誕生日
明奈はおそるおそる目を開いた。一度体験しているせいか、特殊閃光弾の音と閃光は、コンビニで受けたときほどの衝撃は感じられなかった。
目の前に、南条の顔があった。異性とこんなに顔を近づけたことは、今までに一度もない。南条の目は真直ぐに明奈に向けられていて、明奈は南条の瞳の中にいる自分の姿を不思議な気持ちで眺めていた。
「怪我はないか?」
南条の声に、不安が混じっていた。明奈の身を案じているのが伝わってきて、明奈は思わず泣きだしそうになった。
「どこか痛むのか?」
明奈の瞳に滲む涙を見て、南条がうろたえる。明奈は慌てて首を左右に振る。
「ううん、平気。平気だけど」
南条を見つめながら、明奈はしゃくりあげた。
「わたし、今日誕生日なの。誕生日なのにバイトなんて、嫌だなって思ってて。でも、他にやることもなくって」
自分が何を言っているのか良く解らなかった。泣き顔を南条に見られたくない一心で、明奈は無理やり笑顔を作った。
「小さな頃からね、誕生日っていいこと全然無いの、嫌なことばっかり」
「そうか。だがわたしにとって今日は、友が生まれてきてくれた素晴らしい日だ。祝う価値はある」
火の点いたオイルライターを明奈の前に翳すと、南条は微笑んだ。
「願い事をするといい。願いは口に出さず、願ったら火を吹き消すんだ」
南条の目を見て頷いた明奈は、勢いよくライターの火を吹き消そうとした。
大量の水が明奈と南条の頭上から降り注いだ。
火の消えたオイルライターから目を逸らすと、到着した消防車のホースを使って奈緒が水を撒いていた。
「馬鹿じゃないの?引火したら丸焦げよ」
消防用のホースはポンプを起動しなければ普通の水道と水圧は変わらない。大型のホースで浴びせかけらた水はアスファルトを黒く塗らし、明奈と南条の頭上に幾つもの小さな虹を作った。
「ほらね。やっぱりいいことなんか全然ないでしょう?」
びしょ濡れになりながら、明奈は南条を見上げた。ひとしきり見つめあったあと、明奈と南条は同時に噴き出した。
「どうしたんだ?あいつら」
放水を止めた奈緒の隣に真庭が立っていた。腹を抱えて笑いあってる明奈と南条の姿を呆れ顔で眺めている。
手にしたホースを真庭の顔に向け、奈緒は手元の放水レバーを捻った。
「うわっ、なにしやがる」
顔面に水を浴びた真庭が尻餅をつく。ホースを上に向け、奈緒は自分も頭から水を被った。
「たぶんね。怖かったんじゃないかしら。あの子も、自称勇者様もね」
後続のサイレンが次々に聞こえてくる。事態は沈静化に向かっているが、報告書を作るなら今夜は徹夜になるだろう。まだしばらく、鍋島さんには会えそうにない。




