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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第四章 草原の国 ”スケロス”
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4-4 草原で

「ターロ様、、、。あれはないです」


部屋に戻ってきたメトドはターロに抗議した。


「え? 何が?」


大賢者の手記を光らせて読んでいたターロは(とぼ)ける。


ドーラはターロのお腹の上で夢の中だ。


「二人きりにして置き去り、は流石にやめてください」


「置き去りって。 いやいや、女性の相談相手は、イケメンの役目って昔から決まっているでしょ?」


「イケメン?」


「いい男ってことだよ」


ターロは、にやっと笑う。


「からかわないでください」


「いや、これは真面目な話。テュシアーがメトドさんを憎からず思っているのは間違いないんだからさ、ちゃんとしなよ」


「タ、ターロ様、、、」


「じゃ、おやすみ」


メトドに言い返す間も与えずターロは光を消して寝てしまった。


その後しばらくの間、メトドはまんじりともしなかったようだった。


よく朝、メトドとテュシアーは明らかに寝不足といった顔で起きてきた。


片や他の三人はスッキリとしている。


酸乳(ヨーグルト)に切った果物を入れた朝食を食べながら、これからどうするか話す。


先ずは国境近くの天馬の棲息地って所に行ってみよう、という事になったので移動手段を探してみる。


しかし首都まで行く馬車なら見つかるが、国境近くまで北上するようなものはなく、草原を突っ切って歩くしかないという。


三日もかからないというので、歩くことにして食料などを買い込み出発した。


「こりゃ気持ちいいな。歩きでよかった」


街をでるとすぐに草原が広がる。


遠くに見える山脈まで視界を遮るものがない。


「笛を吹くのにはもってこいだ」


ターロはアウロを誘う。


二人で笛を出して歩きながらの即興演奏。


風の精霊が寄ってくる。


大地の精霊も草の間から顔を出している。


一寸魔力を込めて吹くだけで、それを浴びてこの世での仮染の肉体を得た精霊で周りは一杯になった。


その精霊達が踊りだす。


それ見てターロも踊りだす。


アウロもドーラも踊りだす。


御伽話(おとぎばなし)の一コマか、、、


白昼夢でも見てるのか、、、。


「メトド様、、、私は、夢を見ているのでしょうか?」


呆然とするテュシアーに、


「これがターロ様と旅をするということだ。直ぐに慣れる」


とメトドが笑って返した。


一頻(ひとしき)り踊ると、躰を作っていた魔力が尽きた精霊達は精霊界に還っていく。


「あ〜、楽しかったねぇ」


三人も踊り疲れたようで休憩となった。


茣蓙(ござ)を敷いて、道具を出しお茶を淹れ始めるターロ。


「本格的な茶道具、、、」


テュシアーは目の前に並べられた茶器があの小さな背嚢のどこにどの様に収納したされていたのか、と不思議がる。


「どうせ飲むんだったら美味しい方がいいっしょ」


とターロ。


「これらは、ターロ先生がこの為にお作りになったのでしょうか?」


「そうだよ、便利でしょ?」


テュシアーに、これら、と言われた薬缶と水袋はターロが作った魔道具で、それぞれ加熱と空気中の水分を集める魔法陣が施されている。


水袋から水を注ぎ、薬缶の魔法陣に魔力を込めると、五分もすれば必要なだけのお湯が沸いた。


水袋は空になったが、歩いているうちにまた溜まるという。


「そういえば、、、魔法陣で思い出したんだけれどさ」


ターロがメトドとアウロに、


「ユーキリスさんの商館で天使が消えたでしょ? 魔法陣で」


頷く二人。


「あれ、ずっと不思議に思っていたんだよね」


「不思議に?」


「うん。なんで魔法陣? って。詠唱でよくない?」


「確かに、、、」


「でさ、昨日の夜、イッヒーさんの手記を読んでて見つけたんだけれどさ、天使って詠唱魔法使わないらしいんだ」


「? 、、、では、魔法をいちいち魔法陣で発動するということですか?」


「うん」


「なぜまた、その様な面倒な、、、」


魔法陣は設置しておけば魔力を流すだけで魔法が発動するので、今使っている薬缶や水袋のように何度も使うのには便利だし、魔力の消費量も少ない。


しかし設置には時間がかかる。


戦闘には不向きである、というのが常識だ。


「でも天使的にはそんなに面倒じゃないらしいんだ。天使の攻撃にさ、頭上に魔力の光輪を作ってそれを飛ばす、ってのがあったんだけれどさ、あの光輪、使い方がまだあるらしくって、、、」


手記によると、ターロが受けた様な、刃物の様な直接的な武器として使う光輪以外に、あの”輪”に魔法陣を転写して任意の場所に飛ばし、魔法を発動させるという使い方があるらしい。


脳内での像が、そのまま光輪状の魔法陣となるので、手描きは勿論、詠唱と変わらない速さで具現化出来る、と手記にはあった。


「なんか、天使って、変じゃない? 人族と違いすぎる。見た目は人に翼が生えただけなのにさ」


「そうですね、、、」


ターロは、さあ、お茶がはいったよ、と皆に注いでまわる。


「、、、美味しい、、、」


一口飲んで思わず呟くテュシアー。


「ね、ちゃんと淹れた方がいいでしょ? この国、食べ物はあれ(・・)だったけど、茶葉はいいのがあって良かったよ」


とターロはニコニコしながら言った。


お茶を片手に立ち上がって北を見る。


「あの山の稜線が落ちた辺りの更に向こう側に、この体の持ち主、ライン王子の故国があるんだね、、、。なんか感慨深いな、、、」


とターロは遠くを見ながら言った。


そして皆に訊く。


「そうだ、皆は、ホーフエーベネが、どうして連邦に加盟しなかったか知っている?」


「、、、そういえば、加盟ではなく同盟でしたね。何故でしょう?」


とテュシアー。


王子が留学する位の密な同盟関係だったのだから加盟でもよかったはずだ。


メトドもアウロも知らないらしい。


ドーラは人間界のことなど知るわけもなく興味もないので、甘いお菓子とお茶に集中している。


「やっぱり公表はされてないんだね」


と呟いてから、


「ライン王子の記憶ではさ、王国の奥深くに、”墓所”って呼ばれる秘密の場所があってね、そこは王とその後継者しか入れなくって、それを知られるのを避けるためにできるだけ独立を保つ必要があったみたい」


山の向こうを見つめながらターロが言う。


「墓所、、、」


「うん。その”墓所”がどんなところなのかはさ、まだ、ライン王子も知らされていなかったんだ。成人した時に儀式の一つとして初めて教えられる事になってたらしいんだよね。でさ、その”墓所”が、帝国の侵攻を受けた理由なのかな、って、今思った」


国家の秘密ばらしちゃった、と戯けて笑うターロ。


しかしその心中は複雑なものだろう、と皆は察するのだった。

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