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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
第一章 勇者降臨
21/202

人質

 アスファルトの落ちたショットガンと短機関銃を、南条が足で踏み砕いていく。南条が足を踏み下ろすたびに、先程と同じように大地が縦揺(たてゆ)れを起こした。

 軽々と赤髪とマシンガン女を抱き上げた南条が、二人を抱えたまま奈緒の前に歩いてきた。

「ケガはありませんか?」

 南条の声を聴いた瞬間、安堵(あんど)のあまり奈緒はその場にしゃがみこんでしまった。声を上げて泣き出したいが、警察官である自分が弱音を上げるわけにはいかない。

「大丈夫。あなたは?」

 赤髪とマシンガン女を(おろ)し、脈を診ていた南条が奈緒に向かって笑顔を見せた。

「ありがとう。わたしは大丈夫だ。この二人も、命に別状は無い」

 南条が差し出した手を握り、奈緒は立ち上がった。熱いアスファルトの上に膝をついていたせいで、膝から(すね)にかけて軽い火傷を負っていた。

「この二人を逮捕します」

 手錠で、奈緒は赤髪とマシンガン女を拘束(こうそく)した。目出し帽を()ぎ取ってみると、赤髪同様、マシンガン女もあどけない顔をしていた。

「あの、ちょっといいですか?」

 覆面パトから明奈が声を上げた。

 覆面パトの後部座席に(はさ)まっている明奈の頭に、拳銃が突きつけられていた。三人目の目出し帽だった。

「すみません。ちょっと大ピンチで」

 明奈の視線の先には、覆面パトから流れ出たガソリンが(たま)りを作っていた。ショットガンの弾丸が、覆面パトの燃料タンクに穴を空けていたらしい。

「近づくな」

 男の声だった。

「近づいたら、この女を殺す」

 目出し帽を脱ぎ去り、男が素顔を(さら)した。髪の薄い、うらぶれた中年男だった。

「車を用意しろ。金と車だ」

 前に出ようとした奈緒を、南条が押しとどめる。

「できないといったら?」

「この女を殺す」

 南条が明奈に視線を向ける。

「彼女はわたしの大切な友人だ」

「だったら要求を聞け。金と車だ」

「言うことを聞けば、彼女が助かるという保証はあるのか?」

 中年男の顔にとまどいが浮かぶ。

「嘘はつかない。人質の安全は保証する」

「信じられない。逃げた先で、きみは彼女を殺すんじゃないのか?」

「今殺したっていいんだぞ。見たいのか?」

「彼女を殺せば、わたしがきみを殺す。彼女への(ともら)いとして、きみの家族と友人も殺す」

「何言ってるんだ、お前。家族は関係ないだろう?」

 中年男の顔に動揺が走る。

「家族がいるのか。気の毒だな。苦しめはしないと約束するが、事情は説明する。きみのせいで死ぬんだとな」

 男の顔から血の気が引いていく。

「ふざけるな」

 中年男の持つ銃が、南条の胸に狙いを変えた。怒りのあまり銃を持つ手が震えている。

「お前じゃ話にならない。警官だ。警官を呼べ」

 男はポケットの中からオイルライターを取り出し、火を点けた。銃を南条に向けたまま、左手に持ったライターを(かざ)す。

「お前を撃ち殺し、おれはこの女と共に死ぬ。これならどうだ?お前も女も死ねば、おれの家族は無事だ」

「すまなかった。今のは冗談だ」

 南条が(ほが)らかに笑う。明奈や奈緒だけでなく、銃を持つ中年男の顔にすら安堵が広がる。

「ちょっとした時間(かせ)ぎだったんだ。悪かった」

 中年男の顔に疑念(ぎねん)が浮かぶ。

「時間稼ぎ?何のために」

「友が来るまでの、だ。思ったより早かったな」

 南条の視線が中年男の足元に向く。南条の視線を追った男の眼が、足元に転がる特殊閃光弾(とくしゅせんこうだん)を捉えた。

「なんだ、これは」

 爆音と閃光が周囲を包み、辺り一面が白い闇に閉ざせれた。

 

 奈緒はゆっくりと目を開いた。SATの隊員が中年男を取り押さえていた。奈緒が手錠をかけた二人も、SATの隊員が取り囲んでいる。

 道路の中央で呵々大笑(かかたいしょう)しているのは、真庭だった。

「よく耐えたな。キャリアの姉ちゃん」

 真庭が奈緒の肩を叩く。言い返そうとしたが、明奈のことを思い出し、振り返った。

「オサカベさん」

 SATは覆面パトから漏れていたガソリンに気づき、誘爆(ゆうばく)しない場所を狙って特殊閃光弾を投げ入れたのだろうが、中年男が手にしていたオイルライターには気づいていなかった。オイルライターが地に落ちていたら、明奈は火だるまになってしまう。

 明奈の前に、南条が横たわっていた。南条の右手には、まだ火が点いたままのオイルライターが握られている。特殊閃光弾が炸裂(さくれつ)すると同時に、南条はホームベースにスライディングするように明奈の元へ飛び込み、オイルライターをキャッチしていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 題材は定番に見えるけど勇者の人柄が良いので 先が気になって仕方ないです [一言] 一通り異世界体験するまで魔王さんちょっとステイ
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