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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第四章 草原の国 ”スケロス”
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4-2 街の噂

「では連邦会議で会おう」


「はい。お世話になりました」


「何を言う。世話になったのは此方だ。新しい名物に、守り神、、、。本当に礼の言葉もない」


国境の関所まで付き添ってくれたアルテューマとサッカル。


関所での検問はアルテューマが身元保証をしてくれたので、一瞬で済む。


「お父様、行って参ります」


「うむ。道中の無事を祈っておるぞ。成長した姿をケパレーで見せてくれ」


それぞれの別れを済ませると、一行は検問所の向こうに足を踏み出した。


この街はスケロスの東西に広がるスケロスの南の国境線、中央に位置している。


スケロスの首都”ポーロス”は北東の川岸に位置する。


たどり着くには国を縦断する必要があるが、今、首都に用はない。


先ずは前将軍アソーティタの遺児、カルテリコスを見つけ味方に引き入れる、というのが昨日皆で出した結論だ。


しかし彼は二年間も行方不明。


反逆者の遺児とはいえ、未だに国民は反逆その物に納得がいっていないのでカルテリコスには同情的だという。


よって現将軍からカルテリコス探索の命令が出てはいるが、本腰を入れて行われてはいない。


「情報収集するにしても、他所者(よそもの)がそんな事嗅ぎ回ると、怪しまれるよな〜」


とターロ。


「かと言って、何の手がかりも無しに探すには、この国は広すぎます」


メトドが冷静に指摘する。


「だよねぇ。しょうがない。先ずは宿をとって、酒場へ行こうか?」


「もう呑むんですか?」


アウロが呆れたように言うが、


「アウロ君、分かってないね〜。情報は常に酒場に眠っているんだよ。優秀な探偵が酒を愛するのはそのためさ」


「タンテイ?」


きっと異世界の言葉だろうが、どちらにせよ酒を呑む口実に使っているだけだろうから誰も深くは追求しなかった。


検問所の衛兵にお薦めの宿を聞き、そこをとる。


旅の仲間は五人になったので、流石に一部屋というわけにはいかなくなった。


男性三人が中部屋、女性二人は小部屋を借りる。


「前払いしておきますよ。近くにいい居酒屋ありますか?」


と受付で少し色を付けて支払い、教えてもらった宿から三軒隣にある食堂にやって来た。


「近くてよかったね」


席に着くと早速、おすすめを酒とともにたのむ。


出て来たのはツォイワン(焼きうどん)ホーショル(揚げ焼き肉饅)


そしてアイラグと言う名の馬乳酒。


「先生、、、」


アウロの困り顔。


「うん 、、、悪くない。悪くないけど、、、ひと味足りないね、、、」


味付けは基本、塩と胡椒のみ。


様々な香辛料で風味を出していたオステオンの郷土料理と比べると、いかにも物足りない。


そして酒。


「私は、これ好きです」


と言うメトド。


テュシアーも同意しているが、ターロは不満げだ。


それもその筈。


酒精が弱い。


ターロからすると、これ本当に酒? というかんじだ。


酔う前に腹が膨れるだろう。


「テュシアー。早速お父さんに手紙を書きなよ。商売の好機だってね。香辛料とか酒とかめちゃくちゃ売れるよ」


スケロスが連邦設立時の曰付きの国である為か、オステオンが閉鎖的だからなのか、もしくはその両方かは分からないが、あまり交流が盛んではない二国間。


だが、胃袋は国境を越える。


食で両国民が少しでも仲良くなれば、連邦全体のより強い結束に繋がる。


結構大事なことだからね、と真顔でターロに言われ、テュシアーは神妙に頷いた。


酒を諦めたターロは聞き込みを始める。


「少し教えてほしいんですけれど、、、」


給仕に小銭を握らせて、カルテリコスの事を尋ねた。


観光客の興味本位、という態度をとっておく。


その給仕からは、カルテリコスは前将軍の亡骸を奪って出奔後行方不明という、オステオンにも伝わっている話以外に、ニつの事を聞けた。


一つは、噂の域を出ない不確定情報で、カルテリコスはこの国の北、ケパレーとの国境近くに潜伏しているというものだった。


「何故北?」


とターロに訊かれた給仕曰く、


「あの地域は野生のペガサスの生息域だとかで、、、」


「なる程、、、。噂って言うけれど、結構、信憑性は高いと思うなぁ、、、」


もう一つは、噂ではなく確実な情報。


「カルテリコス様の生まれる前からの許嫁でしたモノミロス様とその母上様が、、、自害なさって、、、」


何でも、現将軍レマルギアに輿入れをしつこく強引に迫られたらしい。


モノミロスの家は彼女の父が早世したこともあり、今でこそ零落とまでは言わぬものの、中央への影響力は失っている。


しかし祖父、ピュペレーはスケロス平定時に自分の命と引き換えに国民の助命を願い出た偉丈夫で、この国で知らぬ者はいない。


ポロス前王と大賢者イッヒー。


たった二人を相手に、スケロス軍は大敗を喫した。


併呑されても仕方のない所をピュペレーのお陰で独立を保てた、と国民は未だに彼に敬意を払っている。


その娘と孫が、現将軍によって死に追い込まれたという。


国中その話で持ちきりだそうだ。


前の将軍様の愛馬もレマルギアに殺されたようなもんですよ、と給仕は付け足した。


「カルテリコス様が北に潜伏しているって噂はあてになりませんよ。だって、、、」


と給仕は言うには、


親や祖父母同士が決めた婚約とはいえ、モノミロス様がこのような事になったのに、出ていらっしゃらない、って事は、カルテリコス様はもう存命ではないのか、国内にはいらっしゃらないのかも知れない、というのが市井(しせい)の大方の見方だそうだ。


ターロたちは、給仕が皆に”様”を付けているのに、現将軍レマルギアにだけは敬称の類を一切付けていない事に気付いていた。


「なんか、一騒動ありそうだね」


話を聞き終わったターロは眉を(ひそ)めてそう言うのだった。

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