった。昼をいくらか過ぎていたせいで、利用者は少なかったが、社員たちはミカを見ると立ち上がり硬直した。女子社員の中には、ミカをみて綺麗(きれい)と呟く者さえいた。頭を下げる社員たちに会釈(えしゃく)を返しながら、ミカはエレベーターに乗り込んだ。


「どうしようかな、あの男。解剖(かいぼう)して中を(のぞ)いてみたくはあるが」


「あの・・・・・」


 (おどろ)いて見ると、エレベーターの扉の前にスーツ姿の女子社員がいた。


「すみません、社長。何階へいかれますか?」


 油断(ゆだん)していた。声に出した呟きを聞かれたかもしれない。


「25階へ、お願いします」


「かしこまりました」


 女の細い指が、25階を押す。女の行く先は19階らしい。


比喩(ひゆ)ですよ。本当に解剖なんてしません」


 微笑(ほほえ)みながら、ミカは女に話しかけた。女が大きく息を吐く。


「そうですよね。勿論(もちろん)です」


 女がミカに強張(こわば)った笑みを向けた。


「ただね」


 女を見つめるミカの眼が紫色に輝いた。女の顔が恐怖に引き()っていくのを見るのは快感だった。


「油断したとはいえ、人間ごときに驚かされたのは気分が悪い」


 紫の眼に(とら)われた女の顔が呆けていく。


「今日はもう帰れ。そして、最初に目にした電車に飛び込こんで死ね。わかったな?」


 女がゆっくりと頷く。


躊躇(ちゅちょ)なく飛び込めよ。失敗したらもう一度だ。だから無駄なことはするな。一度で決めろ。いいな?」


 エレベーターの扉が開く。25階には社長室だけでなく秘書室もある。開いたエレベーターの先にいた秘書たちが、降りて来たミカを見て頭を下げる。


「話ができて楽しかった。元気でね」


 ミカは女に手を振り、エレベーターから降りた。女はおずおずと頭を下げると、入れ替わりに乗り込んだ秘書たちに(まぎ)れた。


 ミカは目を閉じた。脳裏(のうり)にエレベーターの内部が浮かぶ。女は秘書たちの冷たい視線に(さら)されていた。


「失礼だけど、あなた。城山社長とどういうご関係?」


 最初に声をかけたのは、秘書長の安藤聖子だった。無能だが、立場を利用したパワハラには目を(みは)るものがあるので飼っていた。


「今、エレベーターの中で話しかけられて、それだけです」


「ふーん、そう。あなた、どこの課?」


「営業推進の、小山、小山美穂(おやまみほ)といいます」


 ミカは目を開き、くだらない論争から身を引いた。再び目を閉じ、別の回路にアクセスする。


 警官共が大挙して押しかけていた。焼けたアスファルトに、銃撃で穴だらけになった覆面パトが死骸(しがい)のように横たわっている。


 中年男は両手を拘束され、護送車に向かっていた。左右には無表情なSATの隊員がついている。


 中年男の視線を動かすと、例の男が見えた。まだ若い。20代半ばだろう。縞模様の半纏に半ズボンというみすぼらしい格好だが、立ち居振る舞いは堂々としたもので、それが違和感を緩和(かんわ)している。


 ミカは男の顔を注視(ちゅうし)した。この顔は覚えておかねばならなかった。


 男の視線がこちらを向いた。男の目がミカを見ている。


「きみは何者だ?その男の中で何をしている?」


 男が近づいてきて訊ねた。驚いた拍子に、眼を開けて回路を切ってしまった。


「びっくりだ。信じられない」


 廊下の中央で立ち尽くしてしまった。あの男には、こちらの存在が見えていた。


「しゃ、社長、どうされました?」


 だらしない体形を高級スーツで隠した取締役が近づいてきた。名前も知らない男だから、平の取締役だろう。


「うるさいな。お前もホームから飛び込むか?」


 ミカの形相(ぎょうそう)を見て、取締役が下がる。お前の地位は今日で終わりだと伝えてやりたかったが、全身に広がる興奮に耐え兼ね、ミカは体を竦めた。


「解剖決定だ。骨の(ずい)まで調べてやる」


 あの男の顔は覚えた。どこのだれかは知らないが、必ず見つけ出してやる。


 社長室に向かって歩き出すと、だれもが道を開けた。いつもと同じようで、まったく異なる光景だった。30代前半にして一流企業の社長に就任した男に対する尊敬が道を開けさせているのではない。今、ミカを見る社員たちの顔に浮かんでいるのは、紛れもない恐怖だった。自分が今どんな顔をしているのか、ミカは知りたいとも思わなかった。



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