4-0-1 アウロ イン ワンダーランド 1
3-9でのことです。
「これが、、、水の精霊界、、、」
地下用水路に手を浸して集中したアウロは、フッと体が軽くなったように感じた。
目を開けると、もう自分は元の中央公館の用水路に手を浸したりはしていない。
なのにその手には水に触れている感覚がある。
その感覚の正体はアウロの手を握る透き通った女性だった。
『よくきたわね、アウロ』
「あ、あなたは、、、水の精霊?」
『そうよ。いつもなら私があなたの世界に行くのだけれど、今回はあなたをこちらに呼んだのよ』
「? どうして?」
『あなたに会いたがっている人達がいるの』
「僕に?」
『そうよ。連れて行ってあげるから手を離さないでね』
と言うと水の精霊はアウロの手を引いたまま見えない流れに乗って動き始める。
「わあ〜ぁ」
川下りの様だ。
どこまでも深い青さの中で流されているアウロの戸惑いに配慮する様子もなく水の精霊が、
『アウロ、着くまでにあなたの知りたい事を教えてあげる』
と、火の精霊封印の顛末を話し始めた。
その話が終わると、
『さあ、もうすぐ着くわ。精霊界はね、精霊ごとに世界が分かれているの。でも重なっているところも結構あって精霊同士が行き来することもあるわ。そして、ごく稀に全ての精霊界とあなた達の住む物質界が重なっている場所があるの』
そう言って水の精霊は行く先を指した。
「わあ〜」
アウロが驚嘆の声を上げた。
『その場所に精霊樹は生えるのよ』
水の精霊が言うとおり、精霊樹が立っていた。
「あれは、僕の里の精霊樹でしょ?」
『そうよ。そしてあなたを待っているのも彼女たち』
「たち?」
『行けば分かるわ。後は精霊樹の大精霊にお任せするから、ここでお別れ。でもあなたの手から感じる魔力、私、気に入ったわ。あなたと契約を結んであげる』
「契約?」
首をかしげるアウロに、精霊は笑って言う。
『まあ、最近の人族ったら、しょうがないわね。精霊との契約の事を忘れてしまったの?』
「ごめんなさい、、、」
『あら、貴方が謝らなくてもいいのよ。契約と言っても簡単。貴方が私を少しの魔力と引き換えに呼んでくれれば、私はどんな所でもあなたを助けに行くわ』
「呼ぶの?」
『そう。あなたの名に於いて私の”真名”を心の中で呼んでくれさえすればいいの』
「マナ?」
『そうよ。存在に刻まれた本当の名前の事。これを教えるのは特別なんだからね。私の真名はね、、、、、』
と言って、水の精霊はアウロに真名を告げた。
それは物質界で聞くことのない、不思議で、しかし美しい音だった。
「ありがとう。本当に助けが必要になったらお願いするよ!」
『うふふ。ええ、きっとよ。じゃあ、もう着いたから、、、』
そう言うと水の精霊はアウロの手を離した。
「わあ!」
急に手を離され、落下するような感覚に驚くアウロ。
ぽちゃん!
水の塊から出たような感じがしたと思ったら、地面に足がついていた。
草原の先にはアウロを待つかのように精霊樹が立っている。
確かに枝ぶりは見慣れた里の精霊樹だ。
しかし、周りには建物もなければ里の者もいない。
ただ精霊樹が立っているだけだった。
ゆっくりと近寄る。
精霊樹の幹の前に、薄っすらと人のような形が見えたかと思うとだんだんはっきりしてくる。
いつかターロが見せてくれた、大精霊、その人だった。
『こんにちは、アウロ』
「こんにちは」
優しく微笑む大精霊。
『ごめんなさいね。魂力の発現したあなたと、どうしてもお話がしたくてね、水の精霊にお願いしたの』
「魂力、、、」
『そうよ。あなたの魂力。ターロに導かれて早めに発現したけれど、その力はあなたにもともと備わっていたものなのよ』
「え?」
『魂力には、先天的なもの・後天的なもの、いろいろあるけれど、精霊に関わるものは、大概先天的なものなのです』
少し話が難しく、首をかしげるアウロ。
『うふふ、難しかったかしら? 簡単に言うと精霊の言葉を聴く才能は殆どが生まれつきなのです。精霊の言葉が聴けるということは、自然の中の旋律を聴き取れるということ。だから吟遊詩人には精霊使いが多いでしょう?』
「、、、そうなんだ、、、」
なんとなく理解し始めたアウロ。
『残念ながら、大賢者イッヒーにはその才能がありませんでした。魔力はとても純粋で気持ちのいいものだったから、精霊たちはみな、イッヒーに話しかけようとしたんですけれどね、、、彼、音痴だったのです』
おかしくてたまらないと言うようにクスクス笑う大精霊。
そんな話を聞かされて、
「、、、誰にでも欠点はあるのですね、、、」
アウロは、そう言うのがやっとだった。




