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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第一章 勇者降臨
23/202

観察者

「つまんねーの」


 チャオが地団駄(じだんだ)踏んで悔しがっている。ミカからすると、成果は上げていないが予想外の相手が現れたのだから、それは仕方のないことだ。なかなか面白い見世物だったのだが、それをチャオに教えてやる必要も無かった。


「ミカ、怒ってる?」


 上目遣(うわめづか)いにチャオがミカを見る。少女のような外見だが、二十歳を過ぎた大人の女だ。髪の毛を水色に変えているのは、清楚(せいそ)系を意識しているからだと(うそぶ)いていた。ミカには清楚系というものが理解できないが、どうせ胸糞(むなくそ)悪くなるものだろうと思って、チャオに訊ねたりはしなかった。


「怒ってなんかいませんよ。ただ、彼らから足が付くことはないのでしょうね?」


「それは絶対にないけれど、だけどあいつら、誰も殺してないよ」


「銃を使って人を殺すことに抵抗があったみたいですね。この国では銃を持つことが禁じられているから、その辺がネックになったのですね」


「せっかく、いい武器揃えてやったのに」


「出所は米軍ですか?」


「そっ。基地からちょろまかしてきたの」


 目を伏せ、ミカは思案した。顔を上げると、チャオの姿が若い米兵に変わっていた。


「サー、イエッサー」


 米兵がミカに敬礼する。

 ミカは目を閉じ苦笑した。目を開けると、米兵はチャオに戻っていた。


「米軍を相手にするのは今後は控えて下さい。彼らは、わたしたちの存在に気づいている可能性がある」


 ミカは再び視線を北に向けた。種を植え付けた木偶(でく)に話しかけた、妙な格好の男。木偶に家族を殺すと脅しをかけることで、木偶の精神支配度を計ったのかもしれない。だとしたらあの男は、ミカが使う術の存在を知っていることになる。


「解りましたか?」


 チャオに目を向けると、チャオは再び米兵の姿に変わっていた。


「サー、イエッサー」


 金髪で青い目をした若い米兵だった。


「なんでまたその姿になったのですか?」


「ミカはこういうのが好みかなって思って」


 呆れて溜息をついた。


「わたしは男ですよ。理解していますか?」


 口を(とが)らせた米兵の姿がチャオに戻っていく。


「だってぇ、ミカったら全然チャオのこと構ってくれないからさ。ひょっとしたらこっちが趣味かなって思ったんだもん」


 本来の赤い瞳で、チャオがミカを見つめる。人間の男なら、チャオの容姿に()かれないものは少ないだろう。だがミカは、チャオのやっかいな性癖を知っていた。相手をいたぶり、身も心も切り(さいな)むことでしか喜びを得られない倒錯(とうさく)した人格を持つ、天使のように愛らしい小悪魔。それがチャオこと林美晴(はやしみはる)だった。


「冗談は大概(たいがい)にして下さい。それより、早急に新しい木偶を用意してください。まだ、わたしの術は不完全なようなのでね。実験に使う木偶は必要なのですよ」


「ミカ、なんかアミバみたい」


「アミバって誰です?」


「いい。説明するの面倒臭(めんどくさ)いから。じゃあまた連絡するね」


 小鹿のように駆け出すと、チャオは柵を飛び越え、その先に飛び降りていった。ミカが注意する暇も与えないほどの素早い動きだった。


「やれやれ」


 何度目かの溜息をつき、ミカはドアに向かって歩き始めた。地上200メートルのビルの屋上から飛び降りる姿を目撃されたら、ちょっとした騒ぎになる。(もっと)も、このビルの敷地のどこを探しても、チャオの死体など見つかりはしない。同じことはミカにもできたが、ミカが戻るのは25階にある社長室だったから、柵を乗り越えて飛び降りるより、エレベーターを使ったほうが早かった。


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