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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第四章 草原の国 ”スケロス”
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4-5 川辺の村

「ターロ先生、教えていただきたいことがあるのですが」


その後休まず歩き、日没を迎えたので野営の準備を始めた一行。


結界を張って帰ってきたターロにテュシアーが訊いた。


「昼間お話に出た魔法陣の事です」


「魔法陣がどうしたの?」


「祭壇にも沢山施されていました」


「そうだね」


草原には焚き火の薪になるような木はあまりないかと思ったが、意外と灌木がありそれの枯れ枝は簡単に集まった。


その焚き火を囲むように皆で座る。


「魔法陣を描ける人が周りにいなかったので、習ったことはないのですが、描ける人があまりいないということは難しい技術なのですよね?」


「そうね。詠唱魔法よりは難しいかもね。言葉だって話すより読み書きするほうが難しいでしょ? そんな感じだよ」


温まった羊乳の煮込み(シチュー)をよそいながらターロは答える。


「壊すのは簡単ですか?」


「壊す?」


皆にシチューを配り、そこに香ばしく炙った麦餅(パン)をのせていく。


召し上がれ、と皆に声をかけ、いただきます、と自分でも言う。


そして話を続けた。


「魔法陣を壊したいの?」


「昼の話では、天使が魔法陣を使うと、、、」


「ああ、それを使われた時にどう対処するかってこと?」


「はい」


「どうだろ? 実際使っているのは一度しか見たことないし、自分にかけられたわけじゃないからな〜」


アウロとドーラのおかわりをよそってやりながらターロは考える。


二人は、美味しい、美味しい、とバクバク食べている。


育ち盛りだ。


「魔法陣は結構繊細だから、魔力を込めた指先で触るだけで短絡(ショート)するんだけれどね、攻撃に使う魔法陣をそんなに簡単に破れるまま使わないと思うんだよな」


「、、、そうですよね」


「だから、内容を読み取って、上手く壊れる点を見つけないと壊せないんじゃないかなあ」


一緒に聞いていたメトドも、


「、、、それは、、、難しそうですね」


そうボソリと言うのにターロが頷いて、


「うん。戦闘中にそんな時間はないだろうね。だから頭上に光輪が見えたら隠れるか、障壁張るか、、、。 そもそも光輪を出す隙きを与えないのが一番だよね」


まあ、そんなに簡単じゃないから厄介なんだけどさ、とターロは苦笑いした。


それを聞いたテュシアーは残念そうな顔をしている。


「でもそれは大切な指摘だ。よく考えておこう」


とターロは話を締め(くく)った。


アウロとドーラは食べるだけ食べたら直ぐにウトウトし始めたので、枯れ草を重ねた上にマントをかけて即席の寝床を作ってやった。


二人はそれに寝っ転がるや、直ぐに寝息がたち始めたのを聞いて、三人は小さく笑い、自分達も床につく。


仰向けになって満点の星空を眺めていると、吸い込まれていくような、自分が浮いているような不思議な感覚に囚われる。


ターロはこの世界に来たときの魂だけで漂っていた状態を思い出した。


(今までのことは全部夢で、このまま目を瞑って寝たら、二度と起きない、っとことになっても、、不思議は、、、な、、、、い、、、)


などと考えているうちに寝てしまった。


(、、、なんか体が重い。苦しいぞ。本当に今までのことは夢で、実は俺は死んでいるのか、、、)


夜が白んでくる頃、苦しさに気が付き不安の中で目を覚ますが、腹の上でドーラが熟睡しているだけだった。


(、、、アホらし、、、)


ドーラを退()かして周りを見るともう皆起きていて、メトドは読書、テュシアーとアウロは三日月刀(シミター)と杖とで地稽古を行っていた。


朝ごはんを食べ、荷物をまとめて出立。


草原は見晴らしがよいので陸の魔獣に襲われることはなかったが、その見晴らしの良さが災いして、空の魔獣の襲撃を受けた。


野生動物と魔獣の違いは明確だ。


その名の通り魔法を使うのが魔獣、魔法を使わないのが野生動物。


魔獣には、野生動物が長く生きて魔嚢が大きくなり魔法が使えるようになるものと、生まれつき大きい魔嚢を持ち魔法を使える物との二種類いる。


今回襲ってきた、大草原鷲ラージステップイーグルは前者だ。


魔嚢がある大きさに達すると、急に魔法を使えるようになり、知能も上がる。


魔法を使うようになると、大量の魔力が体内を循環し細胞が活性化するので、寿命も伸びる。


それは人間でも同じで、有能な魔術師には長命な者が多い。


ラージステップイーグルの攻撃方法は、単純だが恐ろしい。


風の魔法を駆使してありえないスピードで背後から降下、魔力で強化された爪で攻撃。


羊飼いの天敵だ。


音もなく忍び寄られては為すすべもないが、ターロには魂力による気配察知があるので、何でもない。


「あー。来ちゃったよ。追い払う? それとも狩っちゃう?」


「それほど数が多くない種です。狩る必要はないかも知れません」


とメトドが言う。


「では、私が」


とテュシアーが魔法の練習がてら追い払う事になった。



ファイヤーボール(火炎玉)



「おお、大技いったねえ」


炎の玉は鷲に届くことなく空中で消滅したが、目の前に迫ってくる火に驚いて、ステップイーグルは逃げていった。


「ターロ先生のお話を聞いて使えるようになりました。それまでは魔力不足で出来ないだけだと思っていて、、、」


「ああ、想像力の話ね。あれ、効果あるでしょ?」


「はい。覿面(てきめん)です。でも私の実力不足でまだ、飛距離があまり、、、」


「いや、結構飛んでたよ。空に向けて撃ったからそうでもないように見えたかも知れないけれどさ。まあ、遠距離だとどうしても霧散しちゃうから、ひきつけてから打つか、もっと収束させるかどっちかだよね」


その後も魔術談義をしながら歩く。


結局それからは魔獣に遭遇することもなく、夕方頃には目的地の近くまで来た。


「向こうに村が見えます」


とメトドが言う方を見ると、確かにそれらしきものが見える。


日が沈む前に辿り着けた。


「こんにちは〜、旅の者ですが、宿かなにかありますか〜?」


遠くの村人らしき人影に大声で呼びかけてみる。


何人かで相談するような素振りの後、寄ってきた。


「こんなところに、めずらしいな。何か目的があるんかい?」


明らかに警戒されている。


「いえいえ、ただ、ここいらに美しいことで名高い天馬の生息地があると聞きまして、見聞を広める旅の途中、寄ってみたのです」


用意していた理由を滔々(とうとう)と述べるターロ。


村人たちは魔術師の格好をした一行をみて、なる程、と納得し態度を軟化させた。


誇りにしている天馬を美しいと持ち上げられた事も気を良くする一助になったようだ。


「そうか、そうか。小さな村じゃから、宿などないが、集会所を使うとええ。今晩は誰も使わんでな」


と集会所を貸してくれることになった。


お礼に、


「皆さんで分けてください」


と、持ってきた塩を一袋渡す。


内陸では塩が貴重だと聞いていたからだ。


村人はすっかり気を良くして、人懐っこい笑顔を浮かべている。


村長宅で夕食を振る舞われ、お返しに、菓子とお茶をご馳走する。


菓子もお茶もかなり貴重なものなので、かえってすまなんだ、と村長一家は恐縮していた。


子供たちがもう寝る時間だから、と、集会所に引き上げ寝床の準備をする。


「メトドさん」


ターロが言葉をかけると、


「はい、当たりですね」


と返す。


もう、多くを語らなくともお互いの言いたいことが分かる。


「何がですか?」


まだ付合の浅いテュシアーがちょっと仲間外にされた気分になり、説明を求めた。


「カルテリコスのことだ」


とメトド。


「恐らくこの近くに潜伏していて、それを村人は知って、隠している」


「、、、どうしてわかったのですか?」


「会話の所々で、詮索されていた。恐らく探りを入れるために夕食に誘ったのだろう」


「気付きませんでした、、、。 でも、隠しているのなら、村の方々に尋ねても、教えて頂けませんわね?」


それにはターロが応えた。


「いるということが分かれば、探しようはいくらでもあるよ。まあ、全ては明日だね。おやすみ」


といってその日はぐっすり寝た。

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