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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第三章 砂漠の国 ”オステオン”
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3-22 封印を解く

「でも下にいる神官さん達は逃さなきゃ」


ターロがそう言うと、まだ風の精霊によるシンクロ(同調)が効いていたらしく階下から、


「我々も逃げません!」


「お仕えする事が決まったときにここで死ぬ覚悟は出来ています!」


そんな声が次々と上がった。


神官は生涯をここで過ごし、ここで死ぬのが(なら)わしだという。


来るときに見えた居住区の一角に歴代神官の共同埋葬地もある。


「、、、こうなったら、俺が失敗しなきゃいいって話だな」


ターロも腹を括った。


「こいつ等は、、、まあいいか」


ゼーロ達は邪魔なので下に蹴り落としておく。


ターロは、左手に精霊樹の木刀を握ったまま宝玉に右手を伸ばし、


「皆さん少し下がっててね。メトドさん、切っちゃって」


と、魔法陣の停止を頼む。


「止めました」


メトドの声とともに結界が消え始め、”中の物”への接触を阻むような感覚が薄れていく。


同時に魔力を宝玉の中へと伸ばせるようになった。


やはり魔法無効の結界は封印の副次的効果だった様だ。


「魔法使えるね」


祭壇の中から出てきて皆のそばに戻ったメトドと、緊張の面持ちでこちらを見ているアウロに短くしらせると、ターロは宝玉に集中する。


伸ばした魔力が火の精霊を包み抑えている”膜”のような物に到達したのを感じた。


(、、? なんだろこれ? 何も反応のない純粋な力、、、ああ、イッヒーさんの魔力か)


直接触れてみると、膜に転換された生贄の命ではなく、イッヒー大賢者が魔力でその膜と同じ性質の物を作って流し込んだのだと分かる。


詠唱魔法ではなく直接魔力を変質させて宝玉に流し込んだから出来たのだろう。


アウロのような精霊使いの感覚に頼ることなく仕組みを見抜き、厖大な魔力と精密な魔力操作を駆使して、この様な処置を施したのは流石だ。


更に深く探っていくと、ある意志を持った(かす)かな存在を感じる。


(ああ、、、まだ消えずに頑張っていたのですね、、、)


歴代の生贄の魂だ。


膜に転換された”命”とともにこの装置に取り込まれたのだろう。


もう薄れてしまって言葉でのやり取りは出来ないが、そこから伝わって来るのは、世界のために魔神を封じ込めねばならない、という使命感のような物だった。


(人はこれ程までに利他的になれるのだろうか?)


テュシアーの様に、自ら進んで生贄になった者もいるだろうが、ほとんどはそうではないはずだ。


それこそ騙されて権力者の身代になった者もいただろう、、、。


ターロは歴代の生贄にされた人々の冥福を祈る。


(もうすぐ解放しますから、、、安らかに眠ってください。そして、来世では幸せになってください、、、)


微かにお礼のような”振動”を感じるが、今は感傷に浸る時ではない。


(急がなきゃ、、、)


封印装置が停止した事で中の()が動き出し、イッヒーの魔力膜はそう長くは保たない、とターロの直感が告げている。


いよいよ中心へ。


火の精霊への接触を試みる。


圧倒的な力。


正義や悪といった概念とは無関係な、ただただ強大な”力”がそこにはあった。


(くうー、不味いな、でかすぎるだろ、、、、俺の手には負えんぞ、、)


一瞬ひるむが、思い直す。


 (そうだ、


  精霊魔法と詠唱魔法の違いを思い出せ、、、



  抑え込もうとしては駄目だ


  精霊は自然の力その物


自然の成り行きに近いように、、、


  そもそもなぜ暴走している?


  (からだ)を失った所為だ


  この世での躰があれば、暴走は止まる


取り込んだ太陽の力が顕現したような躰、、、、


  火は何を望むのか、、、、


  破壊、、、?


  破壊が(もたら)す無を欲する?


  否、、、、


  破壊の後には、、、


再生


  、、、そうか! )



結論を見出したターロは、自我が薄れただの力の塊と化した火の精霊に、ありったけの魔力と共にあるイメージを送る。


火の精霊はその魔力を貪欲に吸い込み、マグマが冷え固まっていくように、ターロの送ったイメージの通りに”躰”を顕現させていく。


ターロは、その顕現をより確かなものにする為に、魔法で補助する。




メテムサイコシス(輪廻転生)




宝玉から直視できぬ程の閃光が放たれたその瞬間、大きな炎の塊が噴き出す。


その塊は圧倒的な力を(まと)い大空へ


羽ばたいた(・・・・・)










不死鳥(フェニックス)






「おおおぉっ!!」


見上げるアルテューマが歓声を上げる。


気がつけば満天の星。


天の川を背にフェニックスは、三百年に渡る封印から解放され自由を楽しむかのように優雅に舞っている。


この世の物とは思えない幻想的な光景に、この場の誰もが空を見上げたまま呆然としている。


一人を除いて。


「くああぁぁ、、、」


呻き声に気付いて皆が我に返り、そちらを見るとターロが血の気の失せた顔で(うずくま)っていた。


顔色が悪いのは魔力枯渇の所為ばかりではない。


宝玉に当てていた右手が、まるまる無くなっていた。


「タ、ターロ様!!」


慌ててメトドが駆け寄る。


「痛って〜、、、マジ、泣きそう、、、」


深刻な事態の割に言葉が軽くて反応に困ってしまうのは毎度のことだが、流石に今回は笑うわけにはいかない。


「右手が、、、」


顔面蒼白のメトドに、


「うん、”あれ”が飛び出すギリギリまで、魔力と像を送っていたから、引っ込めるのがさ、、、間に合わなくってさ、、、持ってかれちゃったよ、、、すっごい熱量だったね、、、超痛い、、、」


ライン王子の魂力”抗う者”が無かったら気絶していただろうが、この場合、気絶できた方が楽だった。


皆、言葉も掛けられず狼狽えている。


その時、上空のフェニックスが、


「ケエェェェーーーーーーンッ」


と高啼いたかと思うと急降下してきて、驚く一同の注目の中、祭壇の上に舞い降りた。


炎そのものが躰の、”凰”(おおとり)


なのにこれだけ近くにいても、不思議と熱さは感じない。


躰を得たことで力を完全に制御出来るようになったのだろう。


そのフェニックスが口を開き、語りかけてきた。


『、、人族よ、、、』

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