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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第四章 草原の国 ”スケロス”
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4-0-2 アウロ イン ワンダーランド 2

少し長めになってしまいましたが、切りどころがなかったのでこの形での投稿としました。

最後までお付き合いください。

『あら、ターロ達が、心配しているわ。大丈夫ですのに。でも、余り待たせる(・・・・)のも悪いから、私の用事を先に済ませましょう』


と大精霊はアウロに微笑む。


『アウロ、魂力が発現した事ですし、少し早いですが成人の儀を行いましょう。あなたは何を求めますか? 魔術師らしく杖? 兄のような弓? それともターロの様な変わった武器?』


不意に聞かれるが、前から答えは考えてあったらしく、考えることなくアウロは言った。


「ぼ、僕、、、先生の木刀のような武器にも、、、でも魔法の杖にもなる物が欲しい!」


一瞬呆気にとられる大精霊。


しかし少しして湧いてくる笑いを噛み殺し、


『、、ふふふ、、、欲張りさんね。いいわ。じゃあ、魔法を操る助けになる杖にも、武器にもなるもの、、、こんなのはどうかしら?』


大精霊は右手に一本の全く飾り気のない棒を握っている。


その飾り気のなさが逆に凄みを感じさせる。


『これはね、ターロの世界で、杖術という武術に使われるの。使い方は彼に習いなさい。勿論魔法の杖としても使えるわ。それから欲張りさんのあなたにもう一つ、、、』


と左手を出す。


『これは精霊樹でできた鼻笛よ。木製だから、あなたの里の陶製の物のような遠音はしないけれど柔らかくて優しい音が出るわ。曲に合わせて使い分けてみて』


顔を輝かせてアウロは二つの贈り物を受け取る。


「わぁ〜! ありがとう!! 大切に使います! 、、、でもどうして二つも?」


大精霊はアウロの疑問に微笑む。


『あなたは私にとってある意味特別な存在なのです。生まれたときから、いいえ、生まれる前から見守ってきました。彼らは時間が限られているから、先ず私から簡単に説明しますね』


「彼ら?」


何の事だか分からないアウロ。


『ええ、そうです。あなたの、お父さんとお母さん』


「え!?」


『アウロ。あなたは兄と年が離れている理由を聞いていますか?』


「はい、、、兄のあとに生まれた赤ちゃん達、すぐ死んじゃったって、、、」


『そうなのです。でもあなたの両親は諦められなくてね。私のところへお願いに来ました』


「え? 大精霊様に?」


『そうです。それは何度も何度も。毎晩二人でお願いに来ましてね。千日目の夜、、、』


「千回も、、、」


『驚くでしょ? 私も驚いたの。千回もお願いされては聞き届けないわけにはいかなくなってね、葉を分けてあげました。煎じて呑むように、って』


「精霊樹の葉のお茶、、、」


『そうです。精霊樹の葉茶は、人族が飲めば弱った体を癒やします。あなたのお母さんはその時、体を悪くしていたの。本人は気付いていませんでしたけれどね。それが理由で子供を授からなかった。でもお茶を飲んで、何とかあなたを産めたのよ』


「、、、そうだったんだ、、、」


『あなたが精霊使いの才を持っているのはそのお茶が理由。でもこの事は帰ってから広めないでね』


「、、、は、はい」


そんな事が広まれば欲をかいた者が、精霊樹の葉を手に入れようと大変なことになるくらいアウロにも想像がついた。


『その後、あなたのお母さんの体調が悪くなってね。もうお茶を飲んでも直らないくらいになっていました』


「、、、、、」


アウロはべそをかきながら聞いている。


『あなたのお父さんは薬草を取りに山へ向かって、谷で足を滑らせて亡くなりました』


「え!」


父が亡くなったことは聞いていたが、理由は知らなかった。


『お父さんは死ぬ間際に私に強く願ったわ、あなたの事を頼むって、、、』


「ぇっ、、ぇっ、、お、、お父さん、、、」


(しゃく)り上げるアウロ。


『お母さんも亡くなる前にね、辛い体で夜、私の所まで来て言ったの。あなたの事が心配で死にきれない、って』


「、、お、、おがあざん、、ぇっ、、、」


『精霊の声を聴く事が出来たあなたは、里では浮いた存在だったでしょ?』


「はい、、、僕が来ると、急に風が吹いたり、水がはねたりするから、、気味悪いて、、、、何時もぼーっとしてて、、、誰もいないのに話しして、、、変な子だって、、、」


『ごめんなさいね。皆には、まだアウロに話しかけても聞こえないんだから止めなさい、って言ったのですけれど、、、聞かない子ばっかりで、、。 それを心配して、あなたの両親は私に強く願ったのです』


泣いているアウロの肩に手を置いて大精霊は続けた。


『その心配の原因は私達精霊にあるので、例外として二人の願いを聞き届けました』


そう言ってアウロの顔をあげさせて、


『二人が死んでしまうのは自然の摂理。私には止められないし止めるべきではないわ。でも魂の一部を精霊樹の中で保管したのです。二人があなたを見守り続けられるように』


そうアウロの目を見ながら言った大精霊は、精霊樹に方に振り返って、


『精霊樹の中に魂を留められる事も、物質界で決して口外しないでね。 、、、さあ二人共、出ていらっしゃい、、、』


「え!」


驚くアウロ。


そこには微かに記憶のある父と母の姿があった。


「立派になったなあ、、」


「アウロ、、、大きくなって、、、」


父と母が声をかける。


「ああ、、、おおおとうざーん、おがあさーっん!!」


駆け寄るアウロを二人は力強く受け止めた。


「ぇっ、、ぇっ、、あ゛、あいたかった〜、、、」


泣きじゃくるアウロを強く抱きしめ、


「お父さんも、お母さんもだよ」


「顔をみせておくれ」


マジマジと顔を見てから、また抱きしめる。


「お父さんな、、、メトドさんに、そんな薬草、迷信だから、って言われていたのに、山へ入っちゃってな、万病に効くって薬草、探しに行っちゃってな、、、足滑らせて、死んじゃったんだよ、、、ゴメンな、先に死んじゃって、、、」


「もう、あなたは昔っからおっちょこちょいで、、、死ぬときまでそんな死に方、、、」


「あはは、俺らしいだろ?」


「ばかねえ、、、」


そんな夫婦の会話にアウロは、


「、、、へ、へへへ、、、なんか、仲いいね。よかった、、、」


と泣きながら笑う。


「何だい、アウロに笑われちまったじゃないか、、、」


「そりゃ笑うわよ、ねえ、アウロ」


「そんなことより、旅はどうだい? 急に旅立ったから心配でさ。精霊達が知らせてくれるんだけど、何言ってるか分からなくて、、、」


風の精霊の報告は、確かに何を言っているのかわからないもんな、皆好き勝手にしゃべるから、、、とアウロも思った。


「とっても楽しいよ。不思議なことでいっぱいだし。先生、、、ターロ様と一緒にいると飽きないよ」


「まあ、飽きないだなんて。そんな言い方するもんじゃありませんよ」


「えへへ、、」


母親に窘められるがそれも嬉しい。


「ターロ様、といえば、あの精霊樹の前で鼻笛を吹いた方だろ?」


と、父に訊かれる。


「そうだよ。すっごく上手なんだ」


「ああ、聴いていたから知っているよ。あれには驚いたな。まるで自分たちの気持ちが曲になったようだったからね」


「本当に、、、おまえを授けてくれた精霊樹への感謝は、、、あの曲がぴったり表してくれたわ」


「お父さん、、、お母さん、、、、」


「あの方のお側に居るのなら大丈夫だろう、安心して消えられる、、、」


「消えるって?」


「アウロ、さっき大精霊様が言っていた通り、お父さんとお母さんはもう死んでいる。大精霊様のお情けで、魂の欠片をこの精霊樹に留めておいてもらったんだ。お前の成長を確認できた今、もう消えなきゃならないんだよ、、、」


「そんな! やっと会えたばかりなのに! 色んな話、聞いてもらいたいのに! 僕、僕、魔法使えるようになったよ! 先生ほどじゃないけれど、鼻笛だって、上手になったんだ! 精霊だって一緒に踊ってくれるんだよ! お父さん! お母さん! 僕の笛、聴いてよ!」


アウロの言葉を、うん、うん、と涙を流して、頷きながら聞いている二人。


その輪郭は薄れていく。


それを見たアウロは焦ってもっと色々聞いてもらおうとするが、何を言えばいいか分からなくなる。


そんなアウロをもう一度抱きしめて、頭を撫でながら、


「大丈夫。お父さんもお母さんも、全部見ていたよ、すごいな、アウロは。本当に立派になった。ターロ様、メトド様に感謝してもしきれない。これでお別れだけれど、、、心はずっと側にいるからな」


「幸せになるのよ、アウロ。愛しているわ」


「おお、、、おおおおおとさんっっおか、おか、おかあさんん、、、」


アウロを抱きしめる腕は、


温もりを残して、


終に、、



消えた。


自分を抱きしめるようにして慟哭(どうこく)しながら(うずくま)っているアウロ。


少し離れて一部始終を見ていた大精霊が、


『アウロ、、、大丈夫ですか? 今は辛いでしょうが、、、、』


「、、、いいえ、大精霊様、、、父と母に会わせてくれてありがとう。本当なら話すことなんて絶対に出来なかったのに、、、」


『、、、あなたは強い子ね。そう言ってもらえて、良かったわ』


と言ってアウロを撫でた。


『、、、さあ、ターロ達が心配しています。物質界にお帰り』


そこでアウロの意識がふっと白くなり、気がつくとターロの腕の中にいた。


その腕の温もりに、両親を思い出し、また涙が込み上げてくる。


そんなアウロにターロは優しく言った。


「いいんだよ、言いたくない事があるなら、言わなくても。いつかアウロが大人になって、話してもいい、と思えるようになったら、酒でも呑みながら聞かせてよ」


「、、センセ〜、、、」


なんてすごい人だ。


いつもはフザケているのに、大切なことはちゃんと分かってくれる。


こんな人に会えたんだ。


精霊樹に願ってまで自分を産んでくれたお父さん、お母さん、本当にありがとう。


僕は大丈夫です。


安らかに眠ってください。


アウロはターロの腕の中で泣きながら、そう、両親に語りかけていた。

次回第四章始動、乞御期待

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