4-7 精霊銀の頸環
「父上の、、、」
カルテリコスは困惑の表情を浮かべた。
当然の事だろう。
そもそも一行の組み合わせが奇異だ。
樹海の魔術師が三人。
いや、二人は確かに、白い肌・端正な顔立ち・尖った耳・銀鼠の長髪・細身の体躯・木製の杖と、どれをとっても伝え聞く特徴の通りだ。
しかし一人は、生成りの麻の裾長衣を着ているものの、肌の色は白くはあるが他の二人の作り物のような白さではなく赤みの差した健康的な白、顔は整っていはいるが端正とまではいかない。
しかし表情は温和で、年齢には見合わぬ泰然とした何かを感じさせる。
耳は尖ってはおらず、髪も短髪で色は鳶色、ケパレーやホーフエーベネ出身者に多い髪色だ。
身長は一七〇cm位、要するに標準的な人族。
そして杖ではなく何故か木刀を差している。
残りの二人は女性だが、一人は明らかに砂漠の民。
健康的な褐色の肌と長い布を巻いた民族衣装とでそれとすぐ分かる。
もう一人の女の子は翠緑の髪と目。
そんな色の髪と目をした者をカルテリコスは見たことがなかった。
この様な不思議な組み合わせの一行が、父の無念を一緒に晴らそうと言っている。
警戒より好奇心が勝ってしまった。
そして人恋しさ。
出奔してからこの二年というもの村人との最低限度の会話以外、話しは愛馬と墓の中の父としかしていない。
「私の住まいが向こうにあります。まあ、ただの掘立小屋ですが。丸太に腰掛けることくらいは出来ます。そこでお話を伺いましょう」
カルテリコスはそう一同に言うと、湖で水浴びをしている愛馬を呼ぶ。
バサッと羽音がしたかと思うと、木々の向こうからペガサスが飛んできた。
「おおー、本当に天馬だ」
珍しい生き物を間近に見て声を上げる一同。
「この子はプテリュクス」
カルテリコスが愛馬を紹介する。
歩きながらターロ達も自己紹介を済ませた。
アウロとドーラはもうペガサスと仲良くなっている。
「ここです」
小さいながらも滾滾と湧き出る泉の横に、いかにも素人が増築に増築を重ねたような小屋があった。
その前には広場があり確かに丸太を横にしただけの長椅子もある。
「この泉は?」
「ここに着いたばかりの時、プテリュクスがこの場所を頻りと踏むので、不思議に思って掘ってみると湧いてきました」
「へー、天馬の教え水か。綺麗で美味しそうな水だ。これでお茶を淹れましょう」
とターロ。
「お茶! それはありがたい。久しく飲んでいません」
こうして広場でお茶会が始まる。
先ずはこれを見てください、とターロは王家発行の手形を見せ、
「連邦の内患を見つけ出し、できれば取り除くよう依頼されています」
「ケパレー王家の、、、やはり、内乱首謀者の子である私を捕まえに? しかしそれなら父の墳を参るはずはない、、、」
「そうです。あなたをどうこうするつもりはありませんし、そもそも、お父上は無実です」
「先程もそう言っていたが、、、実際挙兵しているのです。無実であろうはずもない」
「その挙兵自体が、体を乗っ取られての事だとしたら?」
メトドがスクピディの覚書を取り出し、カルテリコスに渡す。
読むように促して、合間合間に補足を入れた。
「そんな、、、」
愕然とするカルテリコス。
「それが事実です。その書類は帝国の工作員が書いたもの。多少自分の功を誇るための誇張はあるにせよ、嘘はない」
「では、父は、、、。確かにおかしいと思ってはいたのです。父に内乱をおこす理由なんてなかった。それが唐突に兵を集め、連邦設立時の事を蒸し返して、、、」
「ところで、カルテリコスさんは内乱に参加しなかったのですか?」
「そう、それなんです。この事もずっと不思議に思っていたのですが、、、。挙兵の何日か前から、父の様子がおかしくて、、、なんと言うか目の焦点があっておらず、人の話も聞いていないような感じでした」
「やはり蟲を植えられていたのですね」
と、その特徴的な態様を聞いて小声で言ってよこしたメトドにターロも小さく頷いた。
カルテリコスが続ける。
「しかし、挙兵の前の晩に私を自室に呼び、家宝の鎧を取ってこい、と言い出したのです。しかもそれは、他界した母方の実家に預けてあると、、、。その時の父はしっかり私の目を見ていました」
「ユーキリスさんの奥さんと同じかな、、、強い意志で、蟲の支配を一時的に逃れた、、、」
今度はターロの呟きにメトドが小さく頷く。
「しかし母方の実家は今でも遊牧をしていて居場所が定まりません。プテリュクスに乗って空からやっと探し当てると、そんな物はないという。なにがなんだか分からず帰ってみると、既に内乱は終わっていて父は戦死したと言うではないですか、、、」
「あなたを巻き込まない様に、お父上が最後の力を振り絞って打った策ですね」
ターロは海の国で自分たちが体験した事を話して聞かせ、蟲について説明する。
テュシアーも大体の経緯は知っていたが、詳しく聞くのは初めてだった。
蟲に支配されてもなお、それに抗って用事を言い付けることで、自分を逃してくれた父。
その事を思い、カルテリコスは涙した。
「ち、父上、、、」
「これがあなたのお父上に起きたことの真実。そして、お父上に帝国の工作員から渡された蟲を寄生させたのは、、、」
書類を握った手を戦慄かせてカルテリコスが、
「レマルギア、、、」
頷くターロ。
「そうです。その記録には、副将軍とある。その当時の副将軍は彼でした。ここに来る前に国境沿いの街の人や、この近くの村の村長などに聞きましたが、そのレマルギアという人物の市井の評判は最悪です」
「でしょうね、、、昔からあの男は実力もないのに権力欲だけ強くて、、、」
「残念なお知らせですが、彼に無理に言い寄られて、モノミロスという方とそのお母様が自害なさったそうです。あなたの許嫁だとか、、、」
「! そんな!」
叫んで立ち上がったかと思うと、がっくっと膝をつくカルテリコス。
「そんな、、、」
もう一度同じ言葉で呟く。
少しの沈黙の後、
「彼女は祖父の頃から決まっていた許嫁で、、、実は幼い頃一度しか会ったことはなかったのですが、、、手紙でのやり取りは頻繁にあって、、、、ああ、、、彼女の最後の手紙は、、、次に会うときは婚姻の儀。楽しみにしている、と、、、それが、、、」
彼の首には、その最後の手紙に添えられていた彼女からの贈り物だという美しい彫り物の施された精霊銀の頸環が嵌められていた。
それを愛おしそうに掌で包み込んで、泣いた。




