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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
プロローグ
2/202

火竜

サラマンダーの群れは、接近する黄金(きん)の龍を視認すると、それぞれが叫びを上げ、同族である巨大な龍目掛けて殺到した。共食いも辞さない旺盛(おうせい)な食欲を持つ魔竜たちにとって、自身の何倍もある黄金の龍は食べ応えがある獲物(えもの)にしか見えないようだ。


雑魚(ざこ)どもが」


 餓狼(がろう)のように群がるサラマンダーを見て、吐き捨てるように金龍(きんりゅう)が呟く。


「凄い数だな。大丈夫か?」


 金龍の首筋に移動してきた勇者が龍の耳元で叫ぶ。


「手こずるようなら手を貸す。遠慮(えんりょ)なく言え」


「何を言わせたい?お前ごとき人間に、龍の王たるこのおれが助けを求めるとでも思ったか?」


「そうか。だったら任せる」


 何事も無かったように、勇者は金龍の首筋に腰を下ろし、胡坐(あぐら)をかいた。


「速度を上げる。落ちるなよ」


 (あぎと)を開き多量の酸素を取り込んだ黄金龍の体が一回り大きく膨らむ。次の瞬間、金龍が(すさ)まじい咆哮(ほうこう)を上げた。周囲の空間が(ゆが)み、衝撃波(しょげきは)を発生させるほどの雄叫(おたけ)びだった。


 加速(かそく)した金龍がサラマンダーの群れに突入する。群がるサラマンダーが金龍の体に牙を立てる。全身をサラマンダーに(まと)わりつかれながらも、金龍は構わず飛行を続けている。


 サラマンダーの一匹が、首筋に胡坐をかく勇者に向けて(あご)を突き出した。勇者の頭を()(くだ)く直前、サラマンダーの下顎(したあご)から頭頂部(とうちょうぶ)にかけてを、勇者の剣が(つらぬ)いた。何事も無かったように剣を引き抜くと、動きを止めたサラマンダーは、金龍の体をずり落ちていった。


(おそ)われた」


 勇者の(つぶ)きに、金龍が笑う。


「退屈しのぎになったであろう?」


 全身を(おお)ったサラマンダーの群れを意に介せず、金龍は魔王城へ一直線に向かって行く。


「おれの体毛を(つか)め。少し手荒(てあら)にいくぞ」


 金龍の首筋に生える、手綱(たづな)ほどの太さがある金色の体毛の一本に、勇者は手を掛けた。


 金龍の全身に蒼白(あおじろ)稲光(いなびかり)が走る。龍の首筋の肌の一部が隆起(りゅうき)逆立(さかだ)っていくのを、勇者は不思議な面持(おももち)ちで(なが)めていた。


 爆発(ばくはつ)したように閃光(せんこう)(はじ)け、金龍の全身を覆った。龍の体に喰らいついていたサラマンダーの群れの動きが一斉に停止する。


 勇者は直近(ちょっきん)にいたサラマンダーの顔を(のぞ)き込んだ。サラマンダーの体には傷ひとつついていなかったが、赤黒いサママンダーの目は白く(にご)り、眼球(がんきゅう)は焼け()げていた。


 龍が放った閃光の威力(いりょく)は、密着(みっちゃく)していたものだけでなく、周囲(しゅうい)を飛び交うサラマンダーにも(およ)んでいた。龍の半径五十メートル付近にいたサラマンダーたちは、その場で動きを止め、声ひとつ上げずに地上へ向けて落下していった。


(すご)いな。何をした?」


「体内の水分を蒸発(じょうはつ)させた。奴らはおれの逆鱗(げきりん)()れたからな」


 隆起(りゅうき)した首の(うろこ)が、静かに戻っていく。


「凄まじい技だ。でもどうしてわたしは生きている?」


「おれの体毛(たいもう)(つか)んでいたからだ。おれの体毛はあらゆる魔法効果を無効(むこう)にする」


 勇者は左手で掴んでいる金色の体毛を見つめた。


「便利なものだな。一本()いていいか?」


(こと)る。禿()げたらどうする」


 軽口を叩いていられたのはそこまでだった。魔王城上空で滞留(たいりゅう)するサラマンダーの第二陣が、龍を取り巻くように飛行し始めた。遠巻(とおま)きに取り囲み、口から()き出す炎で龍と勇者を(あぶ)り殺す(かま)えだ。


「さっきのあれ、もう一度(はな)てるか?」


 立ち上がりながら勇者が(たず)ねる。


「当たり前だ。何度でもやれるぞ」


「そうか。なら、魔王城の上空に(たっ)したら、もう一度(たの)む。そこからは自分で行く」


 閃光を放ったあと、金龍の飛行速度が(わず)かに落ちたことに勇者は気づいていた。年老いた金龍は、言葉とは裏腹(うらはら)にかなり疲弊(ひへい)しているはずだった。


「わたしが撃てといったら、わたしに構わず撃ってくれ。頼んだぞ」


「おれから離れたら、お前も身体(からだ)内部(ないぶ)から焼かれるぞ」


「お前の言葉を信じるなら、わたしは大丈夫だ」


 掴んだ龍の(ひげ)を、勇者は力任(ちからまか)せに引き抜いた。金龍が痛みに(うな)り声を上げる。


貴様(きさま)!」


(もら)っていく。次に会ったときに、わたしの毛を一本むしり取るといい」


 そういうと勇者は、龍の顔から空中へと()んだ。重力(じゅうりょく)に引かれ自由落下していく寸前(すんぜん)で、勇者の足が突進(とっしん)してきたサラマンダーの鼻先を()みつける。腰の帯革(たいかく)から二振(ふたふ)りの刀を引き抜いた勇者は、着地したサラマンダーの首を()ねると、すぐに(となり)を飛んでいたサラマンダーの背に飛び移り、二匹目の延髄(えんずい)()(つら)いた。


 魔王城上空に滞留していたサラマンダーは二百を超えていた。勇者は飛翔(ひしょう)しているサラマンダーの背から背へと次々に乗り移り、(はがね)の剣すら(はじ)くといわれたサラマンダーの皮膚(ひふ)切裂(きりさ)いていく。


 背から背へ飛び移る勇者のせいで、密集(みっしゅう)していたサラマンダーの群れはパニックを起こしていた。勇者に向かって炎を()けば、(すで)に勇者は移動していて、サラマンダー同士が(たが)いに向けて炎を吐きあう結果となった。もともと連携(れんけい)の取れていない怪物(かいぶつ)の集団は、互いに()み合い、(ころ)し合いを始めていた。


「そろそろだな」


 サラマンダーの背を走りながら、勇者は眼下(がんか)(のぞ)む魔王城へと視線を向けた。魔王城の中央には、巨大な空洞(くうどう)が広がっていた。空洞は垂直(すいちょく)に魔王城の最深部(さいしんぶ)まで続いており、魔王はそこでサラマンダーを始めとする魔物を創造(そうぞう)しているとのことだった。情報の真偽(しんぎ)は定かではなかったが、情報をもたらした黒狼(こくろう)騎士(きし)の言葉は信じていた。黒狼の騎士は、化物の巣の中央までいけば、そこには必ず魔王がいると言っていた。


「龍の王、()て!」


 声を限りに叫ぶと、勇者はサラマンダーの背から何もない空中へと跳んだ。飛翔系(ひしょうけい)の魔法など(まった)く使えない勇者の体は、真っ逆さまに魔王城の空洞へと落ちて行った。


 落ちていく勇者目掛けて、凄まじい数のサラマンダーが襲い掛かってくる。ガチガチと(するど)い歯を()()らしながら、サラマンダーの()れが勇者の体に喰らいつこうとひしめき合う。


再び閃光(せんこう)が弾けた。数千の青い稲妻(いなづま)がサラマンダーの体を貫いていく。勇者の体にも稲妻は届いたが、青く輝く水のように体表(たいひょう)を流れ落ちていくだけだった。音も無く落下していくサラマンダーの死骸(しがい)に囲まれながら、勇者は(ふところ)(しの)ばせた金龍の体毛に()れた。


「ありがとう。助かった」


漆黒(しっこく)奈落(ならく)落下(らっか)しながら、勇者は右手を振り、金龍に別れの挨拶(あいさつ)をした。


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