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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第四章 草原の国 ”スケロス”
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4-1 レマルギア

「何故だ!!」


レマルギアは一人、部屋で怒声をあげた。


ここは平原の国”スケロス”。


その最高指導者である”将軍”の執務室だ。


この国は連邦設立時、最後までケパレーに抵抗し支分国の中で最も遅い加盟となった。


最初期の加盟国は、連邦設立の中心人物である大賢者イッヒーの方丈がある樹海の国”ケイル”。


そして大賢者に祭壇への生贄の件で恩義を感じている砂漠の国”オステオン”だった。


ついでその二国に挟まれた、利に敏い商人がいる海の国”ブラキーオン”が加盟。


更にケパレーから見ると西に位置し、帝国とのいざこざが絶えない山岳の国”プース”が加盟した。


最後まで抵抗していたスケロスには連邦設立の父、前ケパレー王ポロスとその盟友である大賢者イッヒーがたった二人で乗り込み、平定。


そのスケロスが二年前反乱を起こした。


連邦設立から四十三年目の出来事だ。


首謀者は前将軍アソーティタ。


鎮圧後、ケパレー国王オルトロスは領地没収などの強行策は採らず、スケロス内で解決することを望んだ。


スケロス国民はオルトロスに感謝するも、この内乱には疑問をもっていた。


そもそもアソーティタに反乱を起こす理由などない。


連邦設立時には確かに色々あったが、その後のケパレーの政治は完全に連邦会議の決議に沿ったものであり、良くなった事は数あれど悪くなったことなど何もなかった。


では、アソーティタが失脚して最も得をするものは誰か?


それが現将軍であるレマルギアであることは、国民の誰もが知っていた。


この国は建国以来、両統迭立(てつりつ)で後継者を定めている。


建国者の息子が双子だったため、それぞれの子孫が交代で将軍職に就く制度だ。


その慣例に(のっと)り正当にアソーティタが将軍職に就いたわけだが、レマルギアは面白くない。


自分より若いアソーティタが将軍になったという事は、彼が死にでもしない限り自分が将軍になる日など来ないという事だ。


両統迭立とはそういうものなのだから仕方がないのだが、レマルギアは納得できなかった。


そして内乱がおき、その最中(さなか)アソーティタは戦死。


ケパレーから、内乱の処理を国内で、と任されたおかげでレマルギアは念願の将軍になれたというわけだった。


そのレマルギアには忿懣(ふんまん)の種が二つあった。


ここ平原の国スケロスでは、馬を乗りこなせなくては一人前とはみなされない。


特に最高の戦士は天馬(ペガサス)を乗りこなせる者とされている。


前将軍も立派な天馬を駆る者(ペガサスライダー)として、国民の尊敬を集めていた。


現在この国には、ペガサスライダーが五人いる。


いや、いた、と言うべきか。


前将軍の遺児、カルテリコスは若くしてペガサスに選ばれた英傑だったが、内乱後、愛馬とともに前将軍の遺体を奪って出奔。


依然として行方が知れない。


よって、戦力として国が抱えるペガサスライダーは四人。


その中にレマルギアは入っていない。


それどころかあの内乱後、普通の馬でさえレマルギアに乗られると不快そうに暴れることがしばしばである。


そんな様子をみて古くからの臣の中にはカルテリコスを探し出して将軍にすべし、と公言する者まで出てきた。


それがレマルギアを更に苛立たせる。


アソーティタの愛馬はレマルギアが乗ろうとしても頑として受け入れず、彼を蹴り殺そうとまでした。


その時は周りの者が取り押さえ事なきを得たが、今でも悪夢として彼を(さいな)んでいた。


それ以来、アソーティタの愛馬は食べ物も一切口にせず、餓死してしまった。


国の象徴とも言える前将軍の天馬の餓死は不吉な心象を国民の間に広める。


せっかく将軍になれたのに何もかも上手くいかない。


もう一つ思い通りにならない事は、カルテリコスの許嫁、モノミロスだ。


彼女は出奔したカルテリコスに操を立て、未だ独身でいる。


以前から彼女の美貌に目を付けていたレマルギアは将軍就任後、己がもとへ輿入れするよう命じるがモノミロスはそれを拒んだ。


将軍への輿入れを拒むなど考えられない、とレマルギアは憤ったが、あまり強引に事を進めては権力を笠にきて人の許嫁を奪った様に思われるので、この二年我慢してきた。


しかし、もうそれも限界だ。


「何故だ?! カルテリコスは二年も前に出奔し、行方も知れん。そもそもやつは罪人の息子だ。婚姻の約束など無効だろうが!」


怒鳴るレマルギアに、モノミロスは下を向いたまま応える。


「何度も申しますが、私はどなたにも嫁ぐつもりはございません。たとえそれが将軍様だとしてもです。お引き取りください」


顔を見せないその態度にも腹が立つ。


自分は将軍だぞ? 分かっているのかこの女は? 何故こんなにも頑迷なのだ? 拒んで何の得がある? 得? そうか!


自分が嫌われているから、などとは露ほども思わず、下劣な思考を廻らして辿り着いた答えを口にした。


「なるほど、輿入れの支度金が足りぬと言うのか。年老いた母に楽をさせたいか? 殊勝なことだ。いいぞ。どれだけ必要だ? 言い値をだそう」


これが目当てなのだろう、と自信満々に言い放つ目の前の初老に差し掛かった中年男を汚いものを見るようにし、


「お金などいりません」


と吐き捨てるように言うモノミロス。


拒否の言葉を返されるとは思ってもみなかったレマルギアは、一瞬理解が追いつかず固まるが、


「だったら何が目的だ! いい加減にしろ! 将軍の命を拒否し続けるなどありえぬぞ! 下手に出れば付け上がりおって! もうよい、此方にも考えがある! お前がどう言おうと必ず輿入れさせてやる!」


と捨て台詞を残して部屋を出た。


そして執務室に戻りひとしきり怒鳴り散らした後、どうすれば彼女を手に入れられるか考えを巡らせ、下卑た笑いを浮かべるのだった。

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