表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者  作者: 氷川 泪
プロローグ
1/202

龍の背

 勇者は龍の背に乗り、空を飛んでいた。


 黄金の龍は、ボルサール城塞都市(じょうさいとし)の北、百キロほどの峡谷(きょうこく)の上空をかなりの速度で飛んでいた。高度と速度のせいで、大気は凍てつき、呼吸をするのも困難(こんなん)なほど空気は薄い。常人なら立つこともままならぬ状況であるにも(かか)わらず、勇者は悠然(ゆうぜん)と龍の背に立ち、視線を前方の一点に据えている。


「見えて来たぞ」


 金龍が声を上げた。口蓋(こうがい)の作りが異なる龍が、人の言葉を話すには高度な魔術が必要だった。龍の唸り(うなり)を人語に変換するには、莫大(ばくだい)な魔力が必要なのだ。それだけに、人語(じんご)を操る龍は希少(きしょう)でその存在は伝説とまで言われている。


 勇者と金龍の前方に、巨大な城が見えた。奇怪なオブジェの集合体のように見える城は、全体が赤く染まっていて、城全体が流血しているように見えた。城が異様(いよう)なのは外観(がいかん)だけではない。城は峡谷(きょうこく)(はる)か上方に浮遊(ふゆう)していた。城の底にある数百メートルに及ぶ岩盤(がんばん)までもが、目に見えぬ巨人の手で引き抜かれたように空中に静止し、峡谷一帯に新月(しんげつ)の夜のような影を落としている。


「なぜ城が浮いている?」


 勇者が疑問を口にした。驚嘆(きょうたん)する素振りはまるでなく、頭に浮かんだ疑問をそのまま口にしているようだ。


「さあな。魔王の力なのか、城自体にそういう仕掛けが施されてるのか。いずれにせよ、行ってみなければわからんな」


「そうか。五百年生きていても知らないことがあるのだな」


 勇者の言葉に、黄金の龍の鼻息が荒くなる。


「口に気をつけろ、小僧。振り落とすぞ」


「落とさずとも、もうじき降りる」


 勇者と金龍の口元に笑みが浮かぶ。


「面白いやつだ。あの城を見て恐怖を感じぬか」


「いいや、怖いな。体が震えている」


「震えてのは寒さのせいだ。さっきからお前の震えがおれの背に伝わってきている」


「そうなのか?わたしはてっきり怖くて震えているのだと思っていた」


「雲の上に出てから、おまえはずっと震えておるわ」


 金龍が豪快に笑う。つられて勇者も声を上げて笑った。


「来るぞ」


 魔王城の上空に、雨雲のような黒い(かたまり)が見えた。塊はうねり捩じれ(ねじれ)ながら、その姿を変えている。近づくにつれ、黒い塊から、人の叫び似た鳴き声が聞こえて来た。塊の所々から、突き出された赤い舌のような炎が()き上がる。


「サラマンダー。凄まじい数だ」


 黒蛇にコウモリの羽を付け足したとしか思えない邪悪(じゃあく)なフォルムを持つサラマンダーは、魔王がこの世界を滅ぼすために生み出した究極の生物兵器だった。硬質の(うろこ)に覆われたサラマンダーの体は、弓矢はおろか鋼の剣さえも通さない。自在に空を飛び、炎を吐き、人を喰らう魔竜は、この世界に住む全ての生物にとって破滅をもたらす天敵以外の何者でもなかった。


 魔王は千を超えるサラマンダーを自身の居城(きょじょう)の守備に当てていた。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ